相場のデータ・指標

「米国株(S&P 500)」のデータ分析(2018.12)(PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差)

ここでは、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.S&P 500とPER

まずは、S&P 500に採用されている500銘柄の平均PERとS&P 500の長期推移を見ていきます。

S&P500とPERの長期推移を示した図(2018.12)

そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。

S&P500とPERの直近の推移を示した図(2018.12)

この図から、1990年代後半以降では、ITバブル後やリーマン・ショック後のような特殊な状況を除くと、PERは概ね15倍~35倍で推移しているといえます。

そこで、同期間における、PERが15倍~35倍に相当する株価とS&P 500の推移を示してみたのが以下の図になります。

S&P500とPER別株価の推移を示した図(2018.12)

S&P 500は直近において急落していますが、この図からは、急落前のS&P 500がそこまで割高な水準であったようには見えません。

ただ、確かに2000年前後のITバブル前にはPERが35倍近くまで上昇する場面もありましたが、2008年のリーマン・ショック前のPERは25倍程度までの上昇に過ぎませんでした。

つまり、PERだけで割高かどうかを判断するのには限界があることが分かります。

2.S&P 500とCAPEレシオ

次に、景気循環調整後の株価収益率(PER)である、CAPEレシオ(シラーPER)とS&P 500の長期推移を見ていきます。

S&P500とCAPEレシオの長期推移を示した図(2018.12)

そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。

S&P500とCAPEレシオの直近の推移を示した図(2018.12)

CAPEレシオでは、一般に25倍を超えると株価が過熱圏にあるという見方がされますが、直近の急落により、急落前に30倍を超えていたCAPEレシオが、25倍近くにまで低下していることが分かります。

ちなみに、過去に30倍を超えたのは、1929年の世界大恐慌の前や、2000年のITバブルの時だけであり、2008年のリーマン・ショック前には25倍以上で推移はしていましたが、30倍まではいきませんでした。

また、CAPEレシオに関しても、15倍~40倍に相当する株価とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。

S&P500とCAPEレシオ別株価の推移を示した図(2018.12)

この図から、急落前および直近のS&P 500は、2000年のITバブル時ほどではなくても、2008年のリーマン・ショック前よりは割高な水準にあることが分かります。

また、2008年のリーマン・ショック前には、何年もの間にわたって、CAPEレシオが25倍を超えて推移していたことも見て取れます。

そういった意味では、CAPEレシオもPERと同様にこれだけで割高かどうかを判断するのには限界があり、相場転換のタイミングを計ることにも向きません。

PERやCAPEレシオはあくまで参考程度のものだといえます。

3.S&P 500とブルベア指数

続いて、代表的なブルベア指数である、Investors Intelligenceの Sentiment Index(Advisor’s Sentiment)について見ていきます。

このSentiment Indexについて分析している、Yardeni Researchのレポートから一部を抜粋したのが、以下の図です。

S&P500とブルベア指数の推移を示した図(2018.12)

この図では、Bull / Bear Ratioが3倍以上となっている期間が赤色の線で示されており、その期間では強気派が多いことを示しています。

直近の急落前には赤線が集中しており、いつ相場の調整があってもおかしくはないような状況であったと言えます。

4.S&P 500と長短金利差(米国債利回り差)

最後に、長短金利差として、米10年国債利回りと米2年国債利回りの差(=10年国債利回り-2年国債利回り)を見ていきます。

※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年国債利回りを短期金利として扱っています。

そして、米国の長短金利差とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。(なお、見やすくするために、右軸の長短金利差のスケールは反転しています。)

S&P500と米国長短金利差の推移を示した図(2018.12)

この図からは、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック前に米国債利回り差が0%以下と、2年国債利回りの方が10年国債利回りよりも高い状態で推移する逆イールドと呼ばれる状態になっていることが分かります。

直近においても、米国債利回り差が0%に近づきつつあり、注意が必要だといえそうです。

5.総括

ここまで見てきたように、今後の米国株を占う上では、米国の長短金利差の推移に注目をしておく必要があると言えそうです。

ここで、米長期金利(10年国債利回り)は一時、3.2%を超えるまでに上昇していましたが、米中貿易摩擦の激化による世界的な景気減速懸念などから、直近では約2.8%前後にまで低下しています。

一方、2年国債利回りは政策金利の影響を強く受けますが、FRB(米連邦準備理事会)は、今月12月18・19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利を2.00~2.25%から2.25%~2.50%へと引き上げました。

この利上げに関しては想定されていたのですが、問題は来年2019年の想定利上げ回数の中央値が2回であったことです。

市場では、2019年の利上げ回数は1回か0回と予測されていたため、これを受けて株価がさらに下がる結果となりました。

ただ、中長期的に適切とみる政策金利の水準(中立金利)が、9月時点の3.0%から2.75%へと引き下げられたことからは、2019年中で利上げが打ち止めとなる可能性も高いと言えます。

利上げの打ち止め自体は、株価にとって支持的要因だと言えますが、それまでに短期金利が長期金利を上回る、逆イールドがいつ発生していても不思議ではありません。

もっとも、ITバブルやリーマン・ショックの際には、逆イールドとなってから株価の大幅な調整が起こるまでに、1~2年間のタイムラグがありました。

もちろん今回もそうなるとは限りませんが、今後、株価の暴落が起こるにしても、それまでにはまだしばらくの時間的猶予があるように思われます。

そして、あえて目先のS&P 500の下値メドを探るとしたら、CAPEレシオ 25倍水準の2258ドル、PER 15倍水準の1956ドル、CAPEレシオ 20倍水準の1806ドル辺りが目安となってくるのではないでしょうか。

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