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1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 世界を変えた14の密約
- 著者:ジャック・ペレッティ
- 出版日:2018/5/30
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:経済、ビジネス
まずは、本書の概要からです。
本書は、欧米の一流紙誌にも記事を掲載している、英国を代表するジャーナリストによって書かれたものです。
グローバル企業が各国政府を超えるまでに影響力を強め、それによって貧富の格差も拡大し続けていますが、その背景にあるものや、その先に予想される将来について本書では書かれています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:現金の消滅
- 第2章:小麦の空売りとアラブの春
- 第3章:租税回避のカラクリ
- 第4章:貧富の格差で大儲けする
- 第5章:肥満とダイエットは自己責任か
- 第6章:国民全員を薬漬けにする
- 第7章:働き方が改革されない理由
- 第8章:終わりなき”買い替え(=アップグレード)”
- 第9章:権力を持つのは誰か
- 第10章:企業が政府を支配する
- 第11章:フェイクニュースが主役になるまで
- 第12章:ロボットと人間の未来
- 第13章:人類史上最大案件=「知性」の取引
- 第14章:21世紀のインフラストラクチャー
本書は長文の大作ということもあり、勝手ながら以下のように、2つのパートに大きく分けて、レビューしていくことにします。
- グローバル企業はいかにして影響力を高めてきたか?
- 貧富の差の拡大と、予想される未来
まず、ここでは前者のテーマについて書いていきたいと思います。
2.終わりなき買い替えと、痛みの排除
第8章では、1932年に世界最大の電球製造メーカー5社がジュネーブで会合を開き、ある方針を決めたと書かれています。
それは、すべての電球の寿命を6か月に縮めることで、計画に従わない会社には罰金が科せられるというものです。
その5社は、街灯、電話線、船や橋や汽車や市街電車のケーブル、冷蔵庫やオーブンといった家電、自動車や自宅や会社への電気の供給など、現代生活のインフラを提供していました。
そして、1932年以降、それら全てが壊れることを前提に作られることが、その会合で決まったと言います。
また、終わりなき買い替え(アップグレード)によって、ほぼ新品のものを捨てるという習慣も生み出されたのです。
この「買い替え」と関連してですが、第1章では、人は現金で支払うときに、計測できるだけの神経の痛みを感じると書かれています。
しかし、クレジットカードには、買い物をタダめしだと人に思い込ませてしまう強い力があり、社会人類学者のベンジャミン・バーバーは、それは大人を子供に引き戻し、消費者を幼児化させた、と言います。
3.ギグエコノミーと租税回避
第7章では、産業革命以来最大の働き方の革命である、「共有経済」またはギグエコノミーについて触れられています。
ギグエコノミーは、起業家的な「自由」や「柔軟性」を売りに、シリコンバレーの常套句となっていますが、労働者が搾取される危険が大きい働き方でもあり、次のように言及されています。
従業員でも自営業者でもない、「よりどころのない労働者」。それは権利と無権利の間を漂っている働き手だ。
また、第3章では、租税回避はビジネスの世界では当たり前になっていると書かれています。
その結果、タックスヘイブンに入場料を払える大企業だけが得をし、それ以外の中小企業や個人が高いツケを払わされていると言うのです。
4.保険業界・飲料業界の罪
第5章では、1945年、ニューヨークのメトロポリタン生命保険会社の本社で働いていたルイ・ダブリンという統計家が、BMI(ボディマス指数)という指標を作り出したことが書かれています。
しかし、BMIには科学的な証拠は何もなく、保険契約者の半数が高い保険料を支払うはめに陥ってしまったのです。
また、砂糖業界や飲料業界についても言及されています。
1970年代の半ばから、心臓病の原因について、医療関係者の間で議論が起きており、ロンドンのUCLで研究員を務めるジョン・ユドキン教授は、心臓病の原因が糖分だと主張していました。
この主張は砂糖業界の利益を脅かすものであったため、その反発が強く、ユドキンは学会や学者仲間からも干されることになったと言います。
さらに砂糖に関して、次のような記載もあります。
オバマ政権時代にニューヨーク市長のマイク・ブルームバーグが砂糖税の導入を試み、またイギリスでは2015年に保険担当大臣のサリー・デイビス教授が同じことをしようとした時にも、全米飲料協会(ABA)は闘った。
5.製薬業界の罪
第5章では他に、製薬業界についても触れられています。
例えば、アメリカの製薬大手ワイスは、食欲抑制剤レダックスの治験で、服用中に発生した肺高血圧症の症例数を、はるかに少なく食品医薬品局(FDA)に申告していました。
レダックスは回収され、ワイスは211億ドルの賠償金を支払うことになりましたが、今に至るまでワイスは責任を否定していると言います。
また、イギリスの巨大製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)は、抗うつ剤のブプロピオンの副作用である「体重減少」を利用し、「適応外使用」でダイエット薬として売り込もうとしました。
しかし、ブプロピオンや他の2つの薬の適応外使用について内部告発が行われ、GSKはアメリカで訴追されて30億ドルの罰金を支払うはめになったのです。
さらに第6章では、次のようなことも書かれています。
食品医薬品局(FDA)は効果の証明されていない薬を認めないための、防波堤としての役割を担っている。しかし、製薬会社と大学の新たな「パートナーシップ」によって、それを迂回できる。
薬が大学に送られ、大学は都合よく研究を操作し、「独立性」の仮面をかぶって製薬会社のために臨床実験を行い、FDAが問題にしそうな部分を指摘する。
6.不安につけこむ企業
第11章では、科学研究も、注目されなければ資金が集まらないため、誇張が必要となり、極端で大げさで不正確な研究になると述べられています。
そして、「殺人ナントカ」「奇跡のナントカ」といった見出しの後ろには、特定の企業が資金を提供する科学研究があり、そうした企業は政府に働きかけたり、科学を口実に新製品を発売しようと目論んでいると言います。
食品や衣料や薬品業界はひそかに研究資金を提供し、特定の商品の認可を得ようとしたり、需要を創出しようとしているのです。
そういった意味では、科学は「事実」という中立の場所にいるわけではなく、科学はニュースと変わらない面も大いにあるのです。
他にも第11章では、絶え間なく報道される不穏なニュースが生み出す漠然とした不安に、企業がつけこんだということも書かれています。
それは、地球温暖化、中東の革命と難民危機、テロリズム、感染症、有害な家、といったニュースです。
例えば感染症に関して言えば、家庭内からばい菌を追い出そうとするにつれ、子供の喘息や湿疹が増えており、それは、家庭に入り込んだ新たな有害物質と直接関係していたということが挙げられています。
つまり、家庭用クレンザーや空気洗浄スプレー、強力な滅菌スプレーなどによって、環境保護庁いわく、現在の平均的な家の中は外の空気より2倍から5倍汚染されているということなのです。
7.企業が政府を支配する
第9章では、いまでは政府ではなく企業がすべてを決めていると書かれており、特にコンサルティング会社のマッキンゼーについて触れられています。
グローバルなコンサルティング会社の中で、マッキンゼーは規模で見ると7番目ではあるものの、他の全てのコンサルティング会社を足したよりも、マッキンゼーの影響力は強いと言います。
というのも、マッキンゼーは、世界最大級のフォーチュン100社のうち90社に「アドバイス」を授け、世界中の10を超える政府をクライアントに抱えているからです。
つまり、マッキンゼーは、政府という機械の中で替えの利かない歯車になっているのです。
また、第10章では、国家と投資家の紛争解決手続(ISDS)について言及されています。
これについて、2014年10月、エコノミスト誌は次のように説明しています。
政府が、例えば禁煙を促したり、環境を保護したり、核による惨事を防止したりするような法案を成立させたときに、それに対して外国企業は秘密の法廷でその政府を訴える特殊な権利を持っている。
そして、2000年以来、この法廷で数百という企業が世界中の半数を超える政府を訴え、勝ちを収めていたと言うのです。
その例として、以下のようなものが挙げられています。
アメリカの巨大農業コングロマリットのカーギル/ADMは、児童の肥満を減らすためにソフトドリンクへの砂糖税を導入したメキシコを訴えた。カーギルが勝った。
メキシコは、大胆にも水の価格に上限を設けようとして訴えられた。水へのアクセスは国連憲章でも決められた基本的人権だ。しかし訴えた企業が勝ち、メキシコではボトル飲料水よりもコカ・コーラの方が安くなった。
8.全てを支配する企業
第13章では、アルファベット(グーグルの持株会社)の多岐にわたる関心や買収案件について触れられています。
具体的には、以下のようなものが挙げられています。
バイオテクノロジー(ライフ・サイエンス)から長寿研究、そして不老不死(キャリコ)。自動運転車、空飛ぶ車。モノのインターネット(スマート機器すべて)。次世代ドローン配達システム。途上国のインフラ不足を飛び越えるテクノロジー。エドテック。大気汚染と地球温暖化のソリューション。ナノテクノロジー。体内注入ナノロボット、白血病と闘う微細DNAデバイス、肥満患者用のインシュリン分泌ナノジェルといった、体内ハックテクノロジー。
また、データ業界に属する、パランティアという企業についても言及されています。
パランティアは、コンサルティング業界にとってのマッキンゼーのようなもので、想像もできないような領域で「ビッグデータ」を活用するのが、この会社の目的だと書かれています。
同社は、CIA、FBI、国家安全保障局(NSA)、疾病予防管理センター(CDC)、海兵隊、空軍、特殊部隊、陸軍士官学校、内国歳入庁(IRS)などがクライアントで、ビジネスの5割は公共セクターからのものだと言います。
さらに、別部門のパランティア・メトロポリスは、ヘッジファンドや銀行や金融サービス企業にライバルの先をいくための分析ツールを提供しています。
つまり、パランティアは、ペンタゴンにグローバルな監視のツールとデータを使った戦争の武器を提供し、同時にウォール街も支配しているのです。
9.総括
ここまで、グローバル企業がいかにして影響力を高めてきたかということについて、本書で書かれていることをまとめてきました。
関単に要約すると、以下のような内容となります。
- 消費者にお金を使わせる仕組みを作る。
- 労働者を低賃金で働かせる。
- 税金の支払いを回避する。
- 人々の欲望や不安につけこんで需要を作り出す。
- 資金提供により、科学研究の事実を歪める。
- 何らかの規制等を設けようとする政府を、法廷の場で打ち負かす。
ここまで書いてきた内容からも分かるように、本書で書かれていることは、本当に世界の見方を大きく変えてくれるようなものばかりだと言えます。
さて、以下の記事では、続いて「貧富の差の拡大と、予想される未来」というテーマで本書のレビューをしていますので、よろしければご参照ください。