相場のデータ・指標

生兵法は怪我の基!? 空売り比率の見方には注意が必要!

1.空売り比率とは?

株式の売買において売り注文は、実売り空売りの2つに分類されます。

実売りというのは一般的な売りのことで、保有している株式を売ることをいいます。

対して、空売りというのは証券会社や大株主など他のところから借りてきた株式を売ることをいいます。

このうち特に、株式を証券会社から借りてきて売るのが、信用取引による空売りになります。

そして、空売り比率というのは、市場全体の売りに占める空売りの割合のことを指します。

つまり、空売り比率は以下の計算式で求められ、東京証券取引所にて日々発表されています。

空売り比率(%)=空売り注文の合計代金/(実売り注文の合計代金+空売り注文の合計代金)

2.空売りにおける、規制ありと規制なしの違い

ここからが少し難しいのですが、重要なところになります。

それは、空売り比率は価格規制あり価格規制なしの2つに分けられるということです。

この価格規制というのは、主にアップティック・ルールのことを指し、これは直近の株価よりも高い水準でなければ空売りができないというものです。

また、価格規制が適用されるのは、証券会社など大口の投資家(機関投資家)やヘッジファンドなどで、個人投資家の50単位以内の信用売りは適用除外となります。

(他にも、先物やオプションの裁定取引、ETNなど、相場の下落から利益を上げようとするような思惑的な空売りでないものは、適用除外となります。)

上記の価格規制の適用対象を見ても分かるように、アップティック・ルールは株価下落局面におけるヘッジファンドなどによる相場の売り崩しを防ぐための措置でした。

しかし、このアップティック・ルールにより市場の流動性が低下してしまっているなどの理由により2013年11月5日よりトリガー方式へと条件が緩和されたのです。

トリガー方式とは具体的には、株価が前日終値より10%以上下落した場合という特殊な状況でのみアップティック・ルールが適用されるというものになります。

3.規制緩和による一貫性の消失

ここで規制緩和により、空売り比率がどのように変化したかを実際に見てみたいと思います。

以下の2つの図は、規制あり規制なしそれぞれの空売り比率日経平均株価の2012年1月以降の推移を表したものです。

なお、この記事に載せている全ての図では、日経平均株価と比較しやすくするために空売り比率の軸反転させていますので、空売り比率が上昇するとその折れ線は右肩下がりとなります。

空売り比率(規制あり)と日経平均株価(2012年1月~)

この図で、赤い縦線はトリガー方式が導入された2013年11月5日を示していますが、そこを境に規制ありの空売り比率が顕著に増加していっているのが見てとれます。

空売り比率(規制なし)と日経平均株価(2012年1月~)

一方、規制なしの空売り比率の方はトリガー方式の導入とともに、規制ありの空売り比率ほど顕著ではありませんが減少傾向となっているのが分かります。

つまり、これらの図から分かるように、空売り比率のデータは規制緩和によってその前後における一貫性を失ってしまったといえます。

4.規制緩和後の空売り比率の推移

そこで、ここからは2013年11月5日にトリガー方式が導入(規制緩和)されてからしばらく経過して、その影響が多少は薄らいだと思われる、2015年1月以降の空売り比率について見ていくことにします。

まず、直近の2017年9月1日の東京証券取引所発表の空売り集計を見てみると、以下の表のようになっています。

年月日

実注文

空売り(価格規制あり)

空売り(価格規制なし)

2017年9月1日

60.1%

33.0%

6.9%

これに従って、以下の順で各種の空売り比率と日経平均株価の推移を表した図を並べてみます。

  1. 空売り比率(規制なし)と日経平均株価(2015年1月~)
  2. 空売り比率(規制あり)と日経平均株価(2015年1月~)
  3. 空売り比率(規制なしと規制ありの合計)と日経平均株価(2015年1月~)

A.空売り比率(規制なし)と日経平均株価(2015年1月~)

B.空売り比率(規制あり)と日経平均株価(2015年1月~)

C.空売り比率(規制なしと規制ありの合計)と日経平均株価(2015年1月~)

これらの3つの図を眺めてみて、B(規制あり)とC(合計)の空売り比率は、日経平均株価と相関性があるように見えますが、A(規制なし)の空売り比率ではあまり相関性があるように見えません。

さらに、B(規制あり)とC(合計)をよくよく比較してみると、C(合計)では規制なしの空売り比率を足し合わせているためか、B(規制あり)と比べて相関性がややぼやけているように見えます。

5.空売り比率と今後の日経平均株価をどう見る?

そこで、B(規制あり)の図だけを取り出して、より見やすくするために、空売り比率(規制あり)の5日移動平均と日経平均株価の推移を表したのが以下の図になります。

空売り比率(規制あり)5日移動平均と日経平均株価の推移(2015年1月~)

この図を見ると、2015年後半以降は空売り比率が概ね30~35%の間で推移しており、特に35%前後では日経平均株価の目先の底を割とよく示しているといえます。

一般に、空売り比率(規制あり)では30%を超えてくると相場は売られ過ぎであると判断されますが、④の図を見ても明らかなようにこの30%というのはあくまで規制緩和以前の基準であると考えられます。

サンプル期間が短いこともあり、あまり確かなことは言えませんが、少なくともここ数年の相場では空売り比率35%前後というのが概ね日経平均株価の目先の底となっています。

そして、直近では空売り比率が35%をつけてから反転して減少していくように見えます。

そうなると、高値圏にあるようにも見える日経平均株価がここからさらに上昇していくのかということが気になりますが、これに関しては空売り比率だけでは何とも言えず、他の指標も併せて考えていく必要があります。

ただ、空売り比率が35%前後にあることからすると、当面は仮に日経平均株価が下落したとしても、それは一時的な調整で終わり、大きく下落するという可能性は低いのではないかと思われます。

 

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