読書録・書評

【読書録・書評】『世界を変えた14の密約』(2/2:貧富の差の拡大と、予想される未来)

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.本書の概要

まずは、本書の概要からです。

  • 世界を変えた14の密約
  • 著者:ジャック・ペレッティ
  • 出版日:2018/5/30
  • お役立ち度 :
  • 難易度   :
  • マニアック度:
  • 分類:経済、ビジネス

本書は、欧米の一流紙誌にも記事を掲載している、英国を代表するジャーナリストによって書かれたものです。

グローバル企業が各国政府を超えるまでに影響力を強め、それによって貧富の格差も拡大し続けていますが、その背景にあるものや、その先に予想される将来について本書では書かれています。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章:現金の消滅
  • 第2章:小麦の空売りとアラブの春
  • 第3章:租税回避のカラクリ
  • 第4章:貧富の格差で大儲けする
  • 第5章:肥満とダイエットは自己責任か
  • 第6章:国民全員を薬漬けにする
  • 第7章:働き方が改革されない理由
  • 第8章:終わりなき”買い替え(=アップグレード)”
  • 第9章:権力を持つのは誰か
  • 第10章:企業が政府を支配する
  • 第11章:フェイクニュースが主役になるまで
  • 第12章:ロボットと人間の未来
  • 第13章:人類史上最大案件=「知性」の取引
  • 第14章:21世紀のインフラストラクチャー

本書は長文の大作ということもあり、勝手ながら以下のように、2つのパートに大きく分けて、レビューしていくことにします。

  1. グローバル企業はいかにして影響力を高めてきたか?
  2. 貧富の差の拡大と、予想される未来

前者については、以下の記事でレビューしていますので、よろしければご参照ください。

そして今回は、後者のテーマについて書いていきたいと思います。

2.「貧富の格差」拡大と新たなビジネスチャンス

メキシコの通信王カルロス・スリム、ビル・ゲイツ、ザラ創業者のアマンシオ・オルテガ、ウォレン・バフェット、アマゾンのジェフ・ベゾス、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、オラクルのラリー・エリソン、マイケル・ブルームバーグ。

第4章では、この8人で、地球上の富の半分近くを所有すると書かれています。

また第2章には、中流層は存在しなくなり、その購買力もなくなるため、投資機会としては終わりだとも書かれています。

中流層は、ホームレス同様の最下層に吸収されていくだろうと言うのです。

そして、再び第4章に話を戻すと、そこにはこれまでにない新しいビジネスチャンスが生まれると言います。

それは、貧困層向けプロダクトの販売のことで、具体的には以下のようなものが挙げられています。

小口ローン、ゼロ時間契約(賃金も労働時間も保障されない労働体系)、高金利ローン、貧困層のストレスが増すにつれ、ギャンブルやアルコールはふたたび一大産業になる。

人々の生活がぎりぎりになれば、100円ショップやディスカウントストアもまた巨大な商売になる。

3.ロボットの仕事を奪い合う未来

第12章には、中流層の仕事はロボットに取って替わられやすいとあり、2013年のオクスフォード大学のカール・フレイとマイケル・オズボーンが書いた研究論文について触れられています。

その論文では、全ての仕事の半分が自動化される可能性があると書かれていたのです。

また、次のようにも書かれています。

陳腐化がどんな職業にも起きることが明らかになっていた。医師、弁護士、会計士、スーパーの店員、タクシー運転手、介護士、ジャーナリスト、ロボットの未来を予測するテクノロジー・アナリストでさえも。

一方で、ロボット時代には、「雇用は上がり、賃金は下がる」という一見相反する経済トレンドが同時に起きると言います。

この矛盾を、経済学者のポール・メイソンが「洗車の経済」と呼んでいるように、本書では自動洗車機の例が挙げられています。

これは、アメリカではガソリンスタンドから自動洗車機が消え、修繕コストのかかる機械よりも安く済む、低賃金の人間が洗車をするようになっているということです。

そして、超低所得の完全雇用という状況が社会不安につながらないためには、生活必需品の物価が歴史的な低水準にとどまることが必要だとも書かれています。

4.貧困国での食糧危機と水不足

物価ということに関して、第2章では食料や水について触れられています。

例えば、世界の小麦の9割が、頭文字をとってABCDとして知られる、ADM、バンジ、カーギル、ルイ・ドレフュスの4社によって支配されていると言います。

ABCDは、2006~2007年にかけて穀物が豊作であったときにも、世界中で穀物の価格を上げ、ほんの少しの値上げでも破壊的な影響を受けるアフリカと中東では、大陸全域で食糧危機が起きたのです。

また、世界的な水の需給は逼迫する方向に向かっており、デンマークのオーフス大学の研究者は、2030年までに世界中で必要な水に対して4割の不足が出ると予想しています。

水が枯渇していくなかで、ネスレやコカ・コーラ、ペプシといった、グローバル企業は個別の地域に手を回し、水源を買いあげています。

その結果、貧しい国での水不足は深刻なものとなり、食品製造の拠点も水資源のある豊かな国に移ります。

水のない場所では食べ物が育たなず、食料を輸入しなければならないため、干ばつ地域の貧困層は、食糧価格の変動でも苦しむことになってしまうのです。

5.貧困層による革命、国家の逆襲

第2章では、食糧価格の高騰によって追い詰められ、辱めを受けた露天商のとった行動が、「アラブの春」と呼ばれる大規模な反政府デモへとつながったことについて触れられています。

また、「アラブの春」が発生した北アフリカや中東以外でも、このような革命に近いものが起こる可能性があります。

実際に、2011年にはイギリスの大都市でも暴動が起きましたが、2007年に英国防省は一般市民が大規模な不服従運動を起こす可能性を、報告書の中で以下のように懸念していたと言います。

「中流層は革命層となる可能性がある。マルクスが思い描いたプロレタリアートの役割を果たすのが、彼らだ」

格差が拡大すれば、中流層は「団結し、知識やリソースや技能を使って、国を超えて自分たちの利益にかなう結果を作り出す」かもしれない。

そして、第13章では、GAFAやマイクロソフト、パランティアなどといった、巨大なテクノロジー企業が直面する新たな脅威について触れられています。

それは、国粋主義が台頭するヨーロッパのような、国家の統治を取り戻そうとする政府になります。

資本主義の歴史は、独占に対する闘いの歴史でもあり、これらのテクノロジー企業といえども、巨大化し続けることにかなりの困難を伴うのは間違いないでしょう。

6.健康格差・生物格差につながる経済格差

一方で、第6章では、金持ちの代名詞とも言える、「ウェルネス」産業について触れられています。

それは例えば、以下のようなものになります。

サプリメント、ビタミン、スーパーフード、ヨガ、整体、マインドフルネス、セロトニンセラピー、腸洗浄、内臓のデトックス。または、蘭の花の置かれた巨大な大理石の受付のある豪華スパでのリトリート(1回あたり500ドル)。

さらに、遺伝子編集により、金持ちは他の人たちとは違う遺伝子構造を持つようになり、種として一段上になる可能性があると言います。

「より強く、より引き締まり、より美しく、カクテルパーティーでは暗闇の中で光を放つことさえできるようになる」と言うのです。

第8章では、オクスフォード大学の生物技術者のアンダース・サンドバーグが次のように言っていると書かれています。

アップグレードされた人間と、アップグレードされない下層民の2種類に人類という種が分かれる、つまり「種形成」が起きる。

はじめに収入格差から生まれた医療格差とDNA編集の有無が、一世代後には生物学的に後戻りできない階級格差になるだろう。今の遺伝子と同じで、アップグレードは次の世代に受け継がれる。

7.総括

本書では、グローバル企業や特権階級の人たちが、いかにして自分たちの利益を増大させたかや、その結果として貧富の差が異常なまでに拡大してきたことが浮き彫りにされています。

本書にあるように、私たち日本人の多くも、中流層から下流層へと転落していくことは避け難いのかもしれません。

日々のニュースを読んでいても、確かにそうなりつつあるように感じざるを得ませんが、第4章では、最下層へと吸収されていく中流層について次のような言及があります。

しばらくは身の丈を超えた生活を続け、なんとしてでも中流の暮らしにしがみつこうとする(海外旅行に出かけたり、新車を買ったりする)。そうやって、自分がまだ中流だと思い込もうとする。

この記述に関しても、実際に私の周りを見ていても、強く同感できます。

しかし、超低賃金でロボットの仕事を奪い合うような未来が確実に近づいてきていることを認識しておく必要があります。

つまり、いつ自分が最下層へと転落してもおかしくはないという危機感を持っておく必要があると言えるでしょう。

そして、具体的に何をすべきかは個々人によって異なるため、一人ひとりが自分自身の頭で考えて、実際に行動に移していかなければなりません。

快楽を先受けし、後で代償を払うのか、それとも、後になって苦労しないために代償を先に払うのか。

少なくとも私は後者の道を選びたいと思っています。

最後になりますが、本書はこれからを生きる学生や社会人の方たちに是非とも読んでいただきたい内容だと言えます。

同じくらいの分量(厚さ)で、最近話題となっている書籍に『GAFA』や『FACTFULNESS』がありますが、その両者を読むのであれば、本書の方を読むことを強くお勧めします。

 

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