1.ギリシャ指標(グリークス)とは?
グリークス(The Greeks:ギリシャ指標)というのは、プレミアム(オプション価格)の変動要因を分析するのに使われる指標のことです。
なお、プレミアムに関しては、以下の記事で説明していますので、よろしければご参照ください。
グリークスは、オプションのリスク管理やポジションサイジングなどに活用されます。
グリークスには主なものとして、デルタ、ガンマ、セータ、ベガの4つがありますが、他にも、ローやラムダ、アルファ、ボマ、バンナなどがあります。
ただ、デルタ、ガンマ、セータ、ベガの4つ以外のものについて触れられることは稀です。
それは例えば、ローというのは、金利の変化によるプレミアムへの影響度合いを測る指標ですが、満期日までの残存期間が年単位と長いようなオプションでなければ、ほとんど考慮する必要がないためです。
また、上記の4つのグリークスに関しても、誤解を恐れずに言えば、最もよく使われるのはデルタであり、デルタについてだけ押さえておけば十分ではないかと思われます。
とはいえ、オプションの理解を深めるためにも、ここではそれら4つのグリークスについてそれぞれ書いていきたいと思います。
2.デルタ(Delta)
まずは、デルタについてです。
デルタというのは、原資産価格の変動に対するプレミアムの変動率のことで、以下の式で表されます。
デルタ=プレミアムの変化額/原資産価格の変化額
例えば、デルタが0.3であった場合、これは原資産価格が1ドル変化した際に、プレミアムは0.3ドル変化するということを意味しています。
そして、原資産価格の変動によるデルタの変化を見たのが以下の図です。
この図にもあるように、デルタは、コールでは0~1と正の値、プットでは-1~0と負の値をとります。
また、ディープ・イン・ザ・マネーになるほど、デルタの絶対値は1に近づき、プレミアムの変化額(絶対値)が原資産価格の変化額(絶対値)とほぼ同じになります。
一方、ファー・アウト・オブ・ザ・マネーになるほど、デルタは0に近づき、プレミアムが原資産価格の変動にほとんど反応しなくなります。
ちなみにデルタには、デルタを絶対値で見たときに、そのオプションが満期にITM(イン・ザ・マネー)となる確率を示しているという見方もあります。
これは例えば、OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)のプット・オプションのデルタが-0.4であったとすると(絶対値は0.4)、このオプションが満期日にITMとなる確率が40%であることを示しているという見方です。
3.デルタヘッジ
そしてデルタは、リスクヘッジの際の参考指標としても用いられます。
具体的には、オプションの価格変動リスクを回避するために、オプションと原資産を組み合わせて取引する際に用いられます。
このデルタを用いたリスクヘッジのことを、デルタヘッジといいます。
例えば、ATMのコール・オプション2単位を買い持ちしていたとします。
ATMのコール・オプションのデルタは0.5なので、2単位だと0.5×2=1となります。
ここで、原資産1枚の買いポジションではデルタが1、売りポジションではデルタが-1に相当します。
そのため、この場合は原資産1枚の売りポジションを持つことによって、ATMのコール・オプション2単位の買いポジションとの組み合わせで、デルタが相殺されることになります。
つまり、0.5×2+(-1)=0 になるということです。
なお、このようにデルタを0の状態(デルタ・ニュートラル)にすることによって、オプションの価格変動リスクを回避することを特に、デルタ・ニュートラル・ヘッジといいます。
ただ、一度デルタ・ニュートラル・ヘッジを行ったとしても、原資産価格の変動などにより当然デルタの値も変化するため、デルタ・ヘッジを行う際には、適宜ポジションを調整することも必要となってきます。
このような相場変動に合わせてポジション調整をしていくことを、ダイナミック・ヘッジといいますが、これについては次のガンマのところで簡単に触れたいと思います。
4.ガンマ(Gamma)
次に、ガンマについてです。
ガンマというのは、原資産価格の変動に対する、デルタの変動率のことで、以下の式で表されます。
ガンマ=デルタの変動幅/原資産価格の変動額
そして、原資産価格の変動によるガンマの変化を表したのが以下の図です。
数学的に言うと、ガンマはデルタの傾きを表しているため、前述したデルタの図を見ても分かるように、ガンマは常に正の値をとり、またATMで最大となります。
ここで例えば、OTMのコール・オプションを買い持ちしていたとします。
このとき、原資産価格が上昇した場合には、オプションがATMの状態に近づくにつれて、ガンマが上昇していくため、デルタとともにプレミアムが大きく上昇していきます。
逆に、原資産価格が下落した場合には、オプションがATMから遠ざかるにつれて、ガンマが減少していくため、デルタとともにプレミアムの減少度合いは緩やかなものとなります。
このように、ガンマはオプションの買い手にとって有利な概念であり、このガンマを得るためにオプションを買うともいえます。
また、ガンマの時間経過による変化を示したのが以下の図です。
この図から、ATMのオプションでは、満期日が近づくにつれて、ガンマが急上昇していくことが分かります。
これは、ATM付近の状態にあるオプションでは、満期まで原資産価格の変動による影響を受けやすいということを示しています。
5.ダイナミック・ヘッジ
さて、ここからは余談ですので流していただいて構いませんが、前述したダイナミック・ヘッジについて軽く触れておきます。
ダイナミック・ヘッジについてここで触れていくのは、ダイナミック・ヘッジを行っていく際に、全体としてのポジションがオプションの買い持ちとなっている状態をポジティブ・ガンマというためです。
逆に、全体としてのポジションがオプションの売り持ちとなっている状態をネガティブ・ガンマといいます。
そして、ダイナミック・ヘッジのメリットは、原資産価格が上下どちらに動いたとしても利益を上げられる可能性を生み出せることにあります。
しかし、ダイナミック・ヘッジにはデメリットも当然あります。
それは、ポジティブ・ガンマのダイナミック・ヘッジでは、原資産価格が上下どちらであっても大きく変動すれば利益が生じるのに対し、変動が小さい場合には損失が生じてしまうのです。
逆に、ネガティブ・ガンマのダイナミック・ヘッジでは、原資産価格が上下どちらであっても変動が小さければ利益が生じ、大きな変動によって損失が生じてしまうのです。
6.セータ(Theta)
続いて、セータについてです。
セータというのは、タイム・ディケイ(時間価値の減衰)によって1日ごとに失われるプレミアムのことを指します。
プレミアムは、時間経過に伴い必ず減少していくため、セータは常に負の値となります。
そして、セータの時間経過による変化を示したのが以下の図です。
この図から、ATMのオプションでは満期日が近づくにつれて、セータの絶対値が急上昇していることが分かります。
冒頭にご紹介した、プレミアムに関しての記事では、ATMのオプションでは満期日が近づくにつれて、タイム・ディケイが加速していくということを書きましたが、この図もそれと同じことを示しています。
ガンマは、オプションの買い手にとって有利な概念と書きましたが、このセータは逆に、オプションの売り手にとって有利な概念となります。
実際に、ガンマとセータの時間経過による変化を示した図を見比べてみると、両者は横軸に対して線対称の関係にあることが分かります。
つまり、ガンマとセータは表裏一体の関係にあり、両者が同時に有利となるポジションを作るのはほぼ不可能です。
7.ベガ(Vega)
最後に、ベガについてです。
ベガというのは、インプライド・ボラティリティ(Implied Volatility:IV、予想変動率)の変動に対するプレミアムの変化度合いのことで、以下の式で表されます。
ベガ=プレミアムの変化額/原資産のボラティリティの変化幅
IVが上昇すればプレミアムも必ず上昇するため、ベガは常に正の値をとります。
そして、ベガの原資産価格および、残存期間による変化を示したのが以下の図です。
ボラティリティの変動によるプレミアムへの影響は、ATMで最も大きくなることから、この図にもあるように、ベガはATMで最大となります。
また、満期日が近づくにつれて、ベガは減少していきます。
一方、満期日までの残存期間が長く、ATM付近のオプションでは、ベガが大きいため、プレミアムがボラティリティ変化の影響を強く受けることとなります。