ここでは、直近(2020年6月)の「ドル円相場」について、日米10年国債利回り、購買力平価、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)という3つの観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.日米10年国債利回りとドル円相場
まずは、米国の10年債利回りとドル円相場の推移を比較してみます。
この図から、米長期金利は1980年代より右肩下がりの傾向となっているのに対して、ドル円相場の方は、概ね横ばい(ボックス圏)での推移となっていることが分かります。
そういった意味では、米長期金利だけを見た場合には、ドル安円高の余地があると言えそうです。
次に、米国と日本の10年国債利回りの差をドル円相場の推移と比較したのが以下の図です。
こちらの図では、ドル円相場の動きが、日米の長期金利差と概ね連動していることが見て取れます。
そして直近では、長期金利差が急激に縮小し、ドル円相場の動きとの乖離も拡大しています。
2.購買力平価とドル円相場
次に、日米の購買力平価とドル円相場の推移を比較してみます。
なお、購買力平価(PPP)に関しては、日米の相対的購買力平価である、消費者物価PPP、企業物価PPP、輸出物価PPPを用いています。
この図からは、ドル円のレートは、企業物価PPPを上限、輸出物価PPPを下限として推移していた時期が長い中で、ここ数年は企業物価PPPより上での推移となっていることが分かります。
つまり、ドル円相場を購買力平価という観点から見た場合には、ドル安円高余地が大きいように思われます。
3.修正ソロスチャートとドル円相場
最後に、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)とドル円相場の推移を見ていきます。
この図からは、ドル円相場と修正マネタリーベース比率との相関性が高いことと同時に、両者の乖離が縮小傾向にあることが分かります。
4.総括
ここまで見てきたように、日米10年国債利回りや、購買力平価では、依然として円高余地があるように見えます。
そして、ドル円相場の動きとしては、2月20日の112円台から3月9日には一時101円台にまで下落しましたが、直近では107円台での動きとなっています。
また、6月9~10日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備制度理事会)は少なくとも2022年末までゼロ金利政策を維持することを決めていました。
さらにFRBは、日銀のように長期金利に誘導目標を設けるイールドカーブ・コントロール(YCC)の採用についても示唆しています。
そうなると今後、日米の長期金利差が大きく拡大していくことは考えづらいでしょう。
それにも関わらず、円高ドル安が大して進んでいない背景には、企業による海外への直接投資や証券投資があると思われます。
海外への証券投資については、金融ショックの際に巻き戻されて円高が進むという構図がよく見られますが、ここ10年ほどは、海外への直接投資の方が増加し続け、証券投資よりも大きな割合を占めているのです。
この海外への直接投資は証券投資とは違って、容易に巻き戻されるような性質のものではないため、これまでのように有事の際に急激な円高が進むといったことにはなりづらくなると考えられます。
とはいえ、日本は2019年末時点で、(29年連続の)世界最大の対外純債権国であることには変わりなく、今後も有事の際には円の信認を確認するような動きが見られるのではないでしょうか。