ここでは、東証REIT指数について、株価指数や各種利回りなどといった観点から見ていきたいと思います。
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1.REITとは?
REIT(リート)とは、Real Estate Investment Trust(不動産投資信託)の略で、日本のREITは特にJ-REITと呼ばれたりもします。
このREITというのは、投資家から集めた資金と銀行からの借入金をもとに複数の不動産などに投資し、そこから得られる賃料収入などを投資家に分配する金融商品のことです。
REITは、株式やETFと同じように証券会社を通じて売買することができ、通常の不動産投資と比べて流動性(換金性)が高いといえます。
そして、REITの特徴は何といっても、その分配金利回りが高いことにあります。
これは、配当可能利益の90%超を投資家に分配するなどの要件を満たすことで、法人税が実質免除になるといったことが大きく関係しています。
ちなみに、日本の上場企業の平均配当性向(企業が純利益から株主への配当に回す割合のこと)は2016年度で約35%となっています。
2.REITの種類と東証REIT指数
現在、J-REITには59銘柄がありますが、それらが投資対象とする不動産には、オフィスビル、居住用住宅、宿泊施設、商業施設、物流施設、産業用不動産、ヘルスケア施設などがあります。
またJ-REITには、これらのうち単一用途に特化したものと、複数の用途に投資するものとがあります。
大まかにですが、住居系は景気に左右されにくいのに対し、それ以外の用途では景気が良ければ賃料や物件価格の上昇を期待できるといえます。
そして、東証に上場するREIT全銘柄を対象とした指数が東証REIT指数になります。
東証REIT指数は、時価総額加重平均型といって、基準日である2003年3月末の時価総額を1000として、算出時の時価総額がどの程度かを表したものです。
3.東証REIT指数とTOPIX
それでは、東証REIT指数の推移を同じく時価総額加重平均型の株価指数であるTOPIXの推移と併せて見ていきます。
東証REIT指数とTOPIXの推移(2003年3月末~)
この図における東証REIT指数とTOPIXには、相関係数が約0.91と非常に強い相関があります。
これだけ強い相関があると、例えば東証REIT指数に連動するETFとTOPIXに連動するETFを保有していたとしても、分散効果が大して期待できないということには注意が必要です。
一方で、2015年3月頃より両者の相関が崩れているように見えますが、実際に2015年3月以降の相関係数は約-0.51と逆相関になっています。
そして直近においては、東証REIT指数とTOPIXの乖離が拡大しています。
ただ、これだけでは何とも言えないので、NAV倍率や分配金利回りといった他の点からも東証REIT指数を見ていきたいと思います。
4.東証REIT指数とNAV倍率
まずはNAV倍率の方からです。
NAV倍率のNAV(Net Asset Value)とは純資産価値のことで、REITの保有する不動産の時価から借入金などの負債を引いたものになります。
そして、REITの価格が1口当たりのNAVに対して何倍であるかを示したのがNAV倍率で、次のように算出されます。
NAV倍率=投資口価格/1口当たりNAV(純資産額)
ここからも分かるように、NAV倍率は、株式におけるPBR(株価純資産倍率)に似た概念のもので、一般に1倍を下回ると割安であるとされます。
このNAV倍率と東証REIT指数の推移を表したのが以下の図で、赤い点線はNAV倍率:1倍水準を示しています。
東証REIT指数とNAV倍率の推移(2003年3月末~)
この図を見ると、NAV倍率は割安であるとされる1倍水準にまで下がってきていることが分かります。
ただ、東証REIT指数はNAV倍率に比べて下げ方が緩やかであり、乖離が生じています。
これは、REITの保有する不動産の時価が上昇しているためと考えられ、今後時価が減少してNAV倍率が反転上昇することも十分に考えられます。
そのため、さらに東証REIT指数が下落していくかどうかは微妙なところです。
5.東証REIT指数と分配金利回り
次に、分配金利回りについてです。
分配金利回りとは、正確には予想分配金利回りのことで、次のように算出されます。
分配金利回り=1口当たりの予想年間分配金/投資口価格
この分配金利回りと東証REIT指数の推移を表したのが以下の図になります。(見やすくするために、分配金利回りのスケールは反転させてあります。)
東証REIT指数と分配金利回りの推移(2003年3月末~)
ここでも相関係数を調べてみると、約-0.85と強い逆相関があります。
また、この図を見た限りでは分配金利回りはまだまだ低い水準で上昇余地があるように見え、そういった意味では東証REIT指数にもまだ下値余地がありそうです。
6.各種利回りの比較
さらに、この分配金利回りを、株式の配当利回りや長期国債の利回り(長期金利)と比較してみます。
REIT分配金利回り・東証1部株式配当利回り・10年債利回りの推移(2003年3月末~)
まずは、この図で10年債利回りの推移を見てみると、2007年頃から趨勢的に低下しており、ここ1年くらいは0%程度での推移となっています。
これは、2016年9月に日銀が金融緩和強化のために、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入し、長期金利については概ね0%程度で推移するように長期国債の買い入れを行うとしていたことによります。
そして10年債利回りは、今後もしばらくは0%程度で推移することが予想されます。
このように、長期金利はほとんどコントロールされてしまっているので、少なくとも直近においては、分配金利回りなどを長期金利と比較しても意味がありません。
次に、J-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りについてですが、両者のスプレッド(利回り差)の推移を表したのが以下の図になります。
スプレッド(REIT分配金利回り-株式配当利回り)の推移(2003年3月末~)
この図を見ると、リーマン・ショック前からスプレッドが大きく拡大していき、リーマン・ショック後の2008年10月に最大となっていることが分かります。
そして、ここ1年くらいでもスプレッドが上昇しています。
7.スプレッドの上昇に注意
ここで、このスプレッド上昇の意味について考えてみます。
ここ数年、世界的に低金利環境が続いている中で、相対的に利回りの高いREITや高配当株、ハイ・イールド債などが人気を博していました。
しかし、その低金利環境の背景となっていた、先進各国の金融緩和が縮小傾向にあります。
具体的には、米FRB(連邦準備制度)の利上げ、ECB(欧州中央銀行)の資産購入額の縮小決定、英中銀の利上げと、先進各国の金融緩和は日本を除いて縮小する方向にあるのです。
そして、今後さらに金融緩和が縮小され、投資家がリスク回避傾向となると、まずはリスクの高い商品が売られるようになると考えられます。
リスクの高い商品が売られるということはすなわち、その利回りが上昇するということを意味します。
ですから、相対的に利回りが高いということで過度に買い進まれて利回りが低下しているような商品には注意が必要で、その利回りが上昇してきた時にはさらに注意が必要です。
今後、このスプレッドがリーマン・ショックの時のように上昇を続けていくのかどうかに注目したいところです。