読書録・書評

【読書録・書評】『臆病者のための株入門』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

  • 臆病者のための株入門
  • 著者:橘 玲
  • 出版日:2006/4/20
  • お役立ち度 :
  • 難易度   :
  • マニアック度:
  • 分類:株式投資、ファイナンシャルリテラシー、インデックス投資

まずは、本書の概要からです。

本書は、投資や経済関係の小説・実用書を数多く手掛ける作家の橘玲氏によって、金融理論や金融業界、株式投資など多岐にわたって分かりやすく書かれています。

なお、本書の章立ては、次のようになっています。

  • 第1章 株で100万円が100億円になるのはなぜか?
  • 第2章 ホリエモンに学ぶ株式市場
  • 第3章 デイトレードはライフスタイル
  • 第4章 株式投資はどういうゲームか?
  • 第5章 株で富を創造する方法
  • 第6章 経済学的にもっとも正しい投資法
  • 第7章 金融リテラシーが不自由なひとたち
  • 第8章 ど素人のための投資法

2.株式投資の性質

第1章では、株式投資というものが、偶然性を多分に含んだものであると書かれています。

将棋やサッカーなどでは、素人がプロに勝つことはまずないのに対し、株式投資ではそうとは限らないためです。

また第2章では、株式投資においては自分がどう思っているかは関係ないと言います。

経済学者のケインズが、株式投資を美人コンテストに例えたように、株式投資は、自分の好みの女性ではなく、皆が一番美人だと思う女性に投票するコンテストだということです。

そして第3章では、デイトレードについて触れられています。

デイトレードに関するアメリカの統計調査では、新たにゲームに参加したトレーダーの7割以上が1年後にはすべての資金を失って去っていくと言います。

他に、デイトレーダーのうち、生き残るのは全体の5%という報告もあります。

さらに、リチャード・デニスやラリー・ウィリアムズ、マーティ・シュワルツといったカリスマトレーダーの並外れた実績が紹介されています。

ただ、そのような莫大な利益を手にするトレーダーがいるということは、その反対側に膨大な数の敗者がいるということでもあるのです。

3.株式の定義と理論価格

第4章では、株式について説明されています。

株式というのは、会社の所有権をバラ売りしたもので、この会社の所有権は、株主総会での議決権と、利益分配権・資産処分権を合体させたものとされています。

これらのうち、利益分配権に着目することで、株式の価値を定義することができます。

株式の価値は、その会社が将来にわたって生み出すすべての利益を現在価値に換算したものと定義されるのです。

つまり、株式の価値を知るため必要な情報は、将来の利益と割引率の2つということになり、株式の理論価格は次のように計算することができます。

株式の理論価格=1株利益/割引率

これは例えば、1株利益が1万円、割引率が10%なら、株式の理論価格は10万円になる(1万円/10%)ということです。

そして、一般に株式投資においては、割引率よりも1株利益の変動が株価に大きな影響を与えるため、株式投資は1株利益を予想するゲームであると述べられています。

4.ファンダメンタルズとテクニカル

第5章では初めに、ウォーレン・バフェットや竹田和平について触れられています。

バフェットの投資法を簡単に言うと、財務諸表などから企業の本質的な価値(理論価値)を推定し、現在の株価がその理論価値よりもはるかに安ければ大量に保有するというものになります。

バフェットはそういった個別株への集中投資(多くて10社程度)および長期投資を行うのです。

一方、竹田和平の投資法は、会社四季報を参考にして基本的な株価指標から、会社の適正な価値に比べて割安に放置されている銘柄を探すだけだと言います。

具体的には、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、株主資本比率と配当性向・配当利回りなどを参考にするとのことです。

このように、バフェットと竹田和平の投資法は、企業の本質的な価値を見極め、割安な銘柄に長期投資するという点で共通しています。

こうした手法は、一般にファンダメンタルズ投資と呼ばれますが、これに対してテクニカル投資では、「すべての情報はチャートに埋め込まれている」ことを原則としています。

そして、テクニカル派がいまだに大きな支持を得ているのは、将来の利益を予測することと、現在価値を導くための適正な割引率を決めるのがとても難しいからであると述べられています。

また、犬猿の仲に見えるファンダメンタルズ派とテクニカル派は、じつは相互に依存しあっているということも書かれています。

さらに、株式投資が偶然のゲームであるという事実を前提とすれば、「必ず儲かるチャート分析」や「確実に儲かる長期投資法」といったものは存在しないのです。

そのため、トレーダーであれ長期投資家であれ、株式市場で成功するには、他人より先に市場の歪みを見つけるしかないと結論づけられています。

5.モダンポートフォリオ理論

第6章は、ファイナンス理論の核心にある、モダンポートフォリオ理論についての内容となっています。

特に、ウィリアム・シャープ(1990年ノーベル経済学賞受賞)の提唱した「CAPM(キャップエム)=資本資産評価モデル」が重要なものになります。

というのも、このCAPM理論によって、ポートフォリオの値動きは、アルファ(銘柄に固有の動き)とベータ(市場の動きに感応する動き)という二つの要素で決まることになるからです。

またシャープは、「CAPM理論が正しければ、世の中に効率的ポートフォリオはたったひとつしかない。それは株式市場の縮小コピーである」という結論をも導き出したのです。

そういったことから、「経済学的に最も正しい投資法」というのは、インデックスファンドに投資することであるとしているのです。

6.世界市場ポートフォリオ

第8章では、ど素人のための投資法として、もう一歩踏み込んだ内容が書かれています。

まず、預金(債券)・株式・不動産や個別銘柄の選択といった「アセット・アロケーション(資産配分)」を考える前に、人的資本(労働価値)を考慮に入れるべきだと言います。

そうすると、人生の前半では人的資本が、後半では金融資産の運用能力が大きな影響を持つことになります。

そして、ファイナンス理論の根幹にある前提として、資本主義は自己増殖するシステムであり、資源問題や環境問題などの外的な制約がなければ、この運動は永遠に続くというものがあります。

その結果として、株式の価値は長期的には必ず上がっていくのです。

ただし、これは全ての企業や全ての業種、さらには全ての国の市場が、均等に発展していくということではありません。

厳しい競争や淘汰がありながらも、世界全体としてみれば成長していくということです。

そのため、「経済学的に最も正しい投資法」というのは、世界市場全体に投資することとなるのです。

ここで、海外の資産を保有する際には、どうしても為替リスクが生じてきますが、これについてもあまり恐れる必要はないと言います。

むしろ、為替リスクをヘッジすることで、金利差分の支払いが生じたり、為替差益を失ってしまったりすることもあるのです。

そもそも、日本の個人投資家が世界市場に最適投資をするためには、金融資産の85%を外貨建てで運用しなければならないとも述べられています。

最後にまとめると、本書では株式投資の代表的な手法として、以下の3つが挙げられています。

  1. トレーディング(デイトレードを含む)
  2. 個別株長期投資(バフェット流投資法)
  3. インデックス投資(経済学的に最も正しい投資法)

これらのどの投資法にも一長一短があるわけですが、著者は一つの手法に忠誠を誓う必要はなく、3つの手法を組み合わせて自分なりに楽しむことを提案したい、と書いています。

7.総括

本書はタイトルに「株入門」とあるように、あくまで株式投資の入門書という位置付けではありますが、株式を中心とした金融市場および金融商品の原理原則がしっかりと押さえられています。

投資初心者の方であっても、本書を読むだけで、ファイナンシャルリテラシーが飛躍的に高まること請け合いです。

また、仮にインデックス投資で、最小限の努力で最大限の成果を上げようとするのであれば、本書一冊だけで十分であるといっても過言ではありません。

一方で、インデックス投資以外にも、割安株投資などの個別株投資についても触れられてはいますが、その内容に関してはあまり真に受けない方が良いでしょう。

というのも、本書ではバリュー・トラップ(割安株の罠)について特に言及されておらず、個別株投資は成長株投資の要素を加味しなければ上手くいかないことが多いと考えられるからです。

なお、ここからは余談ですが、本書で資本主義は、資源問題や環境問題などの外的な制約がなければ、世界全体で見れば発展していくといったような内容がありました。

ただ、昨今の情勢を見ると、米中貿易摩擦はもちろん、パンデミックに伴う製造業のサプライチェーン寸断による生産拠点の国内回帰などから、世界経済のブロック化が進んでいくことになりそうです。

そうなると、世界市場の株式ポートフォリオを構築したとしても、長期的にはともかく、短期的・中期的には、世界経済の悪化とともに、世界全体の時価総額も減少していくことが予想されるのではないでしょうか。

  • 臆病者のための株入門
  • 著者:橘 玲
  • 出版日:2006/4/20
  • 分類:株式投資、ファイナンシャルリテラシー、インデックス投資
 

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