読書録・書評

【読書録・書評】『伝説のファンドマネージャーが教える株の公式』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書は、著名投資家のジム・ロジャーズやラリー・ウイリアムズに直接学び、世界最大の投資ファンド(アブダビ投資庁)で運用していたという、林 則行氏によって書かれています。

本書では、「新高値投資」を実践するためのポイントが、複数の公式として分かりやすくまとめられています。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章:公式に代入するだけで株で勝てる
  • 第2章:新高値をつけた銘柄しか買ってはいけない!
  • 第3章:3つの業績を見れば、スター株が見つかる
  • 第4章:絶対に守らなければいけない売りの公式

2.新高値銘柄をチャートで絞る

本書の投資手法は、「新高値を更新した銘柄を選び、今後も大きな成長が続くかどうか検討する」というものです。

この「新高値」については、過去2年以上の高値を抜いたかを見ますが、その参考となるサイトとして、過去15ヵ月の高値を抜いた銘柄が毎日紹介されている「ケンミレ株式情報の新高値銘柄」が挙げられています。

また、理想的な新高値更新は、保ち合い圏抜けであり、保ち合い期間が長く、その値動きの幅が狭いほど良いと書かれています。

加えて、長期チャートの中で、新高値更新の出現位置が高いほど(戻りの6合目以上)、成功の確率が高いともあります。

3.新高値銘柄の成長性を測る

次に、ファンダメンタルから、新高値銘柄を選別していきます。

具体的には、以下のような基準が挙げられています。

  • 過去5~10年間の経常利益
    • 年平均7%以上の成長
    • 減益がないか、あってもごく小さなものである
  • 直近1~2年の経常利益の伸び率が、20%以上
  • 直近2~3四半期の売上の前年同期比伸び率が、10%以上
  • 直近2~3四半期の各種利益の前年同期比伸び率が、20%以上

また、これらの中で最も大事なのは、直近の業績変化率で、直近の四半期での経常利益(前年同期比)が20%未満ならば、投資対象から外すのが原則だと書かれています。

さらに、今後も揺るぎない成長が見込めるかを、IR動画や資料から判断します。

特に、会社説明会やIR動画で、社長が業績の変動要因に「景気」を挙げたら、その会社は投資対象から外して良いと言います。

そして、「PER」が高すぎないかどうかにも言及されており、60倍未満を一つの条件としています。

4.全体市場の動向を把握する

著者の検証結果によると、本書の投資手法の成功確率(勝率)は、相場状況によって、次のようになると書かれています。

  • 上げ相場:60%以上
  • 暴騰相場:80%
  • 下降相場:20%台

そのため、個別銘柄の命運を左右する、「市場動向」に関心を払う必要があるのです。

それには、新高値銘柄の数に注目します。

つまり、新高値を更新する銘柄数が多いほど、相場全体の上昇力が強いと判断するということです。

より具体的には、著者オリジナルの「新高値銘柄数レシオ」というものが紹介されています。

ただ、それとは別に、手っ取り早い方法として、「ケンミレ株式情報の新高値銘柄数」を参照するという方法についても触れられています。

以上が、「買いの公式」となりますが、大事なことは「総合的に判断する」ことだと言っています。

というのも、すべての項目を満たす銘柄はまず存在しないからですが、その中でも次の2点は重視するとのことです。

  • 今後も揺るぎない成長が見込めるか(IR動画、資料から判断)
  • 上げ相場の上昇力の強さ

5.売りの公式

最後に、第4章では「売りの公式」について書かれています。

本書の投資手法は、勝率が60%程度であり、その中でも大きく上昇するのは一握りの銘柄だけとのことです。

そのため、その「スター銘柄」を、途中で高所恐怖症にならずに最後まで利益を取る、つまり損切りルールに引っ掛からない限り、保有し続けて利益を伸ばすことが大事だと言うのです。

そして、損切りについては、買い値から8%前後下がった時点で必ず行います。

また、株の売りは、基本的にはテクニカルによる売りサインで行いますが、これについても著者オリジナルの「売り圧力レシオ」なるものが紹介されています。

この「売り圧力レシオ」は、出来高の概念を取り入れたものになります。

ただ、これに関しては、「直近の天井から10%下落したら売り」や、「大きな出来高を伴って下落した売り」などといったルールで代替しても、パフォーマンスに大きな差異は生じないと思われます。

なお、「ファンダメンタルによる売り」としては、次のものが挙げられています。

  • 直近の利益(前年同期比)が20%未満のとき
  • 会社の不正が発覚した場合は即売り
  • 事故のニュースは原則売り

6.総括

本書では、各項目で例を挙げながら、豊富な図表とともに解説がなされています。

一つ一つは分かりやすく書かれているのですが、項目数が割と多いので、初心者の方にはやや難しく感じられるかもしれません。

また、投資経験の浅い方にとっては、本書の価値が十分には理解できないかもしれません。

これに関しては、成長株やモメンタム株について書かれた他の書籍も読むことによって、本書の理解がさらに深まるはずですし、そういった書籍に関しても今後、当ブログでレビューしていくつもりです。

そして、本書にあるような投資手法というのは、実はバリュー投資とも相性が良いものでもあります。

そのため、本書の投資手法だけを実践するのではなく、自身のポートフォリオの一部に取り入れるだけでも、パフォーマンスの改善に大きく役立つはずです。

もちろん、それは口で言うほど容易なことではありませんが、試してみる価値は大いにあります。

本書は特に、ある程度の経験を積んできたような投資家の方に、是非とも読んでいただきたい内容だと言えます。

なお、以下の記事では、本書の続編である、『伝説のファンドマネージャーが実践する 株の絶対法則』についてレビューしていますので、よろしければご参照ください。

 

 

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