読書録・書評

【読書録・書評】『究極の低位株投資術 FAI投資法』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

本書は、林輝太郎氏を父に持つ、林知之氏による著書で、FAI投資法という低位株投資術について書かれています。

本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 序章:FAIクラブの誕生
  • 第1章:FAI投資法の概要と月足グラフの準備
  • 第2章:FAI 30項目のルールその①
  • 第3章:FAI 30項目のルールその②会社内容の分析
  • 第4章:FAI投資法これまでの運用成績

ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。

2.FAI投資法の概要

FAI投資法では、東証1部上場銘柄からガス、電力、金融(銀行)を除いた全銘柄のうち、低位株を対象とします。

低位株の有利な点として、下げにくい、上昇した時の効率が良い、心理的に買いやすいといったことが挙げられています。

一方で、安値に放置されている分、価格の高い銘柄に比べて倒産する可能性が高かったり、安値の保合が長引いたりすることがある点には注意が必要です。

また、株価のサイクルは考える以上に長く、「上げ相場と下げ相場がそれぞれ1~3年、底練りが2~3年、合計すると5~10年がひとつのサイクルとなる」とあるように、FAI投資法では月足グラフを用いて、その大きな流れをつかんでいきます。

この月足グラフとファンダメンタルズの資料(データ・スリップ:会社情報の切り抜きと新聞の業績修正発表)を用いて、系統立ってまとめられたルールによって銘柄を絞っていくのです。

なお、本書では、月足グラフの描き方やデータ・スリップの作り方についても非常に詳しく説明されています。

3.FAI 30項目のルール

「系統立ってまとめられたルール」と書いてあるように、FAI投資法では以下のような、30項目のルールが定められています。

  1. ★ 4~5年下げ、3段下げ完了の銘柄を買う
  2. ★ 2番底形成を待つ
  3. ★ 下に来ての6連続陰線に注意:W底の底、または小さくとも毛抜き(短期間で2番底を形成する形)の出るのを待つ。
  4. ★ 20本下げは20本上がる:だらだらと30本下げたものを10本で切り返すと大きく3段上げを見せる。
  5. ★ 三角形に注意:切り上がり、二等辺、切り下がり、各三角形のうち切り上がり三角形が最も強い。特に2~3年あるいはそれ以上かかって形成された三角形は大きく上伸する。
  6. ★ 1株当たり純資産に食い込んだら注意
  7. ★ 2番底の陰線下部の十字は直ちに買い
  8. ★ 三角形の先端陰線下部の十字は直ちに買い
  9. ★ 安値にきての5連続陽線は買いの準備:次の2連続陰線をみてから買い。
  10. ★ すべて小動きになったあとの兆し陽線に注意:そのあとの陰線2本をみて買い。
  11. 保合、または安値からの最大陽線は、そのあとの2/3押しで買い
  12. ★ W型、M型底の切り返し(両抜きも)は上げのはじめ
  13. ★ 6~12か月(またはそれ以上でも)の上げ下げが90°(前後)のとき、その下げトレンドを上抜く陽線は上げの第一歩
  14. ★ 過去4~5本を一気に上抜く陽線は上げの兆し
  15. 買う時は2分割またはそれ以上の分割で、細かく分けるときは下値ほど厚く買う
  16. ☆ ボーダーライン(切り下がり三角形の上辺)を超えたら5円上抜きをみて買い
  17. 上放れ3陽線のあと3本目の陽線の半分以下に陰線が食い込んだら上げ幅の半分下がる
  18. 1段上げは約100円。しかし、70~80円で利食いする
  19. ☆ 上げ途上のプラットフォーム(ボックスの上辺)を抜いたら5円上抜きで買い。陽線3本をみて売り手仕舞い。再び下げてきたときにプラットフォームの20円上で買い
  20. ★ 1株あたり純資産の増加は買い。3期連続増加は絶好。ただし、ここで3連続陽線などで上げていれば売り
  21. ★ 日本証券決済が大株主10位以内に出てきたら買い:現在は該当なし。
  22. ★ 人員整理および資産売却は買い
  23. ★ 経常利益予想が30%以上増加だったら注意
  24. ★ 同業種の先導銘柄が上伸に転じたら注目銘柄に注意、買いの準備
  25. ★ 5期連続無配および債務超過はチャートが良くても避ける
  26. ★ 前期が赤字で、今期が経常または税引きトントンの銘柄に注意
  27. 発行株数の5%以上の出来高を見せたら、4日目に利食い
  28. 1段上げでも、2段上げでも、陰線の両抜きが出たら(出そうでも)いったん利食い
  29. 10年またはそれ以前の高値でも、それを抜いて新高値をつけたときはいったん売り:27,28,29項およびその他いったん利食いした後買い直すとき、または買い増しするときは出来高が細ったときにする。
  30. 3段上げは天井:3段上げで売り。3段目の5連続陽線は売り。
  • 資金の2割以上は常に余裕を持つ
  • 信用取引買いは絶対禁止
  • 信用取引売りは、この方式3年またはそれ以上の経験後、資本300億円以上の銘柄のうねりを見て行う

(注)

  • ★印は銘柄選択のルール。このうち、8つ以上のルールが適合したら、それを選定銘柄とする。ただし、1項目か2項目でも非常に強大であるなら選定することもあり得る。
  • ☆印のルールは、非常に低位の、または不況の時期で動きが詰まっている(小動き)場合にのみしか出現しない。
  • FAI方式は低位株投資法であるが、低位といっても「いくら以下」と定めたものではない。84年から88年においては、一応「400円以下」と銘柄選定委員会で決めたが、それでも絶対的ではなかった。

4.FAI 30項目のルール 補足

  • ルール1において、「3段下げ」とありますが、この3段の数え方について次のように書かれています。

    陰線で下げてきて、新安値をつけて戻り、陽線で新高値を2回つけた(これを逆行新値2本、新高値2本、あるいは新値2本という)ときに、そこまでを1段とみなす。

    ただし、例外や応用が必要な場合も多いといいますが、とにかく、十分な日柄(年数)をかけて大きく下げ、下げ切った(と確信が持てる)銘柄を選ぶということです。
    「ルール1:4~5年下げ、3段下げ完了の銘柄を買う」

  •  ルール4において、「切り返し」という言葉がありますが、これに関連して以下のような、酒田罫線法の線組みにおける「底型」の図が載せられています。
    切り返しの図

    A:拍子木、B:差し違え、C:切り返し、D:両抜き、E:孕み(はらみ)
    ただ、「切り返し」という言葉については、「値動きの反動」と理解していればよいとも書かれています。
    「ルール4:20本下げは20本上がる:だらだらと30本下げたものを10本で切り返すと大きく3段上げを見せる」

  • ルール5にある「三角形」というのは、値動きが次第に収れん(値動きの振幅が徐々に小さく収束していくこと)されて、一定期間の変動範囲が、右側にとがった三角形に見える形をいいます。
    三角形の注意点としては、その確認ラインは必ず3か所以上を結ぶ線でなければならないということです。「ルール5:三角形に注意:切り上がり、二等辺、切り下がり、各三角形のうち切り上がり三角形が最も強い。特に2~3年あるいはそれ以上かかって形成された三角形は大きく上伸する」

  • ルール7やルール8の十字というのは、次のようなものです。
    十字の図  三角形先端および2番底の十字の図
    「ルール7:2番底の陰線下部の十字は直ちに買い」
    「ルール8:三角形の先端陰線下部の十字は直ちに買い」
  • ルール10とルール11については、次のような図が載せられています。
    単独の兆し陽線と押しの図
    「ルール10:すべて小動きになったあとの兆し陽線に注意:そのあとの陰線2本をみて買い」
    「ルール11:保合、または安値からの最大陽線は、そのあとの2/3押しで買い」
  • ルール13の「上げ下げが90°」というのは、以下のように図解されています。
    90°の上げ下げの兆し陽線の図
    「ルール13: 6~12か月(またはそれ以上でも)の上げ下げが90°(前後)のとき、その下げトレンドを上抜く陽線は上げの第一歩」

5.総括

FAI投資法では、「どんなに多いときでも資金の2割は余らせる」ことがルールとなっていますが、これは「常に8割の資金を稼働させる」のではなく、資金は多く余っている方が上手くいくと書かれています。

「過去の実例でも、年間2倍を達成した口座は、常に半分以上の資金が余っていた」ともあるように、資金には常に十分過ぎるほどの余裕を持たせておくことの重要性を再認識させられます。

また、FAIクラブでは、1988年から書籍執筆時点(1999年初夏)まで、10年以上にわたって銘柄選定が行われなかったことで、1990年からの下げ相場を見事に避けることができたといいます。

さらに、FAI発足以来、選んだ銘柄は選定時より2倍という目標を100%達成しており、倒産銘柄を選定することもなかったというのです。

もちろん、バブル経済という好環境下であったことも関係しているとは思われますが、それにしても優れた手法だと言えるでしょう。

そして、「株価は5~10年がひとつのサイクルになる」と書かれているように、株式のバイ・アンド・ホールド(長期にわたって保有し続ける投資戦略)では、株価が大底をつけるのを忍耐強く待つことがとても重要だと感じました。

なお、本書には続編が出ていますので、それについては次回にレビューしていきたいと思います。

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