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1.フィッシャー・インベストメンツ率いるケン・フィッシャー氏
今回は、ケン・フィッシャー(ケネス・ローレンス・フィッシャー)氏が率いる、フィッシャー・インベストメンツの2022年3月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ケン・フィッシャーは、故フィリップ・A・フィッシャーを父に持ち、米国有数の著名投資家であると同時に、米国の長者番付「フォーブス400」常連の億万長者でもあります。
なお、フィリップ・A・フィッシャーは、ウォーレン・バフェットが師と公言し、成長株投資の礎を築いた伝説的投資家です。
そして、ケン・フィッシャーは、フォーブス誌に「ポートフォリオ・ストラテジー」というコラムを1984年から長期連載しており、投資に関する著書も数多くあります。
中でも、『Super Stocks』(邦訳:『ケン・フィッシャーのPSR株分析』)では、PSRの有効性をケン・フィッシャーが初めて提唱したと言えます。
ただ、このPSRに関しては、その後の『The Only Three Questions That Count』(邦訳:『投資家が大切にしたいたった3つの疑問』)の中で、広く知れ渡ったことによりPSRは機能しなくなったと述べています。
また、同書には、他人には知ることのできない優位性を継続的に発見し、投資判断を常に改善・修正していくための方法が書かれており、その深い洞察力には驚かされます。
2.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
さて、ケン・フィッシャーに限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、5月中旬頃までには、著名投資家たちの22年3月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
3.フィッシャー・インベストメンツのポートフォリオ
それでは早速、フィッシャー・インベストメンツの2022年3月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では上位24銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2021年12月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
これらの図からは、両者の違いが分かりにくいのですが、上位24銘柄の中でポートフォリオの組み入れ比率が、前期と比較して10%以上の変動があった銘柄をピックアップしてみると、次の6銘柄となりました。
ティッカー | 銘柄名 | 組み入れ比率(%) | 前期からの変化率(%) | ポートフォリオ全体への影響度(%) |
V | Visa Inc | 1.74 | -14.33 | -0.27 |
FB | Meta Platforms Inc | 1.47 | 16.84 | 0.21 |
NFLX | Netflix Inc | 1.41 | 17.15 | 0.21 |
NVDA | NVIDIA Corp | 1.18 | 43.26 | 0.36 |
PYPL | PayPal Holdings Inc | 1.15 | 15.96 | 0.16 |
SPTL | SPDR Portfolio Long Term Treasury ETF | 1.01 | 100.69 | 0.51 |
これら銘柄の、22年1月から3月末までの株価騰落率を見ると、Vは11.2%、FBは7.2%、NFLXは53.1%、NVDAは30.1%、PYPLは21.6%、SPTLは14.1%の下落となっていました。
Vを除いて、下落局面で上記銘柄の買い増しに動いていたことが分かります。
4.ポートフォリオへのインパクトが大きかった銘柄と総括
さらに、22年1月から22年3月末までの間に、ポートフォリオ全体に対する増加率が大きかった銘柄のうち、増加率が0.30%以上であった銘柄について見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 増加率(%) |
SPTL | SPDR Portfolio Long Term Treasury ETF | 0.51 |
BHP | BHP Group Ltd | 0.41 |
AMZN | Amazon.com Inc | 0.38 |
NVDA | NVIDIA Corp | 0.36 |
また、同期間で、ポートフォリオ全体に対する減少率が大きかった銘柄のうち、減少率が0.30%以上であった銘柄についても見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 減少率(%) |
CSCO | Cisco Systems Inc | -0.4 |
DIS | The Walt Disney Co | -0.4 |
INTC | Intel Corp | -0.38 |
UNH | UnitedHealth Group Inc | -0.38 |
WMT | Walmart Inc | -0.37 |
以上のように、ケン・フィッシャーは、軟調な値動きとなっているハイテク株に対して依然として強気であることが分かります。
また、10年以上の長期米国債で構成されるSPTLへの投資を増やしていることも特徴的です。
というのも、デュレーションの長い債券ほど金利上昇による負の影響が大きくなるため、金利上昇局面では長期債よりも短期債のウエイトを増やすのが一般的であるからです。
市場では、FRB(米連邦準備制度理事会)が積極的に利上げをしていくとの見方が広まっていますが、ケン・フィッシャーは必ずしもそうはならないと見ているのだと思われます。
つまり、当面は利上げや量的引き締め(QT)が続くにしても、それに伴う景気減速によって、2.5%程度とされる中立金利までの利上げは難しいと考えているのではないでしょうか。
どちらかというと、私もそれに近い考えを持ってはいますが、かねてより割高感の強かったGAFAMに代表されるようなハイテク株への投資はそもそも行っておらず、ある程度の調整を経たとはいえ、依然として割高な水準にあるそれら銘柄への投資をしようとは思いません。
過去の利上げ局面を見る限りでは、このまま本格的な下落相場へとつながっていくにはまだ早いように思われますが、一方でハイテク株を中心としたNASDAQが高値を更新し続けていくような相場というのはもう期待できないでしょう。
そういった意味で、今後ケン・フィッシャーがどのようにポートフォリオをマネジメントしていくのか注目です。