投資戦略・手法・市場展望

FRBの保有資産縮小と「米長期金利」

1.量的緩和政策(QE)と米長期金利

以下の記事では、FRBによる量的緩和政策(QE)と米長期金利との関係性について見ていきました。

その中で、量的緩和政策の導入により、景気・経済の見通しが改善すると、長期金利は上昇していました。

逆に、量的緩和政策の終了が意識され、景気・経済の見通しが悪化すると、長期金利は低下していました。

そしてここでは、2017年9月20日に決定された、FRBの保有資産縮小による米長期金利への影響について見ていきたいと思います。

2.FRBによる政策金利引き上げ(利上げ)

まずは、FRBによる政策金利の引き上げ(利上げ)についてです。

以下の図は、2014年10月まで行われていた量的緩和政策第3弾(QE3)終了後の、米長期金利の推移を政策金利とともに示したものになります。

QE3終了後からの米長期金利と政策金利の推移を示した図。

この図にもあるように、2015年12月16日にFRBは0.25%の利上げを決定し、2008年末から続いていた実質的なゼロ金利政策が解除されることとなりました。

その後は、2016年12月14日、2017年3月15日、2017年6月14日、2017年12月13日にそれぞれ0.25%ずつの利上げが決定され、現在へと至っています。

3.金利政策の正常化

そしてここからが、FRBの保有資産縮小についてです。

2017年9月20日にFRBは、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく、金融政策の正常化を決定しました。

ここで、そもそも量的緩和政策(QE)において、FRBがどのような資産を買い入れていたのかですが、QE1~QE3ではそれぞれ以下のような資産が買い入れられていました。

  • 量的緩和政策第1弾(QE1):米国債住宅ローン担保証券(MBS)政府機関債
  • 量的緩和政策第2弾(QE2):米国債
  • 量的緩和政策第3弾(QE3):米国債住宅ローン担保証券(MBS)

このうち住宅ローン担保証券(MBS)というのは、住宅ローンの返済金を裏付けとして発行される証券のことです。

リーマン・ショックのきっかけともなったサブプライム問題では、信用度の低い個人向けの住宅ローンである、サブプライムローンを担保とした住宅ローン担保証券(MBS)が世界中で販売されていました。

そして、住宅バブル崩壊により、これらのMBSが不良債権化したため、FRBが買い入れることとなったのです。

また、上記のFRBが買い入れた資産のうち、政府機関債というのは、住宅や農業関連の政府系機関が発行する債券のことです。

住宅関連では、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫:FNMA)やフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社:FHLMC)などがありますが、この両者はサブプライム問題で多額の損失を計上し、米政府の管理下に置かれています。

4.FRB保有資産残高(資産別)

上記のように、FRBは量的緩和政策において、米国債住宅ローン担保証券(MBS)政府機関債を買い入れていました。

ここでは、FRBが買い入れた資産のそれぞれについて、その保有資産残高の推移を見ていきます。

まず、米国債のFRB保有残高の推移を示したのが以下の図です。

米国債のFRB保有残高の推移を示した図。

次に、住宅ローン担保証券(MBS)のFRB保有残高の推移を示したのが以下の図です。

住宅ローン担保証券(MBS)のFRB保有残高の推移を示した図。

この図から、MBSは量的緩和政策第1弾(QE1)後に保有残高が縮小されていましたが、量的緩和政策第3弾(QE3)から再び買い入れられていたことが分かります。

最後に、政府機関債のFRB保有残高の推移を示したのが以下の図です。

政府機関債のFRB保有残高の推移を示した図。

この図から、政府機関債はQE1の間だけ買われ、QE1後には保有残高が縮小されていたことが分かります。

5.FRB保有資産残高(合計)

そして、米国債住宅ローン担保証券(MBS)政府機関債を合計した、FRB保有債券残高の推移を示したのが以下の図です。

FRBの保有債券残高の推移を示した図。

この図から、QE1、QE2、QE3の各期間中に保有残高を増加させ、それ以外の期間では残高がほぼ横ばいであったことが分かります。

また、この図からは分かりにくいのですが、直近において保有残高が微減しています。

これは前述したように、2017年9月20日にFRBが、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく金融政策の正常化を決定したことによります。

その具体的な内容としては、2017年10~12月は月100億ドル、2018年1~3月は月200億ドル、4~6月は月300億ドル、7~9月は月400億ドル、10月~は月500億ドルずつ縮小していく方針というものでした。

この方針通りに保有資産残高を縮小していくと、2017年10月から2018年2月末までで、計700億ドルの縮小額となるはずです。

では、実際のところはどうなっているのでしょうか?

6.FRB保有資産残高の縮小

以下の図は、2017年1月以降のFRB保有債券残高の推移を米長期金利とともに示したものです。(見やすくするために、FRB保有債券残高のスケールは反転してあります。)

FRB保有債券残高と米長期金利の推移を示した図。

すると、この図にもあるように、FRBの保有債券残高は、2017年10月から2018年2月末までの間に、4兆2403億ドルから4兆1886億ドルへと520億ドル弱が縮小されています。

これは、上記の期間では2017年10月~12月が月100億ドルずつ、2018年1~2月が月200億ドルずつで、計700億ドル縮小されるはずなので、それに比べると少なくなっています。

2017年9月20日にこの金融政策の正常化が決定された際にイエレン議長は、急激な景気悪化時には資産縮小を停止し、さらには米国債などを再度購入する量的緩和復活の可能性についても触れていました。

ですから、このまま資産が縮小されていくのかは、景気・経済の状況次第だといえます。

とはいえ、2018年2月21日には米長期金利が3%近くにまで上昇していましたが、そこからの1週間(2月28日まで)で約170億ドルの資産縮小が行われていました。

このことからは、今後しばらくはFRBによる資産縮小の意思は強いものと思われます。

7.米長期金利の今後の動向

また、上の図では2017年10月からの保有資産縮小に伴って、それと相関するように長期金利が上昇しているように見えます。

しかし、あくまで長期金利(米10年債利回り)は米国債の需給ではなく、経済の潜在成長率期待インフレ率リスクプレミアムにより決まってきます。

そこで、ここでは直近における長期金利の上昇について、これらの要因から考えていきたいと思います。

まずは、リスクプレミアムに関してです。

アメリカでは2017年12月22日に税制改革法案が成立し、2018年から法人税率を35%から21%へと引き下げることはじめとした、大型減税が実施されることとなりました。

この大型減税による税収減もあって、2019会計年度(2018年10月~2019年9月)の予算教書では、財政赤字が1兆ドル弱へと大幅に拡大することが見込まれています。

ただでさえ、アメリカの政府債務残高20兆ドルを大きく超えて過去最大となっているところに、この財政赤字の拡大という悪材料が加わってしまったのです。

つまり、財政悪化への強い懸念から、米国債への信認が揺らぎかねないような状況となっているのです。

こういった背景などから、これから徐々にリスクプレミアムが上昇していくことは間違いないでしょう。

次に、期待インフレ率に関してです。

アメリカ(トランプ政権)は貿易赤字削減のため、ドル安政策へと舵を切っており、このドル安政策はインフレ(物価上昇)へとつながります。

ですので、ドルの先安感は期待インフレ率の上昇へとつながってきますが、期待インフレ率にはエネルギー価格など、他にも様々な要因が関係してくるため、これだけでは何ともいえないところです。

最後に、潜在成長率に関しては、今月20~21日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、利上げが示唆されるほど景気・経済の見通しは好調だと捉えられています。

当然、景気・経済の見通しが上向けば、長期金利も上昇することになりますが、これに関しても、景気の先行指標とされる株価の動向によるところが大きいといえそうです。

ちなみに、アメリカの2017年4Q(10~12月)の実質GDPは前期比年率で2.6%の成長、2018年1月の消費者物価指数は前年比で2.07%の上昇となっています。

以上のことを総合して考えると、長期金利(米10年債利回り)には上昇圧力の方が強いといえ、3.5%程度まで上昇していったとしても何ら不思議ではないと考えています。

 

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