読書録・書評

【読書録・書評】『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

本書は、「資本主義」に代わるものとして、「価値主義」というものについて書かれています。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章:お金の正体
  • 第2章:テクノロジーが変えるお金のカタチ
  • 第3章:価値主義とは何か?
  • 第4章:「お金」から解放される生き方
  • 第5章:加速する人類の進化

ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。

2.優れた経済システムの要素

第1章では、持続的かつ自動的に発展していくような「経済システム」の要素について書かれています。

まず、発展する「経済システム」の5つの要素として、次のようなものが挙げられています。

①インセンティブ、②リアルタイム、③不確実性、④ヒエラルキー、⑤コミュニケーション

次に、経済システムに持続性をもたらす2つの要素について触れられています。

1つ目は、経済システムの「寿命」を考慮しておき、寿命が来たら参加者が別のシステムに移っていけるような選択肢を用意しておくということです。

2つ目は、参加者が「共同幻想」(同じ思想や価値観)を共有することで、参加者の利害がぶつかっても、互いに譲歩できる着地点を見つけられる可能性が高まるということです。

ここまでは、なるほどという内容でしたが、問題はここからで、本章の後半では、脳の報酬系という観点から、経済システムについての考察がなされています。

まず、人間は報酬系の奴隷のようなもので、ここで発生する快楽物質欲しさに様々な行動に駆り立てられると書かれており、これに加えて次のようなことも書かれています。

脳の報酬系は欲求が満たされた時だけではなく、報酬が「期待できる状態」でも快楽物質を分泌することがわかっています。

そして、ここからすぐ次のように結論付けられています。

つまり、人間の脳は経験や学習によって快楽物質を分泌する対象を自由に変化させることができるということになります。

これに関しては、かなり論理的な飛躍を感じると同時に、もしこんなことが可能であれば、全ての人間は自分が身に付けたいと思う能力を片っ端から習得していくことができるのではと思ってしまいます。

さらに、すぐ後には次のような記述があります。

脳は、一言で言えば非常に「退屈しやすい」「飽きやすい」性格を持っています。

長時間変化の乏しいような環境であったり、予測可能性の高いような場合は、脳内の報酬系が刺激されにくいのです。

脳は予測が難しいリスクのある不確実な環境で得た報酬により多くの快楽を感じやすいということが研究でわかっています。

ということは、リスクがあって不確実な環境に飛び込み続けることで、報酬系を自由に変化させることができるということなのでしょうか。

ですが、しばらく読み進めると、快楽物質は強力すぎる諸刃の剣であり、強力な動機付けを行うが、その力に頼りすぎるといつか無理が出てきてしまうとも書かれています。

そのため、「バランスを見ながら適度に報酬系を刺激する仕組みを取り入れてください」として、この話題については締め括られているのです。

結局、何が言いたいのかよくわからず、もっともらしいことを言って煙に巻いているだけのように感じてしまいました。

3.価値主義とは何か?

第2章では、シェアリングエコノミーやトークンエコノミーについて簡単に触れられており、第3章では「価値主義」というものについて書かれています。

この価値主義について、まずは世の中で使われている価値という言葉が、①有用性としての価値、②内面的な価値、③社会的な価値、の3つに分類されています。

そして、資本主義の問題点は、①の有用性のみを価値として認識して、その他の2つの価値を無視してきた点にあり、価値主義では、①~③のすべてを価値として取り扱う仕組みだとしています。

また、これからは「ソーシャルキャピタル」を増やすのに長けた人も大きな力を持つようになると思われると書かれています。

この「ソーシャルキャピタル」については、次のように定義されています。

アメリカの政治学者ロバート・パットナムが、ソーシャルキャピタルとは「人々の協調活動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会的仕組みの特徴」と定義しています。

ソーシャルキャピタルは、個人が繋がってできている社会が持続的に良い方向に発展していくために必要な「社会的ネットワーク」を「資産」と捉えるという考え方です。

さらに、将来の方向性として、次のように書かれています。

数十年後には「営利」と「非営利」という区別はなくなっており、活動は全て「価値」という視点から捉えられるようになっているでしょう。

ベーシックインカムが普及したら、お金を稼ぐ能力も今ほどの価値はなくなります。

そして、次のようにまとめられています。

これまで300年近く国家の専売特許とされてきた通貨の発行や経済圏の形成が、新たなテクノロジーの誕生によって誰でも簡単に低コストで実現できるようになりつつある。

価値主義では新たなテクノロジーの誕生によって、内面的な価値や社会的な価値をも可視化して、それらも経済として成り立たせることで、資本主義の欠点を補完することができるようになっています。

このように、第3章では「価値主義」なるものについて書かれていましたが、そもそも資本主義においても、②の内面的な価値や③の社会的な価値が無視されてきたとは思えません。

また、新たなテクノロジーによって、個人が何らかの通貨発行や経済圏の形成を行うことができるようになったとしても、一番の問題はその価値を担保し、維持し続けることでしょう。

4.価値主義での生き方

第4章では、『「お金」から解放される生き方』とのことで、「あらゆるものが満たされた世界ではこの人生の意義や目的こそが逆に「価値」になりつつあります」と書かれています。

そして、「マズローの五段階欲求で言えば、最上級の自己実現の欲求のさらに先の欲求、社会全体の自己実現を助けたいという利他的な欲求が生まれてきています。」とのことで、次のように展開されています。

多くのミレニアル世代が人生の意義のようなものを探している世界では、内面的な欲望を満たす価値を提供できる人が成功しやすくなります。

そのため、「この世界で活躍するためには、他人に伝えらえるほどの熱量を持って取り組めることを探すことが、実は最も近道と言えます。」とされています。

また、次のようにも書かれています。

そして、そこでは世の中の需要だったり、他の人の背中を追う意味は薄くなります。なぜなら、内面的な価値ではオリジナリティ、独自性や個性が最も重要だからです。その人でなければいけない、この人だからこそできる、といった独自性がそのまま価値に繋がりやすです。

独自性や個性という観点からすると、例えば世間では給与が高くて人気のある企業に勤めていること自体に、価値はないという状況も普通に起こります。なぜなら、大手商社マンの部長は既存の経済の中では人材価値が高いと思われがちですが、その人の価値はその企業が定めた「肩書き」に依存しているため代替可能です。仕事を通して独自のスキルや経験などを身につけていない限りは自分の「価値」の向上にはなりません。

ここで書かれているように、独自性や個性が大事なのは言うまでもありませんが、そういったものは「守破離」を通して身につくものです。

つまり、まずは基本的なことをひたすら繰り返す段階が必要であり、いきなり独自性などといってもただの独りよがりに過ぎないものとなってしまいます。

そういった意味で、人気の企業や大企業は基礎をしっかりと叩き込んでもらえることが多く、まずそうした企業に勤めるというのは十分に価値のあることだと思います。

また、大手商社マンに限りませんが、仕事は独自のスキルや経験だけで決まるものではなく、義理人情のようなもので大きな商談が決まることも多々あります。

そして、そういったものは代替のきかない大きな「価値」であるといえます。

それに、そもそもスキルや経験のような、「①有用性としての価値」だけではなく、「②内面的な価値」や「③社会的な価値」の重要性について書いていたはずではなかったのかと言いたくなってしまいます。

なお、第5章では、エストニアの電子政府やVR/AR、宇宙ビジネスなどについて触れられていますが、どれもありきたりの内容で、目新しさや深い洞察などはありませんでした。

5.総括

本書は、全体を通して、論理性に乏しかったり、肝心の考察に関しても表面をなぞっただけの軽薄なものであったりといった印象でした。

著者は、勢いに乗る「メタップス」という会社の代表ではありますが、本書は会社の逆ブランディングになりかねない内容だと言わざるを得ません。

本書の「はじめに」では、次のように書かれています。

この本を書いた目的は、「お金や経済とは何なのか?」、その正体を多くの方に理解して欲しい、そして理解した上で使いこなし、目の前のお金の問題を解決して欲しいということです。

著書は、この目的を一体どれほど達成できたのでしょうか。

元々、本書を読んでみようと思ったきっかけは、サイバーエージェントの運営する「Abema TV」で、本書の出版元である幻冬舎の見城社長や、著書たちが出演している番組を目にしたことでした。

その中で、見城社長が、本書を売るためにバンバン広告を打ってやったというようなことを発言していました。

ですから、本書が売れているのは、きっと広告の力によるところが大きいのでしょう。

そういった意味では、「価値」とは何かをあらためて考えさせられる内容でした。

 

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