相場のデータ・指標

「東証REIT指数」のデータ分析(2020.3)(NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況)

ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.東証REIT指数とTOPIX

まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。

東証REIT指数とTOPIXの推移を示した図(2020.3)

この図から、TOPIXと東証REIT指数とは強い相関を認めることが分かります。

2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り

次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。

まずは、NAV倍率の方からです。

東証REIT指数とNAV倍率の推移を示した図(2020.3)

NAV倍率ですが、ここ1~2年ほどは、一般的に割安の基準であるとされる1倍に近い水準(赤い点線)から上昇傾向となっています。

直近のNAV倍率は1.2倍を超えており、過熱しているとまでは言わないものの、割安感は薄らいでいると言えそうです。

そして、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)

東証REIT指数と分配金利回りの推移を示した図(2020.3)

直近のJ-REIT分配金利回りは3%台前半となっており、この図で示した過去約15年間の推移を見る限りでは、低い水準となっています。

3.各種利回りの比較

さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。

分配金利回り、配当利回り、長期金利の推移を比較した図(2020.3)

ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」などにより、ここ数年は-0.2%~0%での推移となっています。

つまり、ここ数年の長期金利は少なからずコントロールされたものであると言え、比較対象として適切なものかどうかは疑わしいものであるため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。

このJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。

分配金利回りと配当利回りのスプレッドの推移を示した図(2020.3)

この図で示した過去約15年間の推移を見る限りでは、両者のスプレッドは過去最低水準となっていることが分かります。

そういったことから、株式と比較して見た場合に、REITにはそこまで投資妙味があるというわけではなさそうです。

4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数

なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。

そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。

具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。

まずは、「毎月決算型」の方からになります。

この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。

東証REIT指数と毎月決算型投信の推移を示した図(2020.3)

ここ数年間は、「毎月決算型」投信からの資金流出がずっと続いていましたが、2019年以降の純資産総額はほぼ横ばいとなっています。

また、この図からは、2017年末頃より両者の乖離が拡大していることが見て取れます。

続いて、「国内 不動産投信」になります。

東証REIT指数と国内不動産投信の推移を示した図(2020.3)

「国内 不動産投信」は資金流入傾向となっており、純資産総額も直近で過去最高を更新しています。

また、それと連動するように東証REIT指数も上昇していることが見て取れます。

5.総括

東証REIT指数は、直近において、コロナショックの影響もあり下落していますが、国内の不動産投信への資金流入から見て取れるように、依然として根強い需要があることが分かります。

また、NAV倍率や分配金利回りなどといった観点からは、東証REIT指数はまだ決して割安とは言えない水準であることも分かります。

一方、長期金利の低下や、3月3日の米FRBによる緊急利下げのような、先進国の金融緩和は、不動産市場にとっては追い風であると言えます。

ただ、新型コロナウイルスがいつ収束するかは不透明であり、東証REIT指数がTOPIXに連動し、ボラティリティの高い状態というのが、しばらくは続きそうです。

そして、J-REITの中でも、特にホテル特化型REITでは、下げ幅が大きくなっています。

これは、新型コロナウイルスによる、訪日外国人観光客の大幅な減少や、テレワークの活用による出張の見合わせなどによる収益減が、しばらくは続くことが予想されるためだと思われます。

とはいえ、それでも非常に割安な水準というわけではないため、買うにしても、少しずつ買い下がっていくというのが良いでしょう。

もし仮に、感染の拡大が長引き、東京オリンピックが中止にでもなるようなことがあれば、ホテル特化型REITはさらに大きく売り込まれることになるでしょうが、そういった悲観の極みでは投資妙味が生じることにもなりそうです。

なお、コロナショック以前から、景気後退の兆候は既に現れており、特にオフィス特化型REITに関しては、今はまだ好調ではあるものの、長期で保有し続けることは避けた方が良いのではないかと考えています。

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