ここでは、直近の「ドル円相場」について、日米10年国債利回り、購買力平価、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)という3つの観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.日米10年国債利回りとドル円相場
まずは、米国の10年債利回りをドル円相場の推移を比較してみます。
次に、米国と日本の10年国債利回りの差をドル円相場の推移と比較したのが以下の図です。
ここで、まず日本の長期金利に関して、前回7月30・31日の日銀の金融政策決定会合では、政策の変更がありました。
日銀は、「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」としながらも、これまで0%程度に誘導していた長期金利の上限を0.2%程度まで容認するとの方針を表明したのです。
これは日銀によるステルステーパリング(隠れた緩和縮小)と見られていますが、これによりその後の長期金利は、0.1%前後での推移となっています。
また、今月9月18日・19日の決定会合では現状維持が予想されています。
一方、米国の長期金利は、今年に入ってからはほとんど2.8~3.0%の間で推移していますが、8月下旬の約2.8%を底に、直近では再び3.0%近くまで上昇しています。
これは、2018年2Q(4~6月期)の米国の実質GDP成長率が、7月下旬に発表された速報値の前期比年率4.1%増から、8月下旬に発表された改定値の同4.2%増へと上方修正されたことが関係しているのかもしれません。
いずれにしても、2018年1Q(1~3月期)の同2.0%増(確定値)から大幅に改善していることには変わりありません。
ちなみに、米実質GDP成長率は、速報値、改定値、確定値の順に発表されますが、最初に発表される速報値が最も注目されると言えます。
また、速報値は1・4・7・10月、改定値は2・5・8・11月、確定値は3・6・9・12月に、それぞれ各月の下旬(21~30日)に発表されます。
こうした堅調な経済成長などから、FRB(米連邦準備理事会)は、今月9月25・26日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、現在の1.75~2.00%からの追加利上げを行うと見られています。
そして、7月に始まった米中貿易戦争の影響が表れてくるであろう、10月下旬に発表される2018年3Q(7~9月期)の米実質GDP成長率の速報値が注目されるところでしょう。
2.購買力平価とドル円相場
次に、日米の購買力平価とドル円相場の推移を比較してみます。
なお、購買力平価(PPP)に関しては、日米の相対的購買力平価である、消費者物価PPP、企業物価PPP、輸出物価PPPを用いています。
この図からドル円のレートは、企業物価PPPを上限、輸出物価PPPを下限として推移していた時期が長いことが見て取れ、購買力平価から見ると円高余地が大きいように思われます。
3.修正ソロスチャートとドル円相場
最後に、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)とドル円相場の推移を見ていきます。
この図からは、ドル円相場と修正マネタリーベース比率の推移との乖離は縮小傾向であるものの、ドル円のレートにはやや円高余地があるように思われます。
4.総括
ドル円相場を占う上では、やはりFRBの利上げや米長期金利の影響が大きいと言えます。
利上げに関しては、現状で景気を冷やさず過熱もさせない中立的な政策金利の水準は2.9%とされており、そこまで引き上げられるかどうかは別としても、まだしばらくは利上げが継続されていきそうです。
そして、利上げによって景気の過熱が抑えらえると、長期金利の上昇も抑えられることになります。
長期金利というのは、経済・景気の見通しや将来の物価変動予測の影響を強く受けるためです。
また、FRBの利上げにより、為替市場において、新興国通貨からドルへと資金がシフトする流れが鮮明となっています。
この流れはしばらくは続きそうであることから、ドルは当面は底堅い推移となることが予想されます。
一方で、FRBの利上げにより短期金利が上昇しており、日本の機関投資家などの外貨資産に対する(ドル売りの)ヘッジコストが上昇することから、そうしたドルのヘッジ売りが直近ではかなりの低水準となっているようです。
そのため、何らかのきっかけにより、ドル円相場がある程度の円高方向へと明らかに傾いたときには、日本の機関投資家などが急速にヘッジ売りを膨らませ、さらに円高が加速することになるだろうと考えられます。
つまり、短期的にはドル高円安が継続するでしょうが、中長期的には大幅に円高ドル安となる場面があるのではないかと予想しています。