読書録・書評

【読書録・書評】『財務諸表は三角でわかる 数字の読めない社長の定番質問に答えた財務の基本と実践』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、中小企業の社長を対象とした、財務諸表の読み方について書かれています。

そのため、株式投資で対象となるような上場企業の財務諸表のように複雑なものではありませんが、財務諸表のエッセンスを掴むには十分な内容だと言えます。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章:数字の読めない社長が毎回聞いてくる10大質問
  • 第2章:財務諸表は三角でわかる
  • 第3章:中小企業の財務諸表は間違えている
  • 第4章:こんな財務諸表はヤバい!
  • 第5章:ここを変えれば、会社は強くなる!

2.「貸借対照表(B/S)」の項目

本書のタイトルに三角とあるように、財務諸表は主に、「貸借対照表(B/S)」、「損益計算書(P/L)」、「キャッシュフロー計算書(C/S)」の3つからなります。

まず、「貸借対照表(B/S)」については、次のように書かれています。

B/Sは、「調達」(お金を集める)「投資」(お金を事業に投資する)「回収」(利益を出して回収する)という経営活動をまとめているだけです。

B/Sの右側には「調達」(どこからお金を集めたか)、左側には「投資」(何にお金を使っているか)が記載されています。

そして、右側の「調達」には以下のような項目があります。

  • 負債:返さなくてはいけないお金
    • 流動負債:1年以内に払わなければならないもの。買掛金や未払金、1年以内に返済する借入金など。
    • 固定負債:1年以上先に払えばいいもの。金融機関からの長期借入金、長期のリースの支払いなど。
  • 純資産:返さなくていいお金
    • 資本金:経営者自身の貯蓄から会社に投資したり、投資家から集めたりしたもの。
    • 利益剰余金:会社の今までの利益の積み上げ。

また、左側の「投資」には以下のような項目があります。

  • 資産
    • 流動資産:1年以内に現金化できるもの。現預金・商品・売掛金など。
    • 固定資産:1年以内には現金化されない、できないもの。建物・機械・土地など。

3.「貸借対照表(B/S)」の分析

本書では、B/Sの分析で使われる、安全性を示す指標として、「流動比率」と「自己資本比率」の2つが挙げられています。

まず、「流動比率」というのは、会社が短期的に資金ショートを起こさないかをみるもので、次の式で算出されます。

流動比率=流動資産/流動負債

この数値が100%以下だと、資金がショートする可能性があるといえます。

ただし、この数値が100%を超えていても、流動資産には、先に費用を支払っただけの前払家賃や、売れないかもしれない在庫が載っていることがあるため、注意が必要であるとも書かれています。

次に「自己資本比率」とは、B/Sの右側の調達のうち、どれくらいを返済不要の純資産でまかなっているかを表す比率で、以下の式で表されます。

自己資本比率=純資産(自己資本)/総資産(負債+純資産)

この自己資本比率に関しては、次のように言及されています。

資本金を増やす(増資する)か、利益を出して納税し、利益剰余金を蓄えていくことでこの比率が上がっていきます。一朝一夕で上がる数値ではないので、他の指標よりも参考になります。

4.「損益計算書(P/L)」の項目

続いて、「損益計算書(P/L)」についてです。

P/Lは、利益を計算する表で、以下の5つの利益からなります。

  1. 売上総利益(粗利):売上高から、その売上に直接かかる費用である売上原価を引いたもの。
  2. 営業利益:売上総利益から「販売費及び一般管理費」(給与・家賃・広告その他営業活動に必要な費用)を引いたもの。
  3. 経常利益:営業利益に、営業外収益(受取利息や不動産賃貸業以外の家賃収入など)と営業外費用(主に支払利息)を足し引きしたもの。
  4. 税引前当期純利益:経常利益に、臨時的な損益(特別損益:固定資産や有価証券などの売却による損失や利益、火災による損失やそれによる保険収入など)を足し引きしたもの。
  5. 当期純利益:税引前当期純利益から、法人税等を引いたもの。

そして、この税引後の当期純利益が、B/Sの利益剰余金に積み上がっていきます。

5.「キャッシュフロー計算書(C/S)」の項目

最後に、「キャッシュフロー計算書(C/S)」についてです。

C/Sでは、お金の増減を以下のように、営業・投資・財務の3つの項目に分けて計算されます。

  • 営業CF(営業キャッシュフロー):本業によるお金の増減を表します。ざっくりと営業CFをとらえるときはP/Lの経常利益+減価償却費で計算できます。
  • 投資CF(投資キャッシュフロー):設備投資やM&Aなど将来の売上・利益のための投資によるお金の増減を記載する場所になります。お金を使って投資したときはマイナスになり、設備を売却してお金が入ったときなどにプラスになります。
  • 財務CF(財務キャッシュフロー):主に借入金の増減が記載されています。借入によりお金が増えればプラス、返済のほうが多ければマイナスになります。

例えば成長企業では、調達を増やして投資をするため、財務CFがプラスで、投資CFがマイナスとなっているケースが多くなります。

6.総括

ここでは、言葉のみによる説明となってしまいましたが、本書の中では、簡易的な財務諸表の図も示しながら、分かりやすく説明されています。

また、特に第1章や第4章では、財務諸表を読むうえで勘違いしやすい点や、見るべきポイントについても書かれています。

本書は中小企業の財務諸表を想定して書かれた内容ではありますが、上場企業の財務諸表であっても見るべきポイントは、そこまで大きく変わってこないでしょう。

そういった意味でも、本書は財務諸表の読み方に関する良い入門書ではないかと思われます。

 

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