相場のデータ・指標

【2023年12月】「東証REIT指数」の最新データ分析(NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況)

ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.東証REIT指数とTOPIX

まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。

23年12月までの東証REIT指数とTOPIXの推移を示した図

この図から、TOPIXと東証REIT指数とは強い相関を認めていますが、直近では両者の乖離が大きくなっていることが分かります。

2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り

次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。

まずは、NAV倍率の方からです。

23年12月までの東証REIT指数とNAV倍率の推移を示した図

NAV倍率は、0.90倍(23年10月末時点)となっており、一般的には割安な水準であると言えます。

続いて、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)

23年12月までの東証REIT指数と分配金利回りの推移を示した図

直近のJ-REIT分配金利回りは4.27%(23年10月末時点)となっていますが、この利回りをリスクと比較して高いと見るかそうでないかは、意見が分かれそうです。

3.各種利回りの比較

さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。

23年12月までの分配金利回り、配当利回り、長期金利の推移を比較した図

ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、7月末に日銀が長短金利操作を修正し、長期金利の上限を事実上1%としたことで、やや上昇傾向にあります。

とはいえ、急激な金利上昇に対しては、指し値オペといった措置で抑え込むとしていることから、長期金利は比較対象として適切なものかどうかが依然として疑わしいため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証プライム市場の配当利回りとを比較してみます。

このJ-REITの分配金利回りとプライム市場株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。

23年12月までの分配金利回りと配当利回りのスプレッドの推移を示した図

この図から分かるように、スプレッドは低い水準となっており、東証REIT指数は株式と比較して割安であるとは言えなそうです。

4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数

なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。

そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。

具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。

まずは、「毎月決算型」の方からになります。

この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。

23年12月までの東証REIT指数と毎月決算型投信の推移を示した図

ここ最近では、「毎月決算型」投信の純資産総額はほぼ横ばいとなっており、東証REIT指数との乖離も大きなものとなっています。

2017年末頃から両者の乖離は大きくなっており、「毎月決算型」投信の純資産総額は、もはやあまり参考にならないのかもしれません。

続いて、「国内 不動産投信」になります。

23年12月までの東証REIT指数と国内不動産投信の推移を示した図

対照的に、「国内 不動産投信」の純資産額の推移は、東証REIT指数とほぼ連動するような動きとなっていることが分かります。

また、ここ数年は東証REIT指数の軟調な値動きにも関わらず、「国内 不動産投信」の純資産額は高い水準を維持しています。

5.総括

東証REIT指数は、軟調な値動きが続いており、堅調なTOPIXと比較するとさらにその弱さが際立ちます。

J-REITの予想分配金利回りは、23年10月末時点で平均して4.27%で、これは一見すると利回りが高いように感じるかもしれませんが、REITでは、収益の9割以上が分配金として還元されていることを忘れてはなりません。

一方で、同じ10月末時点でのプライム市場全銘柄の加重平均配当利回りは、2.25%でした。

株価が上昇したことで利回りはやや低下していますが、それでも日本企業の配当性向が3割強であることを加味すると、収益性という観点では断然、株式の方に軍配が上がることが分かります。

もちろん、単純に利回りだけで比較できるものではありませんが、それでも業績が堅調で、株価も依然として割安な企業が多いことを考えると、REITよりも株式の方に投資妙味があるのではないかと考えています。

また、J-REIT市場では、平均LTV(=有利子負債÷総資産)が44.9%(23年10月末時点)と、平均して半分弱を有利子負債で賄っているため、REITは金利上昇リスクに弱いのではないかと懸念されるかもしれません。

しかし、これに関しては、2021年の上場企業全体の有利子負債依存度(=有利子負債÷総資産)の平均が85.8%、中央値が33.2%であるため、一概にREITの方が株式よりも金利上昇リスクに弱いとは言えません。

そして株式市場においては、23年3月末に東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対し、改善策の開示・実行を要請するということがありました。

このPBRとREITにおけるNAVというのは似た概念ではあるのですが、PBRは簿価(取得原価)で算出されるのに対し、NAVは時価をベースに算出されます。

直近のNAV倍率は、0.90倍(23年10月末時点)と一見、割安なように感じますが、金融緩和が継続され、高騰し続ける不動産の時価を基に出されたものであることを忘れてはいけません。

そういったことなどを踏まえると、REITへの投資妙味が生まれるのは、しばらく先のこととなりそうです。

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