ここでは、直近の「米国長期金利」について、日本と中国の米国債保有額やFRBの保有債券残高といった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.米国債保有額(日本・中国・総計)
まずは、日本と中国の米国債の保有額および保有率について見ていきます。
この図からは、ここ数年は日本と中国ともに、米国債の保有額と保有率ともに減少傾向となっていることが分かります。
そして、日本と中国の米国債保有額を合計したものと、米10年国債価格の推移を示したのが以下の図です。
この図からは、日本と中国の米国債の合計保有額の減少に伴って、米国10年債価格も下落しているように見えます。
とはいえ、初めに示した図からも分かるように、日本と中国を合わせた米国債の保有率というのは、4割にも満たないものです。
そこで、世界各国の米国債保有額の総計についても、米10年国債価格の推移とともに示したのが以下の図になります。
すると、世界各国の米国債保有額の総計は減少しておらず、ここ数年はほぼ横ばいでの推移となっていることが見て取れます。
以上のことから、世界全体で見た場合には、米国債の需給が悪化しているとは言えず、これが米10年国債価格の下落(=米長期金利の上昇)の原因であるとは考えづらいことが分かります。
2.FRBの保有債券残高
次に、FRB(連邦準備制度理事会)の保有債券残高について見ていきます。
FRBでは2017年9月20日に、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく、保有資産縮小が決定されていました。
この量的緩和政策において買い入れられた資産というのは具体的には、米国債、住宅ローン担保証券(MBS)、政府機関債の3つになります。
まずはこれら3つについて、FRB保有残高の推移をそれぞれ見ていきたいと思います。
さらに、これら3つを合計した、FRB保有債券残高の推移を示したのが以下の図になります。
この図から、2017年12月頃より、FRB保有債券残高の縮小が始まっていることが分かります。
そして、FRB保有債券残高の推移を示したこの図の2017年1月以降を取り出して、米長期金利の推移とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸のFRB保有債券残高のスケールは反転してあります。)
この図から直近においては、両者の乖離が拡大傾向にあることが分かります。
3.FRBの金融政策の正常化
ここで、話を進めるに当たって、その前提となるFRBの金融政策について振り返っておきます。
2017年9月20日にFRBは、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく金融政策の正常化を決定していました。
その具体的な内容としては、2017年10~12月は月100億ドル、2018年1~3月は月200億ドル、4~6月は月300億ドル、7~9月は月400億ドル、10月以降は月500億ドルずつ縮小していくというものでした。
つまり、2018年9月末までで、計3000億ドルの保有資産縮小を行う予定であったということになりますが、実際には、FRBの保有資産は、縮小開始前の約4.24兆ドルから、直近の9月26日時点では約4兆ドルへと2400億ドルの縮小となっています。
さらに、その内訳を見ていくと、米国債が縮小開始前の約2.46兆ドルから、9月26日時点では約2.31兆ドルへと約1500億ドルの縮小、MBS(住宅ローン担保証券)が同期間で、約1.77兆ドルから約1.68兆ドルへと約850億ドルの縮小となっています。
ちなみに、政府機関債は同期間で43.5億ドルの縮小に過ぎません。
ここでFRBに関しては、日銀などとは異なり、保有する米国債を担保としてドルを発行しているのですが、そのドル発行残高は直近で、約1.8兆ドルとなっています。
ですから、FRBは保有する米国債をこの約1.8兆ドル以下にまで縮小することはできず、そうなると米国債に関しては、直近の約2.31兆ドルから約5000億ドルしか縮小余地がないということになります。
そうすると、FRBは米国債と比較して流動性の大きく劣るMBSを縮小していくほかありませんが、MBSをこのまま順調に縮小していけるとは思えません。
今後、保有資産縮小に関してFRBは、難しい舵取りを要求されることになると言えます。
4.総括
さて、FRBは先日の9月25日・26日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、2.00~2.25%へと0.25%の利上げを決定しました。
そして今後、12月にあと1回、2019年に3回、2020年に1回の利上げを行う見通しとなっています。
実際にこの通り実施されるとは限りませんが、政策金利の利上げや、利上げによるドル高によって、米国の景気・経済が冷え込んでしまう可能性もこれから徐々に高まってくるでしょう。
となると、潜在成長率の低下から、長期金利には低下圧力がかかってきます。
一方で、米国の政府債務残高は、直近で約21.5兆ドルと過去最高を更新し続けており、トランプ政権の影響もあって、米国の財政赤字もここ数年増加しており、さらに今後も増加していくことが予想されています。
これにより、財政悪化への懸念が強まって、リスクプレミアムの上昇から、長期金利が上昇することも考えられます。
ただ、ここで見てきたように、今のところ米国債に需給の面で懸念されるような兆候というのは認められていません。
加えて、今後しばらくは、FRBの利上げにより、新興国から逃避した資金が米国債に向かうことも支持要因となるでしょう。
このように、米長期金利に関しては、FRBの金融政策やトランプ政権の通商政策によるところが大きく、今後の推移を予想することは困難です。
少なくとも、米国株が高値圏にあり、機関投資家にとってそれに代わる運用手段を見出しづらいという状況下では、米国債が選好されやすく、長期金利が急上昇する事態というのは考えづらいのではないでしょうか。