読書録・書評

【読書録・書評】『本音の株式投資 人気ストラテジスト直伝』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

本書では、日本の株式市場に関して、様々なデータ分析から新たに発見された事実について書かれています。

本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章:日経平均の本当の予想方法
  • 第2章:企業業績の本当の読み方・使い方
  • 第3章:ROEの本当の意味・進化する投資術
  • 第4章:「外国人が買った株」の本当の姿・投資への活かし方
  • 第5章:投資の常識は本当か
  • 第6章:「日銀は株価を歪めていない」は本当か
  • 第7章:「賢い指数」は本当に儲かるか
  • 終章  :本音で語る世界経済の行く末

ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。

2.株価の決定要因

第1章では、「日経平均の本当の予想方法」とのことで以下のようなことが書かれています。

まずは、株価の根幹を成すのは企業業績であり、日経平均株価は予想PER(株価収益率)が14~16倍の範囲に概ね収まっているということです。

次に、日経平均株価は為替との連動性が高いものの、2016年夏以降、為替相場が円高に動いても日経平均がそれほど下がらなくなったということが書かれています。

そして、日経平均株価の下落局面における下値メドは、PBR(株価純資産倍率)1倍程度であるといったことについても触れられています。

3.期初予想・中間決算・期末実績

第2章は、会社業績の読み方についての内容となっています。

まずは、期初予想が弱気であったとしても、会社予想は上方修正が恒例行事であり、それほど心配はいらないということが書かれています。

具体的には、東証1部上場で3月決算の主要企業400社における、年度ごとの経常利益額合計について見ると、過去15年(2002年3月期~2016年3月期)のうち、11回で期末実績が期初予想を上回ったとのことでした。

さらに、東証1部上場で3月決算の主要企業のうち、2005年3月期から2016年3月期まで連続してデータが取得できる300社についての分析も載せられています。

それによると、平均して例年約4割の企業が中間決算のときに業績予想を上方修正し、それらの企業のうち約8割は期末実績の経常利益がさらに上振れしたとのことでした。

つまり、中間決算時点で上方修正した企業の大半が「期初予想→中間予想→期末実績」と2段階アップの”増増”であったことになります。

なお、中間決算時点では期初予想のまま据え置いた企業は33%で、そのうち最終的に期末実績が中間予想(=期初予想)を上回ったケースは61%だったということなども書かれています。

4.ROE(自己資本利益率)の有用性

第3章では、ROE(自己資本利益率)について書かれています。

ROEは、当期純利益/自己資本(株主資本)で計算され、特に外国人投資家が注目する指標の一つでもあります。

本章では、このROEについての検証がされており、予想ROEがもっとも高い銘柄群は平均リターンがもっとも低かったとのことでした。

また、ある時点でROEが高い企業と低い企業のその後のROEが時間が経つにつれて平均的な水準に収れんしていく「平均回帰性」が、日本のみならず米国でも認められているということが書かれています。

そして、大事なのはROEの水準ではなく改善幅で、ROEがもっとも改善した銘柄群がもっとも値上がりしたという検証結果についても示されています。

さらに本章ではもう一歩踏み込んだ検証もされており、それによると次のような傾向が認められたとのことです。

たとえROEが改善しても業種平均に満たなければ株式市場は評価してくれない

ROE改善に加えて業種平均を上回る収益性を備えれば株価も上昇する

5.外国人投資家の特徴

第4章では、日本株において存在感を増している外国人投資家について書かれています。

実際に、外国人投資家の売買動向からは、彼らが買い越すと日経平均が値上がりするといった傾向が認められます。

本章では、外国人投資家は必ずしも大企業ばかりを好むのではなく、利益率やROEなどの収益性が高い銘柄を選んでいるといった傾向が示されています。

また、外国人が大量に買ったことがわかってから、その企業の株式を買っても儲かるとは限らず、むしろ平均的にはマイナスだったということも実証されています。

そして、「外国人が買った株」を手がかりにして有望銘柄を探す場合には、次のような姿勢が重要だと書かれています。

  • PBRやPERが他の銘柄より低いことは必要なく、これらの指標が高いだけで割高と決めつけてはいけない
  • 業績(特にROE)が改善する見込みを考慮しても本当に割高か、さらなる値上がりが期待できるかを見極める

結局は、前の第3章にあったように、ROEの改善が大事とのことでした。

6.意外な自社株買いの真実

第5章では、「投資の常識は本当か」ということで、レバレッジ型ETFや、売り買いのタイミング、自社株買い、超高速取引(HFT)について触れられています。

まず、レバレッジ型ETFについては、上手に利用すれば便利なツールだが、短期もしくは超短期の投機性が高い金融商品で、長期保有には適さないと書かれています。

また、売り買いのタイミングについては、長期投資においてはタイミングの影響は小さく、初心者や多忙な投資家にとっては「ドルコスト平均法」が有力な手段であるといった内容となっています。

そして、自社株買いに関しては、季節性があり、毎年4~6月が年間でもっとも多額の自社株買い計画が設定される傾向があるとのことです。

自社株買いの買い付けタイミングや買入ペースは企業によって異なりますが、なかには公表した自社株買い計画の2~3割しか買わなかった企業がいくつかあったということには驚きました。

本章では最後に、HFT(高頻度取引)について触れられています。

HFTに関しては、2014年に刊行された『フラッシュ・ボーイズ』(マイケル・ルイス著)という小説の影響で怪しいイメージを抱かれがちです。

しかし、米国はともかく日本では、注文のタイムラグを利用して他の投資家の注文に先回りするような不正まがいの行為は不可能であるといったことなどが書かれています。

7.日銀のETF買い入れ

第6章では、日銀のETF買い入れについての検証がされています。

日銀のETF買入枠は以下の表のように拡大されてきました。(年間目標額は保有残高の増加額)

発表日

内容

年間目標額

2010年10月28日

  • ETFの買い入れ開始を発表
  • 対象ETFの時価総額に比例して購入
  • TOPIX型と日経平均型を約半分ずつ

0.45兆円

2013年4月4日

買入枠を拡大(異次元緩和開始)

1兆円

2014年10月31日

  • 買入枠を拡大
  • JPX日経インデックス400型を買入対象に追加

3兆円

2015年12月18日

買入枠を拡大(補完的措置)

3.3兆円

2016年7月29日

買入枠を拡大

6兆円

2016年9月21日

  • 買入割合の新ルール発表
  • TOPIX型:約7割、日経平均型:約3割

6兆円

そして、日銀がETFを通じて間接的に買い入れる割合が大きい銘柄ほど割高になっており、日銀によって株価が歪められているといったことが示されています。

ただ、実際に株価をつり上げているのは、日銀のETF買いに便乗しようとする他の投資家、いわゆるコバンザメ投資家であるとも書かれています。

8.スマートベータ(賢い指数)

第7章は、スマートベータに関しての内容となっています。

スマートベータというのは、売上高や配当金など、銘柄の特定の要素に基づいて構成された指数のことををいいます。

日本の代表的な株価指数であるTOPIXは時価総額加重平均型の指数であるのに対し、スマートベータでは時価総額以外の基準を用いて構成比が決められます。

スマートベータには様々な種類がありますが、「バリュー型」や「高配当型」が代表的なものになります。

主に「高配当型」のものは、ETFでも提供されていますが、少なくとも国内のETFに関しては出来高が小さく、まだまだ活用を勧められるようなものではありません。

本章では、世界的な指数会社であるMSCIが提供しているスマートベータのうち、主な6種類を1994年1月~2016年6月(22年6ヵ月)の期間で分析した結果が紹介されています。

それによると、全てのスマートベータにおいて、TOPIXよりもリターンが高く、リスクもTOPIXより低いものが多かったとのことでした。

ただ、各種のスマートベータとTOPIXを比較した際に、1年ごとの順位は年によって大きく変動するため、異なるスマートベータを組み合わせることが望ましいと書かれています。

最後に、終章では出版当時の世界経済の情勢について書かれています。

9.総括

本書では、企業の業績予想、ROE、自社株買いなど、著者が実際にデータを分析することで導き出された、新たな知見が数多く書かれていました。

また、スマートベータについても、まだまだ実用的な商品は数少ないものの、概念としては意外と有益なものだと気づかされました。

今後の動向次第ではありますが、株価指数連動型ETFの一部をスマートベータ型ETFに置き換えてみるのも良いかもしれません。

そして、著者に関しても、信頼のおけるアナリストだと感じました。

本書が初の著書とのことだったので、是非とも続編を期待したいところです。

 

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