読書録・書評

【読書録・書評】『欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書は、投機王や稀代の相場師とも言われる、ジェシー・リバモアの自伝のような形で書かれていますが、実際は経済ジャーナリストのエドウィン・ルフェーブルによって書かれた小説になります。

リバモアへの数週間にわたるインタビューをもとに執筆されたとのことですが、ルフェーブル自身は、ほとんど相場に関わったことはなかったとのことです。

なお、本書では章ごとの見出しはなく、第1章から第24章までで構成されています。

2.リバモアという相場師

世界的なトップトレーダーたちが、インタビュー形式で成功の秘訣を語っている『マーケットの魔術師』という有名な書籍があります。

その本に登場するトレーダーのうち、6名が推薦図書に挙げるほど、本書は評価の高いものとなっています。

また、本書の初版が米国で刊行されたのは、1923年とかなり昔であるにもかかわらず、未だに読み継がれていることも驚きです。

そして、本書のモデルとなっているジェシー・ローリストン・リバモアの人生は、とてもドラマチックなものでした。

それは、相場で数百万ドルという財産を築くこと4回、失うこと4回、4度の結婚、晩年はうつ病を患い、ピストル自殺を遂げる、といった具合です。

それでも、リバモアが死に際して残した信託と現金は500万ドルものぼっていたとのことであり、経済的な面では成功を収めたと言えるでしょう。

3.順張りと全体相場

本書の内容から、リバモアの投資手法は、相場のトレンドに沿って売買する順張りであったことが分かります。

また、相場全体の大きな流れを把握することの重要性も繰り返し説かれています。

具体的には、以下のようなことが書かれています。

  • 第5章
    • 相場の大きなスイングに気づかず、頻繁に相場に出入りするということがおれにとっては致命的だった。
    • 強気相場では、株を買って後は上昇局面がそろそろ終わると確信する時まで持ち続けることが肝要だ。そのためには個別銘柄に関する情報や要因ではなく、相場全般の状況を把握しなければならない。
  • 第7章
    • 上昇相場で買うのが最もスムーズな買いのタイミングだ。
    • ポイントは、いかに安値で買うかとか高値で売るかというようなことではなく、いかにして最適のタイミングで売買するか、ということだ。
    • もし弱気筋となって売りに出る時は、売りは常にその前の売りよりも低い相場で、そう、追撃して売らなければならない。そして買いの局面でその逆が当てはまる。つまり上昇の流れに従って買いを進めていくべきなのだ。ロング・ポジションは、相場の上昇にともなって買い乗せていくべきなのだ。
    • 株というものは、買い始めるのに高すぎるということはないし、売り始めるのに安すぎるということはない、ということを思い出してほしい。しかし最初の建玉で利益があがらないかぎりは、続けての建玉は手控えるべきだ。よく状況を見極めて待つことだ。
  • 第8章
    • おれは相場で大勝ちするのは大きなスウィングでしかありえないということがわかってきた。きっかけはどうであれ、大きなスウィングが続くのは仕手や大口投資家の相場操縦によってではなく、相場の基本的なコンディションによるのだ。そして誰がそれに抗おうとも、その動きはその相場を動かす力が尽きるまで続かざるをえないものなのだ。
    • 個々の銘柄は大きな流れに追随して変動するので、銘柄一つ一つの動きはそれほど必要ではないということがわかってきた。それは、相場全般の変動を考えることで自分のトレーディングがうまくいく、ということも意味するのだ。

4.最弱抵抗線と建玉法

他にも第10章では、次のように「最弱抵抗線」なるものについて触れられています。

重要なのはその取引の時点での投機すべきライン、つまり最も抵抗の小さいところを結んだ一筋の線(最弱抵抗線)を見極めることなのだ。また、その線が明らかになるまではじっと待つということも重要だ。

ただ、本書の内容からは、「最弱抵抗線」が具体的にどのようなものなのかを掴むことはできません。

おそらく、ニコラス・ダーバスのボックス理論におけるボックスの上限(買いの場合)や下限(売りの場合)のことを言っているのかもしれません。

あるいは、マーク・ミネルヴィニが言うところの、VCP(ボラティリティの収縮パターン)からのブレイクアウトのことかもしれません。

そして、第10章では、建玉法についても以下のように簡単に言及されています。

トレーダーは、トレンドに従って建玉を積み増していくべきなのだ。まず、手持ち資金の五分の一を買いに投入する。もしここで利益があがらなかったら、それ以上、建玉を増やすべきではない。なぜなら取引の開始時点からミスが明らかだからだ。一時的にせよ誤ったわけで、過てば利益はありえない。

5.総括

本書は1923年に刊行されたものであり、その当時と現在とでは、やはりマーケットの構造や制度が大きく変わっていることは否めません。

それでも本書を読むと、現在成功している投資家たちの投資手法の根底には、リバモアの相場哲学が流れているように感じられます。

ただ率直に言うと、本書は数多くのトップトレーダーが必読の書と絶賛するほどのものではないように思われます。

確かに当時としては、画期的な内容の書籍だったかもしれませんが、現在では、モメンタムや成長株についての優れた書籍が何冊も存在するからです。

加えて類書には、リチャード・スミッテンによって、リバモアの生涯が物語風に書かれた『世紀の相場師ジェシー・リバモア』という書籍もあります。(リンク先はレビュー記事になります。)

少なくとも、こちらの方が読みやすくまとまっており、リバモアの投資理論についてもより詳しく触れられているのです。

また、リバモアの投資理論についてだけを知りたければ、『リバモアの株式投資術』を読むのが良いでしょう。(リンク先はレビュー記事になります。)

こちらは、投資理論を公開することに決めたリバモア自身によって、1940年に上梓されたものになります。

もちろん、本書も読み物としては面白いと言えますが、以上のようなことから、本書を読む必要性というのは決して高くはないと言えるでしょう。

 

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