相場のデータ・指標

「グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)」なるデュアルモメンタム(絶対モメンタム+相対モメンタム)の検証と考察

ここでは、『ウォール街のモメンタムウォーカー』という書籍の中で紹介されていたモメンタム戦略について、実際に投資可能なETFのヒストリカルデータを用いて検証していきたいと思います。

なお、同書籍に関しては、前半(モメンタムの概要)と後半(具体的なモメンタム戦略)の2回に分けてレビューしていますので、よろしければご参照ください。

1.グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)の概要

まずは、モメンタム戦略の概要について、簡単に説明していきます。

モメンタムには、大きく「相対モメンタム」と「絶対モメンタム」とがあります。

ちなみに、「相対モメンタム」は「クロスセクション・モメンタム」や「レラティブストレングス・モメンタム」とも呼ばれ、「絶対モメンタム」は「時系列モメンタム」とも呼ばれます。

「相対モメンタム」は、ある資産の他の資産に対するトレンドを見るもので、「絶対モメンタム」は、ある資産のその資産の過去に対するトレンドを見るものになります。

また、「相対モメンタム」と「絶対モメンタム」とを組み合わせたものを、「デュアルモメンタム」と言います。

そして、米国株、非米国株、米短期国債という3つの資産クラスを用いた「デュアルモメンタム」が、「グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)」です。

ここでは、米国株、非米国株、米短期国債について、それぞれ「SPY」、「CWI」、「AGG」というETFのデータを使って検証していきます。

具体的には、過去12ヵ月間における「SPY」のリターンが負であれば、「AGG」を選びます。

一方、過去12ヵ月間のリターンが負でなければ、3つのETFの中から、過去12ヵ月間のパフォーマンスが最も高かったものを選ぶという手順を、毎月繰り返していきます。

その際、実践に則した検証結果を得るために、パフォーマンスの判断には当月の終値を用い、売買には翌月の始値を用いるものとします。

2.グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)の検証結果

それでは、グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)について、3通りの検証結果を見ていきたいと思います。(検証は全て、2007年2月からのデータを用いています。)

まず、「SPY」、「CWI」、「AGG」をいずれも、1株単位のみで売買した際の「GEM」のパフォーマンスを示したのが以下の図です。

この図で、「SPY」、「CWI」、「AGG」については、初めに1株を購入し、保有し続けた場合のパフォーマンスを示しています。

1株単位で売買したグローバル・エクイティ・モメンタムのパフォーマンス

この図から明らかなように、「GEM」(モメンタム)のパフォーマンスは、「CWI」や「AGG」よりは優れているものの、2015年後半頃より「SPY」に大きく遅れをとるような結果となっています。

ここで、上図の開始時点である、2008年2月末における各資産クラスの価格は、「SPY」が111.7、「CWI」が19.63、「AGG」が82.07でした。

このように、各資産クラスの購入金額に大きな差があったため、各資産クラスの購入金額を一定にして検証してみることにしました。

「SPY」、「CWI」、「AGG」については、初めに1万ドルで購入し、そのまま保有し続けます。

そして、「GEM」に関しては、初めに1万ドルで購入し、以後はその時点での損益を加味した総資産額いっぱいまで購入するというルールで検証したのが、以下の図です。

1万ドルで売買したグローバル・エクイティ・モメンタムのパフォーマンス

すると、「GEM」のパフォーマンスは、1株単位のみで売買した場合とほとんど変わらず、むしろ若干低下してしまいました。

これには、「CWI」の低調なパフォーマンスが関係しているのではないかと思われました。

そこで、「CWI」を用いず、「SPY」と「AGG」のみで、「デュアルモメンタム」のパフォーマンスを検証したのが、次の図になります。

SPYとAGGのみのデュアルモメンタムのパフォーマンス

この図から分かるように、「モメンタム」のパフォーマンスは、上の2つのケースに比べて改善はしたものの、やはり「SPY」には劣る結果となってしまいました。

3.グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)の考察

ここで、「GEM」が、「SPY」すなわち「S&P500」を下回る結果となってしまった要因について、考えてみたいと思います。

その大きな要因として、「GEM」を含む「絶対モメンタム」が、本質的にはトレンドフォローであるということが挙げられます。

つまり、「S&P500」などの指数が、急落から回復していく局面では、「GEM」はどうしても出遅れてしまうのです。

その後、指数の上昇トレンドが続けば、「GEM」も追随していけますが、レンジ相場(揉み合い相場)では苦戦することとなります。

「S&P500」が大きなレンジ相場を形成した、2018年初めから2019年中頃までの期間では、それが顕著に現れていると言えます。

一方で、2008年9月のリーマン・ショック前後では、「GEM」が、「S&P500」の下落の影響をほぼ免れているというのは特筆すべき点です。

これは、『ウォール街のモメンタムウォーカー』の中でも触れられていたように、絶対モメンタムが「下落トレンドでは下方リスクを低減する」という特性を示しています。

こういったことから、「GEM」は金融危機などの大きな下落トレンドを経験すればするほど、その真価を発揮するのではないかと考えられます。

4.S&P500における絶対モメンタムの長期検証

そこで、より長期の観点から検証してみることにしたいと思いますが、超長期データ取得の都合上、「S&P500の絶対モメンタム」のみで検証していくことにします。

ここで、「S&P500の絶対モメンタム」については、過去12ヵ月間における「S&P500」のリターンで判断します。

同リターンが負であれば、何も購入せずに現金のままとし、同リターンが負でなければ「S&P500」を1単位だけ購入するものとします。

この「S&P500の絶対モメンタム」のパフォーマンスについて、1901年1月以降の推移を、「S&P500」とともに示したのが以下の図です。

1901年1月以降のS&P500の絶対モメンタムのパフォーマンス

すると、超長期の「S&P500の絶対モメンタム」のパフォーマンスは、S&P500とほぼ同等であることが見て取れます。

そして上図において、1990年1月以降の部分だけを取り出したのが、次の図になります。

1990年1月以降のS&P500の絶対モメンタムのパフォーマンス

この図から、2000年代初頭のITバブル崩壊や、2008年9月のリーマン・ショック前後では、絶対モメンタムの適用によって、ドローダウン(最大資産からの下落率)が大きく低減されていることが分かります。

その結果として、金融危機後には、「S&P500の絶対モメンタム」が「S&P500」をアウトパフォームしているのです。

5.日経平均株価における絶対モメンタムの長期検証

さらに、日経平均株価についても、絶対モメンタムを適用した場合のパフォーマンスを見ていきます。

検証方法は、「S&P500の絶対モメンタム」の場合と同様になります。

そして、「日経平均株価の絶対モメンタム」のパフォーマンスについて、1950年5月以降の推移を、「日経平均株価」とともに示したのが以下の図です。

1950年5月以降の日経平均株価の絶対モメンタムのパフォーマンス

意外なことに、「日経平均株価の絶対モメンタム」のパフォーマンスは、「日経平均株価」のそれを大きく上回っており、直近においては、バブル崩壊後の高値をも上回る結果となっているのです。

6.総括

「S&P500の絶対モメンタム」や「日経平均株価の絶対モメンタム」の検証結果から、やはり絶対モメンタムは、金融危機などの大きな下落トレンドを経れば経るほど、その真価を発揮すると言えます。

つまり、絶対モメンタムを利用する大きなメリットは、下落トレンドにおける下方リスクの低減にあるということです。

特に、バブル崩壊後の日経平均株価のように、大きな下落トレンドを頻回に認めるような資産クラスにおいて効果的です。

さらに、日本株を対象としたインデックス投資などでは、絶対モメンタムをドローダウンやボラティリティを低減するためのフィルターとしても活用できそうです。

ちなみに直近で、およそ12ヵ月から10ヵ月前の日経平均株価の終値は次のようになっています。

  • 2019年1月:20773.49
  • 2019年2月:21385.16
  • 2019年3月:21205.81

現在の日経平均株価の水準は、これらの値からはある程度上方にあります。

そのため、絶対モメンタムから判断すると、これらの水準にまで日経平均株価が下落しなければ、例えば日経平均株価に連動するETFなどは保持したままで良いということになります。

ただ、これは日経平均株価に限った話ではありませんが、これから数年のうちに、いつ金融危機が起こっても不思議ではないような状況だと思われます。

このような状況下では、絶対モメンタムに注意を払っておくことの重要性が、今後ますます高まってくるのではないかと考えています。

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