ここでは、直近の「日経平均株価」について、PER・PBR、海外投資家売買動向、日銀ETF買い入れ、信用取引残高、信用評価損益率、騰落レシオといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.PER・PBR
まず、日経平均株価に採用されている企業の平均PER(株価収益率)についてです。
この平均PERと日経平均株価の値から、平均EPS(一株当たり当期純利益)を求め、その平均EPSに13~17の数値を掛け合わせて、PER 13~17倍に相当する株価の推移を日経平均株価とともに表したのが以下の図になります。
日経平均株価は、直近の急落によって、PER 13倍相当の株価水準を大きく下回ってしまっています。(3月19日の大引け時点では、PERは10.76倍となっています。)
今後は、リーマン・ショック後のように、株価急落のあとを追うようにして、EPSも減少していくことが予想されます。
次に、平均PBR(株価純資産倍率)についてです。
PERと同様に、平均PBRと日経平均株価から平均BPS(一株当たり純資産)を求め、そこから導き出したPBR 1~1.5倍に相当する株価の推移を日経平均株価とともに示したのが以下の図になります。
平均PBRにおいても、日経平均株価は、PBR 1倍相当の株価水準を大きく下回っており、3月19日大引け時点では、PBR 0.84倍となっています。
リーマン・ショック後にはPBR 0.81倍をつけていましたが、それに迫るほどの下落となっています。
2.海外投資家の売買動向・日銀のETF買い入れ
次に、投資部門別売買状況(投資主体別売買動向)から、海外投資家の売買動向について見ていきます。
海外投資家の売買代金の差引き金額を累計したものの推移を、日経平均株価とともに示したのが以下の図です。
ここしばらく、海外投資家は売り越し傾向となっていましたが、直近では株価の急落ほどには、海外投資家が売り越していないことが分かります。(2020年3月第1週と第2週は合計で8300億円ほどの売り越しに過ぎません。)
また、日銀のETF買い入れについても見ていきます。
ここでは、「設備投資・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象としたETFを含む、日銀の買い入れている全てのETFの累計額を見ていきます。
この日銀によるETF買い入れ累計額と日経平均株価の推移を示したのが以下の図です。
この図からは、直近で日銀のETF買い入れが加速していることが見て取れます。
さらに、日銀のETF買い入れ累計額と海外投資家の累計売買金額とを合計したものの推移を、日経平均株価とともに示したのが以下の図になります。
この図から分かるように、両者を合計したものは、日経平均株価と非常に強い相関を認めています。
しかし、直近の日経平均株価の急落に関しては、これらだけで説明することができないことも分かります。
3.海外投資家の売買動向(日経225先物)
そこで、上で見た海外投資家の現物株取引の累計額だけでなく、海外投資家の日経225先物取引の累計額についても見たのが、次の図になります。
すると、海外投資家の先物取引に関しても、売り越し傾向にはあるものの、とても直近の急落を説明できるようなものではないことが分かります。
4.信用売り残高と信用買い残高
続いて、信用取引残高(売残高と買残高)と日経平均株価の推移を示したのが、下図になります。
信用買い残高に着目してみると、赤い点線で示した1.2兆円の水準がおおよそのサポートラインとなっていそうです。
あるいは、信用買い残高と信用売り残高との乖離が縮小して、ほぼゼロとなったところが日経平均株価の底打ちという見方もできそうです。
5.信用評価損益率
では、信用評価損益率はどうなっているのでしょうか。
以下の図は、信用評価損益率(2市場(東証と名証))と日経平均株価の推移を示したものです。
一般に、信用評価損益率では、「-3~0%以上で天井圏」、「-15~-20%以下で底値圏」という見方がされます。
そして直近では、-31%と、リーマン・ショック後の-35.4%に迫る勢いとなっています。
6.騰落レシオ
最後に、25日騰落レシオについても見ていきます。
騰落レシオの推移を日経平均株価とともに示したのが以下の図になります。
騰落レシオは、40.11%と過去最低を更新しています。
騰落レシオは、リーマン・ショック前後でも50%台前半、過去最低は1993/11/29の50.52%でしたので、直近ではそれらを大きく下回る値となっているのです。
7.総括
現在の日経平均株価は、2019年の最高値およそ24100円から、直近の最安値およそ16350円まで、約32%の下げとなっています。
ちなみ、リーマン・ショック時の日経平均株価は、下落前の2007年の最高値およそ18300円から、2008年の最安値およそ7000円まで、約62%の下げとなりました。
ただ、ここまで見てきた各種の指標からは、今回のコロナショックによる株価急落は、既に過去の金融危機に類するものだと言えることが分かります。
そして、FRB(米連邦準備理事会)や日銀は、異例とも言える対応を見せています。
FRBは、3月3日に臨時のFOMC(米連邦公開市場委員会)を開いて、0.5%の利下げを行った後、3月15日にもFOMCを前倒しして開き、1.0%の大幅利下げに踏み切りました。
その結果、米国の政策金利は0~0.25%と2008年以来のゼロ金利政策となっています。
さらにFRBは、今後数ヵ月で、米国債を5000億ドル、MBS(住宅ローン担保証券)を2000億ドル購入する量的緩和も復活させました。
また日銀も、金融政策決定会合を3月16日に前倒しして開き、ETFとREITの年間購入目標額を、当面の期間はそれぞれ12兆円、1800億円へと倍増することを決定していました。
このように、日銀とFRBは異例とも言える対応を行いましたが、逆に言えば、日銀やFRBが次に打てる手というのが、非常に限られる状況となってしまったのも事実です。
では、日経平均株価がここから反発していくのかですが、本格的に反騰していくにはまだまだ時間を要すると思われます。
その要因の一つがリスクパリティ戦略です。これはボラティリティ(変動率)が高まると、自動的にリスク資産の持ち高を減らすというものです。
リスクパリティ戦略は年金基金での運用などにも採用されており、この戦略で運用される資金は株式以外も含めると100兆円とも言われます。
そのため、ボラティリティが高い状況がこのまま続くようだと、今月末にも大きな売りが出る可能性が高いのです。
他にも、日経平均リンク債という仕組み債が、もう一段の下落を引き起こす可能性もあります。
日経平均リンク債では、日経平均株価が一定範囲内での変動であれば、高利回りが得られる一方で、株価があらかじめ決められた「ノックイン価格」に到達すると、大幅な元本割れが生じてしまいます。
この日経平均リンク債の何が問題かと言うと、株価がノックイン価格に到達した際に、リンク債を提供している業者による、日経平均先物の売りが出てくるということです。
市場関係者によると、日経平均株価の1万5000円から1万6000円半ばにかけて1兆円単位のリンク債がノックインする可能性があると言います。
直近の3月19日の日経平均株価は、16358円の安値をつけており、上記のレンジ内にある日経平均リンク債がノックイン価格に到達し始めていることになります。
つまり、リスクパリティ戦略にしても、日経平均リンク債にしても、株価の下落がさらなる売りを招くことになってしまうのです。
なお、米国の例ではありますが、過去の弱気相場で、高値からの下落率は平均38%、元の水準に戻るまでの期間は、平均2年4ヵ月というデータもあります。
そして、2001年のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショックを振り返ると、第1波の下落が一段落した後、半年以内に第2波の下落が起きています。
現時点では、まだ第1波の下落が一段落したのかも分かりませんし、第2波の下落がやって来るのかも分かりません。
しかし、いずれにしても、これから半年の間に日経平均株価がさらに下落して、二番底を付けにいくような展開というのを想定しておくべきではないかと考えています。