投資戦略・手法・市場展望

原油相場を取り巻く世界情勢

ここでは、原油相場を語るうえで避けては通れない、主要産油国を取り巻く状況について、その概要を書いていきたいと思います。

1.アメリカ

米国では、WTI原油がまだ100ドル前後で推移していた2013年にシェールガス革命があり、その原油生産量は世界最大のサウジアラビアに匹敵するほどとなりました。

そこから、原油価格が大きく下落して米シェール企業の倒産が相次ぎ、原油生産量も一時減少しましたが、ここ最近の原油価格上昇により米国の原油生産量は大きく増加しています。

また最近では、米シェール企業の採算ラインはWTI原油先物価格で1バレル=50ドル前後といわれており、原油価格が現在の水準での推移(60ドル強)あるいはそれを超える水準となれば、米国の原油生産量はさらに増加していくことが予想されます。

さて、ここ最近の原油価格上昇の背景の一つに、石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなどによる原油の協調減産があります。

OPEC加盟国などによる協調減産は、2016年12月10日に合意がなされ、2017年5月25日には9ヵ月の延長が、同年11月30日には2018年末までの再延長が決定されていました。

ただ、OPEC加盟国は決してまとまりがあるとはいえず、協調減産の足並みが乱れる可能性も十分に考えられます。

そこで、以下ではOPEC加盟国を中心にいくつかの国について、ここ最近の情勢を書いていきます。

2.イラン・ベネズエラ

まずは、OPEC加盟国の中で第3位(世界では第6位)の原油生産量を誇るイランについてです。

イランでは、2017年12月末から反政府デモが広がっていましたが、現在は鎮静化に向かっています。

ただ、最高指導者ハメネイ師に忠誠を誓っており、欧米を敵視している保守強硬派と、ロウハニ大統領を支持する穏健派・改革派との権力闘争が続くことで、今後も政情不安が長引くのではないかとの懸念があります。

また、2018年5月には米国による経済制裁が再開となる可能性が高く、そうなるとイランの核開発が進む恐れもあります。

次に、南米ではエクアドルとともにOPECに加盟している、ベネズエラについてです。

ベネズエラは、世界最大の原油埋蔵量を有しているとされていますが、現在は財政破綻のまさに瀬戸際にいます。

汚職の蔓延、マドゥロ大統領の失政、米国の経済制裁などから、国営石油公社のPDVSAも混乱状態となっており、原油生産量の減少に歯止めが掛からずにいるのです。

ベネズエラは外貨収入のほとんどを石油産業に依存しているため、原油生産量がさらに減少していくようだと、債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高いとみられています。

3.サウジアラビア

続いて、世界最大の産油国であるサウジアラビアについてです。

サウジアラビアでは、2017年11月4日に王族や現役閣僚、世界的に有名な実業家など、数十人が一斉に身柄を拘束されるといったことがありました。

これは、現在のサルマン国王の息子であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子によるものであり、石油依存型経済からの脱却を目指したものだといわれています。

ムハンマド皇太子は、2016年4月に社会・経済改革「サウジ・ビジョン2030」なるものを発表していました。

これは、2030年までに石油依存型経済から脱却し、観光業、AI、ロボット産業など経済の多角化を目指すものです。

そして、それを実現するためにも、財政赤字を抱えているサウジアラビアは、国外からの資金を調達するために、国営石油会社サウジアラムコ新規株式公開(IPO)を計画しています。

サウジアラビア政府は、株式の最大5%を放出して1000億ドルを調達する計画で、実現すれば世界最大規模のIPOとなります。

そのIPOの時期は、2018年後半などといわれていますが、先延ばしとなる可能性もあります。

いずれにしても、サウジアラビアとしては、それまで何としてでも原油価格を高値のまま維持しておきたいところです。

4.イエメン

最後に、OPEC加盟国ではなく、原油生産量も少ないのですが、イエメンについてです。

2017年12月19日には、イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装組織のフーシ派が、サウジアラビアの首都リヤドに向けて、ミサイルを発射するということがありました。

このフーシ派にミサイルを提供したのがイランであるといわれています。

つまり、イエメンは、シーア派のイランと、スンニ派のサウジアラビアの代理戦争の場となっているのです。

また、イエメン国民もシーア派とスンニ派に分かれており、イエメンは完全な内戦状態となっています。

中東の覇権を争うイランとサウジアラビアは、2016年1月3日に国交を断絶していましたが、その対立はさらに深まる一方となっているのです。

以上のように、中東情勢は簡単には落ち着きそうにありません。

また、サウジアラムコのIPOも控えており、2018年の半ばくらいまではWTI原油価格が70~80ドルをうかがうような展開もあり得ると思われます。

しかし、米シェール企業の増産もあり、2018年末にかけては40~50ドル程度まで下落していくのではないかと考えています。

よろしければ、原油相場について書いた、以下の記事もご参照ください。

 

「WTI原油」の先物価格と米国の期待インフレ率(BEI:ブレーク・イーブン・インフレ率)前のページ

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