ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.東証REIT指数とTOPIX
まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。
この図から、TOPIXと東証REIT指数とは強い相関を認めることが分かります。
2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り
次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。
まずは、NAV倍率の方からです。
NAV倍率は依然として、一般的に割安の基準であるとされる1倍に近い水準(赤い点線)での推移となっています。
続いて、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)
直近のJ-REIT分配金利回りは4.3%程度となっていますが、中でもホテル系銘柄には大幅な減配あるいは減配予想となっている銘柄があり、全体の足を引っ張っていると言えます。
3.各種利回りの比較
さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。
ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」などにより、ここ数年は-0.2%~0%での推移となっています。
つまり、ここ数年の長期金利は少なからずコントロールされたものであると言え、比較対象として適切なものかどうかは疑わしいものであるため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。
このJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。
コロナショックにより、J-REITの分配金利回りが大きく上昇していたことや、株価がほぼコロナ前の水準へと回復していることから、両者のスプレッドは2%程度にまで拡大しています。
4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数
なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。
そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。
具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。
まずは、「毎月決算型」の方からになります。
この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。
2019年以降、「毎月決算型」投信の純資産総額はほぼ横ばいとなっていましたが、直近ではコロナショックもあり、大きく資金が流出していました。
ただ、2017年末頃からは両者の乖離が拡大していたため、「毎月決算型」投信の純資産総額は、もはやあまり参考にならないのかもしれません。
続いて、「国内 不動産投信」になります。
一方で、「国内 不動産投信」の純資産額の推移は、東証REIT指数とほぼ連動するような動きとなっていることが分かります。
5.総括
直近の東証REIT指数は、株価指数(TOPIX)に比べると戻りが鈍くなっています。
REIT分配金利回りとTOPIX配当利回りとのスプレッドから見ても、現在もREITには株価指数と比較して割安感があると言えます。
そしてREITを、「物流」、「住宅」、「オフィス」、「商業施設」、「ホテル」といったセクター別に見てみると、強弱にかなり差が出ていることが分かります。
最も厳しい状況にあるのが、「ホテル」で、「オフィス」や「商業施設」も、戻りが鈍くなっています。
一方で、「物流」の値動きは強く、「住宅」も堅調な値動きとなっています。
ただ、「オフィス」や「商業施設」系銘柄の分配金もしくは予想分配金の減額幅は、今のところ軽微なものにとどまっており、意外に強いという印象です。
決して未だ楽観できる状況にはありませんが、コロナ禍への懸念が薄まり、「オフィス」や「商業施設」に対する不透明感が弱まれば、これらの銘柄が回復していくことも十分に考えられるのではないでしょうか。