ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.東証REIT指数とTOPIX
まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。
この図から、TOPIXと東証REIT指数とは強い相関を認めることが分かります。
2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り
次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。
まずは、NAV倍率の方からです。
NAV倍率は、1.01倍となっており、割安な水準であると言えます。
続いて、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)
直近のJ-REIT分配金利回りは3.80%となっていますが、この利回りをリスクと比較して高いと見るかそうでないかは、意見が分かれそうです。
3.各種利回りの比較
さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。
ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」などにより、ここ何年もほぼゼロ%近傍での推移となっています。
そういったこともあり、長期金利は比較対象として適切なものかどうか疑わしいため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。
このJ-REITの分配金利回りとプライム市場株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。
この図から分かるように、スプレッドは低い水準となっており、東証REIT指数は株式と比較して割安であるとは言えなそうです。
4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数
なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。
そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。
具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。
まずは、「毎月決算型」の方からになります。
この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。
ここ最近では、「毎月決算型」投信の純資産総額および東証REIT指数はともにほぼ横ばいとなっており、両者の乖離も広がったままとなっています。
2017年末頃から両者の乖離は大きくなっており、「毎月決算型」投信の純資産総額は、もはやあまり参考にならないのかもしれません。
続いて、「国内 不動産投信」になります。
対照的に、「国内 不動産投信」の純資産額の推移は、東証REIT指数とほぼ連動するような動きとなっていることが分かります。
また足元では、「国内 不動産投信」の純資産額は増加傾向となっており、高い水準を維持しています。
5.総括
東証REIT指数は、直近では方向感に乏しい展開となっています。
J-REITの予想分配金利回りは、22年10月末時点で平均して3.80%で、これは一見すると利回りが高いように感じるかもしれませんが、REITでは、収益の9割以上が分配金として還元されていることを忘れてはなりません。
一方で、同じ10月末時点でのプライム市場全銘柄の加重平均配当利回りは、2.41%でした。
日本企業の配当性向が3割強であることを加味すると、インカムゲインという観点では断然、株式の方に軍配が上がることが分かります。
もちろん、単純に利回りだけで比較できるものではありませんが、それでも業績が堅調で、株価もまだまだ割安な企業が多いことを考えると、REITよりも株式の方に投資妙味があるのではないかと考えています。
また、J-REIT市場では、平均LTV(=有利子負債÷総資産)が47.7%(22年10月末時点)と、平均して半分近くを有利子負債で賄っているため、REITは金利上昇リスクに弱いのではないかと懸念されるかもしれません。
しかし、これに関しては、2021年の上場企業全体の有利子負債依存度(=有利子負債÷総資産)の平均が85.8%、中央値が33.2%であるため、一概にREITの方が株式よりも金利上昇リスクに弱いとは言えません。
いずれにしても、日本においてもインフレ率が亢進し、金利上昇リスクが高まると考えるのであれば、REITにおいても有利子負債比率の低い銘柄を選んでおくのが無難でしょう。