ここでは、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CAPEレシオ・Fear & Greed Index・長短金利差・FRB保有債券残高などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.S&P 500とPER
まずは、S&P 500に採用されている500銘柄の平均PERとS&P 500の推移を見ていきます。
この図から、1990年代後半以降、ITバブル後やリーマン・ショック後のような特殊な状況を除くと、PERは概ね15倍~35倍で推移しているといえます。
そこで、同期間における、PERが15倍~35倍に相当する株価とS&P 500の推移を示してみたのが以下の図になります。
S&P 500は、コロナショックにより急落し、PER20倍台前半を付けた後、一時は40倍近くにまで急騰していましたが、9月1日時点では25.2倍となっています。
なお、2000年前後のITバブル前にはPERが35倍近くまで上昇する場面もありましたが、2008年のリーマン・ショック前のPERは25倍程度までの上昇に過ぎませんでした。
そして、コロナショックの際も、PER25倍程度からの下落となっていました。
2.S&P 500とCAPEレシオ
次に、景気循環調整後の株価収益率(PER)である、CAPEレシオ(シラーPER)とS&P 500の推移を見ていきます。
CAPEレシオでは、一般に25倍を超えると株価が過熱圏にあるという見方がされます。
CAPEレシオは、コロナショックにより、一時25倍を下回り、その後40倍近くまで上昇する局面もありましたが、9月1日時点では30.2倍と過熱感が少しだけ和らいでいます。
ちなみに、ここ数年を除いて、過去に30倍を超えたのは、1929年の世界大恐慌の前や、2000年のITバブルの時だけであり、2008年のリーマン・ショック前には25倍以上で推移はしていましたが、30倍まではいきませんでした。
また、CAPEレシオに関しても、15倍~40倍に相当する株価とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。
この図から直近のS&P 500は調整しているものの、CAPEレシオという観点からすると、依然として2008年のリーマン・ショック前よりも割高な水準にあることが分かります。
また、2008年のリーマン・ショック前には、何年もの間にわたってCAPEレシオが25倍を超えて推移していましたし、コロナショック前も2年ほどは30倍前後で推移していました。
そういったことから、CAPEレシオで割高だと判断されたとしても、これによって相場転換のタイミングを計ることは難しいと言えます。
PERやCAPEレシオはあくまで参考程度のものだということです。
3.Fear&Greed Index
続いて、株式市場に対する投資家のセンチメント(市場心理)を示す指標である「Fear&Greed Index」を見てみます。
この指標は、7つの要素を基に算出され、0~100の数値で表わされるとともに、その数値によって「Extreme Fear」「Fear」「Neutral」「Greed」「Extreme Greed」の5つに区分されています。
直近の9月29日時点では、Fear&Greed Indexは25で「Fear(恐怖)」となっており、市場心理としてはかなり弱気へと傾いています。
4.S&P 500と長短金利差(米国債利回り差)
さらに、長短金利差として、米10年国債利回りと米2年国債利回りの差(=10年国債利回り-2年国債利回り)を見ていきます。
※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年国債利回りを短期金利として扱っています。
そして、米国の長短金利差とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。(なお、見やすくするために、右軸の長短金利差のスケールは反転しています。)
この図からは、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック前に米国債利回り差が0%以下と、2年国債利回りの方が10年国債利回りよりも高い状態で推移する「逆イールド」と呼ばれる状態になっていたことが分かります。
そして2022年3月以降、一時的に逆イールドが発生することは何度かありましたが、22年7月以降は逆イールドが定着しており、直近ではー0.44%となっています。
5.FRBの保有債券残高
最後に、FRB(米連邦準備制度理事会)の保有債券残高の推移も見てみます。
なお、この保有債券残高というのは、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)、政府機関債の合計となります。
FRBの保有債券残高は、2017年12月頃より縮小されていましたが、2019年10月半ばより、短期金融市場の安定化を目的にTビルの購入が開始され、2020年3月からはTビル以外の米国債やMBSの購入も再開されていました。
そして、2022年6月からはいわゆる量的引き締め(QT)が開始され、FRBの保有債券残高が減少してきていることが上の図からも分かります。
6.総括
S&P 500は、直近では4300ドル前後にまで調整しています。
この背景としては、今月19~20日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を経て、早期の利下げ転換が遠のき、高金利環境が続くとの見方が強まったことが挙げられます。
また、政策金利だけではなく、長期金利の方も上昇していますが、これは米経済が堅調だからということもあるでしょうが、米国債の需給悪化(財政悪化)といった信用リスクが高まっていることも大きいと思われます。
というのも、FRBの保有債券残高の推移で見たように、FRBがQTを続ける一方で、米政府は財政赤字を垂れ流し、債務残高が拡大の一途をたどっているためです。
金利上昇は株式相場にとって逆風となりますが、特に銀行にとっては、国債価格の下落による含み損の拡大や、商業用不動産価格の下落よる不良債権拡大のリスク等が懸念されます。
そうなると、銀行が融資を絞り、経済が減速するといった悪循環になる可能性が高まります。
実際に経済の失速が鮮明となれば、FRBが早期に利下げに動く可能性もないわけではありませんが、インフレの沈静化が遅れたり、もしくはインフレが再燃するようなことがあれば、FRBは高金利環境を維持せざるを得ないでしょう。
つまり、今後の株式はもちろん債券なども含めた金融市場は、インフレの動向次第と言えます。
なお、過去4年間で見ると、10~12月のS&P 500は全て大きく上昇しています。
また、1950年以降、S&P 500が9月末時点で年初から10%超の上昇を見せた年には、8割超の確率で10~12月にも上昇するというデータもあります。
さらに、年前半の上昇率が大きい年や、軟調な値動きとなりやすい9月に大きく下がった年ほど、10~12月の上昇が大きくなる傾向があるというのです。
そして、2023年のS&P 500は、上半期に16%の上昇、9月に5%と大きく下げていることから、経験則からすると、10~12月に大きな上昇を見せる可能性があります。
ここからの3ヵ月は、弱気になり過ぎないことが大事になってくるかもしれません。