相場のデータ・指標

「米国株(S&P 500)」のデータ分析(2019.9)(PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差)

ここでは、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.S&P 500とPER

まずは、S&P 500に採用されている500銘柄の平均PERとS&P 500の長期推移を見ていきます。

S&P500とPERの長期推移を示した図(2019.9)

そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。

S&P500とPERの直近の推移を示した図(2019.9)

この図から、1990年代後半以降では、ITバブル後やリーマン・ショック後のような特殊な状況を除くと、PERは概ね15倍~35倍で推移しているといえます。

そこで、同期間における、PERが15倍~35倍に相当する株価とS&P 500の推移を示してみたのが以下の図になります。

S&P500とPER別株価の推移を示した図(2019.9)

S&P 500は年初に急落していましたが、直近では最高値を更新するような動きとなっています。

なお、2000年前後のITバブル前にはPERが35倍近くまで上昇する場面もありましたが、2008年のリーマン・ショック前のPERは25倍程度までの上昇に過ぎませんでした。

つまり、PERだけで割高かどうかを判断するのには限界があることが分かります。

2.S&P 500とCAPEレシオ

次に、景気循環調整後の株価収益率(PER)である、CAPEレシオ(シラーPER)とS&P 500の長期推移を見ていきます。

S&P500とCAPEレシオの長期推移を示した図(2019.9)

そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。

S&P500とCAPEレシオの直近の推移を示した図(2019.9)

CAPEレシオでは、一般に25倍を超えると株価が過熱圏にあるという見方がされますが、直近では30倍前後での推移となっていることが分かります。

ちなみに、過去に30倍を超えたのは、1929年の世界大恐慌の前や、2000年のITバブルの時だけであり、2008年のリーマン・ショック前には25倍以上で推移はしていましたが、30倍まではいきませんでした。

また、CAPEレシオに関しても、15倍~40倍に相当する株価とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。

S&P500とCAPEレシオ別株価の推移を示した図(2019.9)

この図から、直近のS&P 500は、2000年のITバブル時ほどではなくても、2008年のリーマン・ショック前よりは割高な水準にあることが分かります。

また、2008年のリーマン・ショック前には、何年もの間にわたって、CAPEレシオが25倍を超えて推移していたことも見て取れます。

そういった意味では、CAPEレシオもPERと同様にこれだけで割高かどうかを判断するのには限界があり、相場転換のタイミングを計ることにも向きません。

PERやCAPEレシオはあくまで参考程度のものだといえます。

3.S&P 500とブルベア指数

続いて、代表的なブルベア指数である、Investors Intelligenceの Sentiment Index(Advisor’s Sentiment)について見ていきます。

このSentiment Indexについて分析している、Yardeni Researchのレポートから一部を抜粋したのが、以下の図です。

S&P500とブルベア指数の推移を示した図(2019.9)

この図では、Bull / Bear Ratioが3倍以上となっている期間が赤色の線で示されており、その期間では強気派が多いことを示しています。

直近では、赤線が密集した部分を抜けた後に、再び強気派が増加していることが分かります。

4.S&P 500と長短金利差(米国債利回り差)

最後に、長短金利差として、米10年国債利回りと米2年国債利回りの差(=10年国債利回り-2年国債利回り)を見ていきます。

※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年国債利回りを短期金利として扱っています。

そして、米国の長短金利差とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。(なお、見やすくするために、右軸の長短金利差のスケールは反転しています。)

S&P500と米国長短金利差の推移を示した図(2019.9)

この図からは、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック前に米国債利回り差が0%以下と、2年国債利回りの方が10年国債利回りよりも高い状態で推移する「逆イールド」と呼ばれる状態になっていることが分かります。

そして、今年2019年の8月末から9月初めには、この長短金利差(米国債利回り差)がゼロからマイナスとなっていました。

また直近においても、0.06%と非常に低位で推移しています。

5.総括

前回(2019年4月)の総括で触れていたように、米国株は今月初めに過去最高値を更新するような動きとなっていました。

そして、ここまで見てきたように、米国株の今後を占う上では、米国の長短金利差の推移に注目をしておく必要があると言えそうです。

FRB(米連邦準備理事会)は、今月9月17~18日に0.25%の利下げを行いましたが、どちらかといえば今後も引き続き利下げをすることが見込まれており、2年国債利回りも低下していくことが予想されます。

一方、米中貿易摩擦などにより、米国の景気減速も次第に鮮明になりつつあり、長期金利(10年国債利回り)も低下していく可能性が高そうです。

そういったことから長短金利差は、FRBの金融政策や景気の先行きの影響を強く受けるため、予測するのは困難です。

今回、4回目となる「逆イールド」が8月末から9月初めに発生していましたが、過去3回では逆イールド発生から景気後退までに、1年7ヵ月から2年10ヵ月の期間があり、その間にS&P 500が24~34%上昇する場面がありました。

もちろん、今回もそうなるとは限りませんが、今後、株価の大幅な調整が起こるにしても、それまでにはまだしばらくの時間的猶予があるのではないかと考えています。

というのも、FRBだけではなく、ECB(欧州中央銀行)も9月12日に政策金利をマイナス0.5%へと0.1%の引き下げを行い、11月からは量的緩和も再開すると決定するなど、先進国を中心に再び金融緩和の流れとなっているからです。

ただ、金融緩和にも限界はあり、現状は既に債券バブルの様相を呈しているように思われます。

あとはこの債券バブルとも言うべき状況が、どのような結末を迎えるかですが、終わりが近くなってくると、信用度の低い債券や証券から資金が大きく引き上げられていくはずです。

その信用度の低い債券や証券というのは、炭鉱のカナリアと称されることもある「ハイイールド債」や、「CLO(ローン担保証券)」になります。

具体的に、「ハイイールド債」については、「HYG」というETFの価格を見ればよいでしょう。

また、「CLO」というのは、低格付け企業への融資(レバレッジド・ローン)を束ねて証券化したもので、それに近いのが「BKLN」や「SNLN」といったETFですので、「CLO」に関してはこれらの価格を見ればよいと言えます。

直近では、「HYG」や「BKLN」は底堅い動きを見せていますが、「SNLN」は軟調な推移となっており、そういった意味では、債券市場は警戒域へと足を踏み入れつつあるのかもしれません。

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