ここでは、直近の「ドル円相場」について、日米10年国債利回り、購買力平価、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)という3つの観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.日米10年国債利回りとドル円相場
まずは、米国の10年債利回りとドル円相場の推移を比較してみます。
この図から、米長期金利は1980年代より右肩下がりの傾向となっていたことが分かります。
ここ最近では、米長期金利の上昇に伴って、ドル円相場も円安方向への動きとなっていましたが、直近では小康状態となっています。
次に、米国と日本の10年国債利回りの差をドル円相場の推移と比較したのが以下の図です。
こちらの図では、ドル円相場の動きが、日米の長期金利差と概ね連動していることが見て取れます。
直近では、長期金利差とドル円相場との乖離はかなり縮小しています。
2.購買力平価とドル円相場
次に、日米の購買力平価とドル円相場の推移を比較してみます。
なお、購買力平価(PPP)に関しては、日米の相対的購買力平価である、消費者物価PPP、企業物価PPP、輸出物価PPPを用いています。
この図からは、ドル円のレートは、企業物価PPPを上限、輸出物価PPPを下限として推移していた時期が長い中で、ここ数年は企業物価PPPより上での推移となっていたことが分かります。
さらに、2022年以降、ドルの円レートが消費者物価PPPを大きく超える動きとなっており、直近においてもその状態を維持しています。
3.修正ソロスチャートとドル円相場
最後に、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)とドル円相場の推移を見ていきます。
この図からは、ドル円相場と修正マネタリーベース比率との相関性が高いことと同時に、最近では両者の乖離が拡大していることが分かります。
4.総括
ドル円相場は、3月下旬に130円弱まで調整した後は円安方向への動きとなり、直近では140円前後での推移となっています。
6月13日~14日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、FRB(米連邦準備理事会)が1年3ヵ月続けてきた利上げ路線を一時停止するとの見方が大勢になっています。
この背景は、上場企業のうち今後1年で倒産確率が上がる度合いを測る「FRISKストレス指数」が、金融を除く事業会社の5月末の数値が2009年以来の高水準となったことから読み取れます。
つまり、インフレ鎮圧に成功したというよりも、経済への悪影響も勘案して、利上げを一時停止するだろうということです。
ただ、インフレの動向もあり、7月以降のFRBによる利上げ再開の可能性は依然として高いままです。
一方で、日本国内ではインフレ率が高まっており、日銀による金融政策変更の可能性は常にあると言えます。
また、投機筋による円のショートポジションもかなりの高水準となっており、このまま一方的に円安が進むような流れにはなりづらいのではないかと思われます。
ところで、来る8月下旬には、ドルにとって大きな転換点となるかもしれない出来事が控えています。
2009年から毎年開かれているBRICS首脳会談が8月下旬に行われるのですが、そこで新しい通貨が発表され、その通貨は金建てになるのではないかと言われているのです。
実際、欧米諸国はもう何十年も金の保有量を増やしていませんが、ロシアや中国などはここ最近も金の保有量を増加させています。
また、中東諸国では人民元建てで石油などの取引を進めていたり、BRICS間では自国通貨で輸出入を行ったりといった流れもあります。
ドルは、金本位制の終焉後、原油取引をドル建てで行うという、いわゆるベトロダラー体制によって、基軸通貨としての地位を維持してきましたが、そのペトロダラー体制が崩壊しつつあるのです。
もちろん、ドルの基軸通貨としての地位がすぐに終わってしまうというわけではありませんが、長期的にドルの減価というのは避けられないでしょう。
これからの世界では、円の他にドルに分散しておけば良いという単純な図式は成り立たず、金などの現物資産への分散に真剣に取り組んでいく必要がありそうです。