1.フィッシャー・インベストメンツ率いるケン・フィッシャー氏
今回は、ケン・フィッシャー(ケネス・ローレンス・フィッシャー)氏が率いる、フィッシャー・インベストメンツの2022年9月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ケン・フィッシャーは、故フィリップ・A・フィッシャーを父に持ち、米国有数の著名投資家であると同時に、米国の長者番付「フォーブス400」常連の億万長者でもあります。
なお、フィリップ・A・フィッシャーは、ウォーレン・バフェットが師と公言し、成長株投資の礎を築いた伝説的投資家です。
そして、ケン・フィッシャーは、フォーブス誌に「ポートフォリオ・ストラテジー」というコラムを1984年から長期連載しており、投資に関する著書も数多くあります。
中でも、『Super Stocks』(邦訳:『ケン・フィッシャーのPSR株分析』)では、PSRの有効性をケン・フィッシャーが初めて提唱したと言えます。
ただ、このPSRに関しては、その後の『The Only Three Questions That Count』(邦訳:『投資家が大切にしたいたった3つの疑問』)の中で、広く知れ渡ったことによりPSRは機能しなくなったと述べています。
また、同書には、他人には知ることのできない優位性を継続的に発見し、投資判断を常に改善・修正していくための方法が書かれており、その深い洞察力には驚かされます。
2.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
さて、ケン・フィッシャーに限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、11月中旬頃までには、著名投資家たちの22年9月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
3.フィッシャー・インベストメンツのポートフォリオ
それでは早速、フィッシャー・インベストメンツの2022年9月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では上位24銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2022年6月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
この両者間の違いを際立たせるために、ポートフォリオ全体に対する影響度の大きかった銘柄を中心に見ていくことにしたいと思います。
4.ポートフォリオへのインパクトが大きかった銘柄と総括
まず、22年7月から9月末までの間に、ポートフォリオ全体に対する増加率が0.6%以上であった銘柄について見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 増加率(%) | 組入比率(%) |
IGV | iShares Expanded Tech-Software Sector ETF | 0.91 | 0.92 |
SCHW | Charles Schwab Corp | 0.83 | 0.83 |
WMT | Walmart Inc | 0.74 | 0.79 |
BLK | BlackRock Inc | 0.63 | 0.71 |
SBUX | Starbucks Corp | 0.61 | 0.61 |
また、同期間で、ポートフォリオ全体に対する減少率が0.6%以上であった銘柄についても見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 減少率(%) | 組入比率(%) |
TCEHY | Tencent Holdings Ltd | -1.26 | 0.01 |
BABA | Alibaba Group Holding Ltd | -0.83 | 0.25 |
VCIT | Vanguard Intermediate-Term Corporate Bond ETF | -0.79 | 2.58 |
V | Visa Inc | -0.72 | 1.12 |
AAPL | Apple Inc | -0.63 | 6.13 |
COST | Costco Wholesale Corp | -0.61 | 0.90 |
NVS | Novartis AG | -0.60 | 0.06 |
VZ | Verizon Communications Inc | -0.60 | 0.01 |
これらの表から、「TCEHY(テンセント)」や「BABA(アリババ)」といった中国のハイテク銘柄を大きく売却し、代わりに米国のハイテク銘柄で構成されるETFである「IGV」を大きく買っていることが分かります。
また、「VCIT(米国中期社債ETF)」を一部売却していますが、同じく米国社債ETFの「LQD」を買い増したり、ハイイールド債のETFである「USHY」を新規買いしたりしているので、社債全体ではニュートラルに近い印象です。
なお、米国商務省は10月初めに、中国への半導体の輸出規制を発表しましたが、同省はNVIDIAやAMDに対し、高度な半導体の中国への輸出を停止するように9月の段階で警告していたようです。
フィッシャー・インベストメンツの中国ハイテク銘柄の売りは、そうした動きを見越してのものだったと思われますが、一方で、IGVを大きく買い増したところを見ると、依然として米ハイテク関連銘柄に対しては強気の見方を保っていることが伺えます。
ただ、ポートフォリオの上位を占めるGAFAMに関しては、「AAPL(アップル)」の保有株を1割弱、「META(メタ:旧フェイスブック)」の保有株を5%弱、減らしたくらいで、そこまで大きな変動はありませんでした。
一方で、大きく買い増しされた「IGV」の構成銘柄ですが、「CRM(セールスフォース)」「MSFT(マイクロソフト)」「ADBE(アドビ)」「ORCL(オラクル)」「INTU(イントゥイット)」「NOW(サービスナウ)」「ATVI(アクティビジョン)」「PANW(パロアルト)」の8銘柄で約51%を占めています。
さて、FRB(米連邦準備制度理事会)は、11月2日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、0.75%の利上げを決定していましたが、次回12月のFOMCでは0.50%へと利上げ幅が縮小されるのではないかと見られています。
とはいえ、米中デカップリングの進展により、インフレがそう簡単に収まるとは思えず、23年中も金融引き締め環境が続きそうなことを踏まえると、足元でやや戻りを見せている米ハイテク関連銘柄の株価への逆風は長く続くことになりそうです。
そうした中で、ハイテク関連銘柄へのエクスポージャーの高いフィッシャー・インベストメンツがどのようなポートフォリオ・マネジメントを見せるのか、引き続き注目していきたいところです。