読書録・書評

【読書録・書評】『ウォール街のモメンタムウォーカー 〔個別銘柄編〕』(1/2:モメンタムの概要)

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、過去の価格変動に基づいて将来の期待パフォーマンスを予測することはできる、という「モメンタム」戦略について書かれています。

タイトルに[個別銘柄編]とはありますが、個別株の銘柄選別法ではなく、モメンタムを用いた戦略的なポートフォリオの構築法についての内容となっています。

本書に関しては、第1部と第2部の2回に分けてレビューしていきたいと思いますが、ここでは「モメンタムの概要」について書かれた第1部のレビューを書いていきます。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1部:モメンタムを理解する
    • 第1章:宗教よりも理性を
    • 第2章:アクティブ投資戦略が機能するわけ
    • 第3章:モメンタム投資は成長株投資ではない
    • 第4章:バリュー投資家がモメンタムを必要とするわけ
  • 第2部:モメンタムベースの銘柄選択モデルの構築
    • 第5章:モメンタム戦略構築の基礎
    • 第6章:モメンタムの最大化
    • 第7章:モメンタム投資家は季節性を知っておくべき
    • 第8章:定量的モメンタムは市場を打ち負かす
    • 第9章:実践で機能するモメンタム戦略を作る

2.バリュー投資という宗教

第1章は、投資の世界では、バリュー投資のようなファンダメンタルズ分析が信奉され、テクニカル分析は批判されることが多いといった内容となっています。

テクニカル分析への批判としては、次のようなものが挙げられています。

  • 「テクニカルアプローチでウォール街を生き残ることができるとはとても思えない」(ベンジャミン・グレアム著『賢明なる投資家』より)
  • 「チャートを逆さにしても、テクニカル分析ではまったく同じ解釈ができることから、それが機能しないものだと分かるだろう」(ウォーレン・バフェット)
  • 「チャートの中心的命題はまったくのデタラメだ‥」(バートン・マルキール著『ウォール街のランダム・ウォーカー』より)

一方で、スタンレー・ドラッケンミラー、ジョージ・ソロス、ポール・チューダー・ジョーンズなど、テクニカル分析がうまくいくことを身をもって示した実践家は数多く存在します。

また、バリュー投資を裏付ける研究よりも、テクニカル分析を裏付ける優れた学術研究が多く存在するとも言います。

数多くの学術研究は、ファンダメンタル戦略(バリューやクオリティーなど)も、テクニカル戦略(モメンタムやトレンドフォローなど)も両方ともうまくいくという証拠を示しているのです。

そのため、証拠に基づく投資家は、ファンダメンタル戦略とテクニカル戦略は同じコインの表と裏の関係にあるため、両方とも機能すると結論づけるだろうと述べられています。

そして、これら2つの戦略の共通の目的は、バイアスのかかった意思決定に影響される市場参加者の貧弱な意思決定を利用することだとも書かれています。

3.投資家の行動バイアス

本書の序文では、モメンタム戦略、あるいはどんなアノマリー戦略でも将来的に持続可能だと信じるには、次の2つの前提を設ける必要があると書かれています。

  • 投資家は行動バイアスに陥り続ける
  • 資産運用を他人に委託する投資家は近視眼的なパフォーマンスチェイサーである

第2章では、これらの例として、2000年から2010年にかけて最もリターンの高い株式ファンドであった、CGMフォーカスファンドの例が挙げられています。

それは、CGMフォーカスファンドの平均年次リターンが18.2%であったにもかかわらず、同ファンドの平均的な株主は、年に11%の損失を被っていたというものです。

この事実は、欲と恐怖に駆られた投資家たちの、天井で買い、底で売るという行動バイアスを示す良い例となっています。

4.モメンタム投資とバリュー投資、成長株投資

第3章では、バリュー投資とモメンタム投資について、それぞれ次のように書かれています。

バリュー投資のエッジは、短期的なファンダメンタルズが悪いことによる悲観主義で特徴づけられることが多い。そのため、株価は将来の期待に対して安すぎることになる。

モメンタム投資のエッジは、おそらくは短期的ファンダメンタルズが強すぎることに対する悲観主義で説明できる。そのため、将来に期待できる株価に対して安すぎる状態が継続するのである。

また、人間は最近のごくわずかなデータから拙速に結論を出す傾向があり、バリュー投資は過剰反応によって生みだされるのに対し、モメンタム投資は過小反応によって生みだされるともあります。

これは、システマティックな行動バイアスと、人間の認識力には限界があることによると言います。

そのため、人間は新たな証拠が出ても、考え方をなかなか変えようとしないのです。

そして第3章では、成長株投資とモメンタム投資の違いについても、言及されています。

まず、長期にわたって黒字の決算発表を行ってきた会社があったとします。

この会社で次の決算発表も大きな黒字であった場合、投資家はこのトレンドは続くものと予測して、過剰に楽観的で強気になります。

このように、投資家たちが将来的にも増益が続くと期待して、株価を過度に高い水準にまでつり上げるのが「成長株投資」であると言います。

次に、最近の決算発表が赤字だったり黒字だったりした会社で、次の決算発表が予想に反して良いものだった場合を考えます。

この場合、投資家たちはその決算発表は単に一時的なものだろうと疑いの目で見て、保守的になり、なかなか強気になれません。

つまり、投資家たちは良い決算発表に過小反応し、新たなファンダメンタルズ情報が完全に株価に反映されるまでにかなりの時間がかかるのが、モメンタム投資だということです。

ただ、モメンタム投資はあくまでも、ファンダメンタルズとは無関係で、過去の価格変動に基づいた戦略になります。

5.モメンタム投資のリターンと、バリュー戦略とのコンボ

第3章では、モメンタム投資のリターンについても触れられています。

1927年1月1日から2014年12月31日までのリターンを調べてみると、モメンタム株は、年平均成長率が16.85%と、バリュー株、成長株、株価指数を大幅にアウトパフォームしたとのことです。

もちろん、モメンタム投資も常に機能するわけではありません。

2008年1月1日から2009年12月31日までのリターン、あるいは2014年12月31日までの7年間のリターンでも、モメンタム戦略はほかを大幅にアンダーパフォームしていたのです。

つまり、モメンタム戦略は、バリュー戦略と同様に、長期的に見れば素晴らしいパフォーマンスを示していたとしても、何年間にもわたって低迷することがあり得るのです。

この問題に関して、第4章では、バリュー戦略とモメンタム戦略を組み合わせた、コンボポートフォリオについて検証し、説明がなされています。

モメンタム戦略と同様にバリュー戦略においても、それ単独では、長期にわたってベンチマークを大幅にアンダーパフォームしてしまうことがあります。

しかし、バリュー戦略とモメンタム戦略は相関が低く、両者を組み合わせることによって、長期的な悪いパフォーマンスの苦しみが低減することができると述べられています。

さて、第1部のレビューはここまでとなります。

続く、第2部のレビューにつきましては、「具体的なモメンタム戦略」ということで、以下の記事で書いていますので、よろしければご参照ください。

 

 

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