読書録・書評

【読書録・書評】『さらに確実に儲けるための実践的な方法が学べる! 株式投資の学校[ファンダメンタルズ分析編]』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、個人向けの投資教育事業を展開する日本ファイナンシャルアカデミー(JFA)によって、ファンダメンタルズ分析について書かれています。

なお、本書の章立ては、次のようになっています。

  • 第1章 「成長性」と「割安さ」の見極めが投資の決め手
  • 第2章 「定性分析」で将来性ある会社を見極める
  • 第3章 これから注目の投資分野はこれ!
  • 第4章 財務分析でその会社を詳しく点検する
  • 第5章 売買タイミングと景気・株価サイクルを見極める

2.投資指標(ROE、PERなど)

第1章では、最重要な財務指標・財務データとして、以下のものが挙げられています。

  • 売上高、経常利益の推移
    • 売上高、経常利益はいずれも拡大傾向にあることが望ましい。
  • 売上高経常利益率(あるいは売上高営業利益率)
    • この指標は、業種やビジネスモデルによっても異なってくるが、一般的には10%以上あると儲けやすい事業を行っていると判断できる。
    • 同業のライバルと比較してみると、どちらが優秀なのかを測る一つの参考データにはなる。
  • ROE、ROA
    • 業種やビジネスモデルによって異なってくるが、一般的にはROE10%、ROA5%程度が、収益性の高い企業かどうかのメドといわれている。
    • ROEは、株主が企業に預けているお金をどれだけ有効活用しているかを見る指標なので、中長期的な株式のパフォーマンスと関連性が大きいといわれている。

また、成長株における「PER」の考え方や使い方についても解説されています。

まず、PERの市場平均は、古今東西のデータから概ね10~20倍程度で推移しており、15倍が標準的な水準であることを前提にしています。

次に、株式市場は3年程度先くらいまで読んで動いていると経験上思われるとのことで、年率の成長ペースと成長株のPERの目安として、次のような表が載せられています。

3年後の利益 割安PER 標準PER 強気PER
1倍 10倍 15倍 20倍
1.3倍(年率10%ペース) 13倍 20倍 26倍
1.5倍(年率15%ペース) 15倍 23倍 30倍
1.7倍(年率20%ペース) 17倍 26倍 34倍
2倍(年率30%ペース) 20倍 30倍 40倍
3倍(年率50%ペース) 30倍 45倍 60倍

さらに、中長期投資では、収益の「持続性」の方が大切であり、成長の持続性が高いと考えられる企業の場合には、プレミアのついたPERで評価されることが多いとも書かれています。

例えば、「10年は成長が続く」と考えられる高持続性企業の場合には、PERのプレミアは5倍分くらいつく感じかと思います、と述べられています。

この成長の持続性が高いかどうかは、第2章で書かれている「定性分析」によって判断されます。

3.定性分析

第2章では、定性分析で大切な2大ポイントは、「独自の強み」と「売上拡大余地」であり、この2要素を探ることが重要だと書かれています。

まず、「独自の強み」に関しては、大きく「商品力」「コスト競争力」「販売力」に分けられ、それぞれについて以下のような項目の説明がなされています。

  • 商品力
    • 他が真似できない魅力的な商品、高い技術力・開発力、独自の仕入れルート、高い乗り換えコスト、ネットワーク効果、地域独占、ニッチトップ、規制
  • コスト競争力
    • コスト競争力は、業務の効率化、技術革新、設備投資(業務の機械化やコンピュータ化)、有利な仕入れルート、規模のメリット、などによってもたらされる
  • 販売力
    • 広告宣伝、店作り、接客を含めた販売のノウハウを持つ
    • 販売ルート、販売拠点、顧客基盤を持つ
    • 優秀な営業部隊を持つ
    • ブランド力がある

次に、「売上拡大余地」の考え方については、小売店や外食などの店舗展開している業種を例に解説されています。

そういった業種の全国的なチェーンとしての成功イメージは、「1000店舗、売上高1000億円、時価総額1000億円」といったところだと思われるとのことです。

そして、上場企業で成長性の高い企業の場合、店舗数100~200くらい、売上高100億~200億円くらいの時に成長に向けた戦略や体制が整い、成長トレンドがかなり明確になってくることが多いと言います。

また、個人投資家としても、そのあたりが一番投資しやすいタイミングではないかと思われると述べられています。

4.財務分析

第4章は、財務諸表の読み方や考え方についての内容となっています。

まず、財務諸表の主要3表である、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュ・フロー計算書(CF)のそれぞれの項目について解説されています。

また、「減価償却」や「のれん」に関しても説明されており、会計基準による「のれん」の処理方法の違いについても触れられています。

具体的には、日本の会計基準では、のれんを償却していくのに対し、国際会計基準では、のれんを毎年償却していくことはしないということになります。

ただ、(国際会計基準のように)「のれん償却費を計上しないで計算した営業利益や経常利益の方が、その会社の実際の収益を表したものだといえます」との記載には注意が必要です。

というのも、本書では触れられていませんでしたが、国際会計基準では、のれんの減損が発生した際に、巨額の損失が生じるリスクがあるためで、この点には留意しておく必要があるでしょう。

他に、法定実効税率と税金負担率がずれるケースについても言及されています。

一般的に、法人実効税率が約30%であることから、税引き前利益の0.7倍が当期純利益となります。

ただし、以下のようなケースでは、税金の負担率は小さくなってくるため、税引き後の残存率というのは企業によって異なってくるのです。

  • 大きな繰越損がある
  • 大きな持分法利益が加わっている(子会社以外で連結対象となっている関連会社からの利益の寄与分)
  • 海外子会社の利益寄与が大きい

第4章では最後に、財務諸表分析のポイント(まとめ)として、以下のような項目が挙げられています(一部改訂)。

  • 安全性・資金繰りの確認(自己資本比率が30%以下、あるいは営業CFがマイナスのケース)
    • 流動資産が流動負債よりも多ければ、あまり心配ない。特に流動資産の中の現金・預金の割合が大きければ(たとえば、一番大きな金額であれば)安心感は増す。
    • 受取手形・売掛金や棚卸資産が急増している場合には、それらの項目で問題が発生している可能性もある。どんな原因でそれらの項目が急増しているのか、決算短信の定性情報などでも確認する。
    • 流動負債の中で、有利子負債は銀行などの判断で借り換えに応じてくれないリスクがある。赤字になると銀行は借り換えを渋る可能性があるので注意。
  • 余剰金融資産を含めた目標株価の考え方(自己資本比率60%以上のケース)
    • 自己資本比率が60%以上の場合は、事業には関係のない余剰金融資産がある可能性が高い。
    • その場合は、事業価値と余剰金融資産に分けて計算し、それを足して株主価値を求める。
    • 事業価値は、収益の持続性があることを前提に営業利益の10倍と考える。
    • 余剰金融資産は、現金、預金、有価証券、投資有価証券、定期預金などの合計から有利子負債を差し引いて求める。
    • 株主価値が時価総額の何倍かを計算する。その倍率を現在の株価にかけると目標株価が計算される。
  • 売上高が伸びているのに営業利益がさえないケースの詳しい検討法
    • 売上高とともに売上総利益は伸びているか。同じくらいの率で伸びているなら、本業は順調である可能性がある。
    • その場合には、営業利益がさえない原因は販売費・一般管理費にある。その詳しい内訳は、有価証券報告書で確認。広告宣伝費、研究開発費、人材拡充のための費用など先行投資的な費用が原因なら、ポジティブに考えていいかもしれない。
  • 営業CFがマイナスの場合の検討方法
    • キャッシュ・フロー計算書で営業CFがマイナスになっている主要因を探す。
    • 受取手形・売掛金や棚卸資産が要因なら、それが大きな問題を抱えていないか検討する。どちらも売上の増加率を大きく超えて急増しているなら注意。
    • 業種にもよるが一般的に、受取手形・売掛金は年間売上高の4分の1(3ヵ月分)以上なら要注意。
    • 業種にもよるが一般的に、棚卸資産も年間売上高の4分の1(3ヵ月分)以上なら要注意。

5.総括

本書の入門編にあたる『知識ゼロでも大丈夫! 基礎から応用までを体系的に学べる! 株式投資の学校[入門編]』と同様に、本書でも「定性分析」について言及されています。

本書では、「定性分析」について説明されている第2章で、個別銘柄の具体例も挙げられています。

ただ、取り上げられている企業は、既に確固たる地位を固めた有名企業ばかりであり、まだ知名度は低いものの「独自の強み」を持った企業を、いかにして見極めるかという参考にはなりませんでした。

もっとも、ある程度の知名度がある企業でなければ、情報も限られており、十分な定性分析を行うことは難しいのかもしれませんが。

そして、本書を含め、株式投資関連の書籍でよく取り上げられる、PERやROE、売上高利益率ですが、これらを株価のパフォーマンスを予測する指標として盲信してしまうことも危険です。

どんな株価指標であっても機能するときもあれば、何年にもわたって機能しないこともあるからです。

あるとき、有効性が高い指標があったとしても、多くの人が同じもの使い始めれば、当然その有効性は低下していってしまうというわけです。

少し話が逸れましたが、本書の第4章に関しては概してよく書かれており、参考になります。

特に事例研究の部分では、有価証券報告書の中身にまで言及して解説されているなど、証券分析のプロが書いた内容であることがうかがい知れます。

そういったことから、ファンダメンタルズ分析の入門書として、本書は読む価値のある書籍ではないかと思われます。

 

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