1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- シニア&初心者に捧げる 我が70年の投資哲学
- 著者:長谷川 慶太郎
- 出版日:2019/5/17
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株
まずは、本書の概要からです。
本書では、70年にも及ぶ株式投資歴を持つという著者の投資哲学や、実際の具体的な銘柄についての見方などが書かれています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章 買える企業と買えない企業の見つけ方
- 大きな変革が進んでいる自動車業界の銘柄
- ユニークな経営者の手腕で業績が左右される銘柄
- 業態が時代に合わなくなって先行きが暗い銘柄
- 少子高齢化と人手不足の影響を受ける銘柄
- 不動産神話が消えて好調な東京都のオフィス需要をつかむ銘柄
- しぶとく生き残る重厚長大と工作機械の銘柄
- 将来性はあるものの明暗が分かれるIT関連の銘柄
- 当たれば大きい製薬や医療関連の銘柄
- 問題を抱えて業績アップ期待薄の銘柄
- 乗客を奪い合うようになった航空と鉄道の銘柄
- 日本だけでなく海外でも稼いでいる銘柄
- ネットの利点と弱点を活用して儲ける銘柄
- 急成長するeスポーツ関連とゲーム業界の銘柄
- 株価の動向で注目しておきたいその他の銘柄
- 第2章 私の投資哲学
- 株式取引の特徴
- 株取引に取り組む姿勢
- 第3章 私の投資法―会社四季報のどこを読むか
- 株式投資の3原則
- 株を買う手法と売る手法
- 株取引のための情報入手法
- 『会社四季報』などで特に注目すべき点
2.eスポーツで期待のカプコン
第1章では、本書のおよそ3分の2を割いて、様々な銘柄についての筆者なりの見方が示されています。
その中には、なるほどと思えるものもあれば、疑問に思うものやありきたりな内容のものがありました。
なるほどと思えたのは例えば、以下のような内容です。
- ANA(全日本空輸)やJAL(日本航空)のようなFSC(フルサービスキャリア)は、今後LCC(ローコストキャリア)に押されていく。
- JR東日本は赤字の北海道新幹線が足を引っ張っている。
- JR東海が抱えているリニアモーターカーは、絶対に採算が取れるはずがない。
- JR九州は不動産事業の収益性は良いが、ドル箱路線がない。
- 日本電産は核となる技術を持っておらず、経済界からは信頼されていない。
- eスポーツは伸びていく市場なので、カプコンのようにeスポーツ向けのソフトを提供しているところは儲かる。
3.SUBARUの航空宇宙事業は期待薄?
一方で、疑問に思った点もありました。
例えば、SUBARUについて、「車以上に業績に貢献しているのは飛行機の尾翼なのである」と書かれています。
ここで、SUBARUのセグメント構成(2019/3)について見てみると、下記のようになっています。
- 売上構成比:自動車 94.6%・航空宇宙 4.2%
- 利益構成比:自動車 94.9%・航空宇宙 3.1%
しかも過去5年間で、「航空宇宙」の売上と利益は、ともに減少傾向となっているのです。
つまり、これからLCC向けの飛行機需要が大きく見込めるとしても、SUBARUの業績にどこまで貢献するのかは不透明だと言えます。
4.消費者金融は回復していくのでは?
また、次のような理由から、消費者金融のアコムやアイフルには手を出すなとも書かれています。
- 消費者金融の過払い金返還は依然として続いているので儲かるわけがない。
- 貸付には限度額が設けられているとはいえ、限度額の範囲内での多重債務者も多い。そのような質の悪い顧客を相手にしているような商売は伸びない。
しかし、例えばアコムの利息返還損失は、2015/3の714億円から、2019/3には412億円にまで減少しており、一方の貸倒関連費用は、ほぼ横ばいとなっています。
さらに、2013/3からは増収増益傾向となっており、営業利益率もかなり高く、2019/3からは営業CFもプラスに転じています。
そして、アコムの株価は2015年下旬の最高値からは45%ほど下落していますが、2019年に入ってからは底堅い値動きとなっています。
こういったことを考えると、アコム株は著者が言うのとは逆に、少しずつ仕込んでいって良い段階に入ってきているのではないかと思われるのです。
5.銘柄選択で重視する項目
第2章では、著者の投資哲学について書かれています。
著者は、株式の長期投資を旨としており、最低でも3年間、ほとんどはそれ以上持ち続けてきたと言います。
また、第3章では、著者の株の買い方の基本は、「押し目買い」であるとも言っています。
そして、第3章では、『会社四季報』や『日経会社情報デジタル』で銘柄を選ぶための注目点として、以下の項目を挙げています。
- 研究開発費:研究開発費の規模や売上げに対する比率が大きいことに注目すべき。
- 金融収支:金融収支については黒字であるということが非常に重要だ。金融収支が黒字なら借金で設備投資をしていないと判断できるからである。
- 平均年齢:低ければ市場の変化に元気な会社と判断して良く、将来の成長も期待できる。
- キャッシュフロー
これらの中で、「研究開発費」が多いことや。「平均年齢」が低いことというのは確かに望ましいことかもしれませんが、どう結果に直結するのか見えにくいところです。
また、「金融収支」については、「業績の各収支の推移、キャッシュフローの各フローで総合的に判断しなければならない」と言及するのみで、何を指しているのかよく分かりません。
文脈からすると、「投資キャッシュフロー」や「財務キャッシュフロー」のことを指しているのかもしれませんが、借金で設備投資を賄うことは必ずしも悪いこととは言えないように思われます。
6.営業CF:プラスを重視
最後の「キャッシュフロー」については、以下のように説明されています。
キャッシュフローというのは、製造業者ならば、売上額から生産に必要なすべてのコスト(賃金、原材料の購入費、生産設備の償却等)を差し引き、さらに借り入れの返済金などを差し引いて残った経常利益を現金で示すものだ。
このキャッシュフローが赤字なら企業の資産が物(固定資産)に替わっていることを、反対に黒字なら企業の資産が物から現金に替わっていることを示す。現金に替わるとは固定資産のように流動性の低い資産が流動性の高い資産(流動資産)に転化することにほかならない。特にデフレ時代で最も重要なのはこのキャッシュフローを黒字にしていくことだ。
もはや意味不明です‥
おそらく「営業キャッシュフロー」のことを言いたいのでしょうが、これは単に企業が本業で稼いだ現金の増減を示したもので、これがプラスであることは確かに重視される点となっています。
7.総括
本書の第1章では、ページ数の多くを割いて、数々の代表的な企業に対する著者なりの考え方が披露されており、類書では珍しい構成だと言えます。
ただ、一つ一つの企業に対する分析は、ありきたりなものであったり、著者の独断と偏見に基づいていると思われるものが多かったように感じました。
また、投資哲学については一般論ばかりで、会社四季報の読み方についても、本質から外れたような内容に思われましたし、言葉の定義も曖昧でした。
『我が70年の投資哲学』という本書のタイトルからすると、期待外れな内容であったと言わざるを得ません。