読書録・書評

【読書録・書評】『初心者でも勝率99%の株ポートフォリオ戦略』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書は、「米系ファンド会社でNo.1の成績を叩き出した伝説のファンドマネジャー」こと山本潤氏によって書かれた『1%の人が知っている99%勝てる株が見つかる本』の続編となります。(リンク先はレビュー記事になります。)

前著では銘柄選別法が中心であったのに対し、本書ではポートフォリオ戦略について書かれています。

なお、本書の章立ては、次のようになっています。

  • 第1章:株式投資の「六悪」
  • 第2章:長期投資の基本哲学
  • 第3章:リスクとリターンの簡易計算法と金融理論の基礎知識
  • 第4章:勝率99%を実現する「ポートフォリオ運用」とは?
  • 第5章:初心者でも年1回、30分でOK!「ポートフォリオの構築法」

2.株式投資の六悪

第1章では、株式投資の六悪として、次の6つについてそれぞれ説明がなされています。

  1. 信用取引
  2. 集中投資
  3. 回転売買
  4. 空売り
  5. 小型株への投資
  6. IPO銘柄への投資

2.集中投資に関して、本書では「投資額の25%以上を1銘柄に投資すること」を集中投資と定義しています。

また、多くの機関投資家は、伝統的な投資手法として信用取引や集中投資を社則で禁止されており、資産の8%を超えて一つの銘柄に投資することはないとも書かれています。

3.回転売買についても、多くの年金基金向け運用を行っている機関投資家の回転数は、1以下に定められているとあります。

5.小型株への投資に関しては、「小企業は、グローバル経済の拡大の恩恵を受けられない」という決定的な欠点があると言います。

また、天災や原発事故、法律改正、驚異的イノベーションの出現など、滅多に起こらない事象によって、壊滅的な打撃を受けるリスクが高いとも言うのです。

そういったことから、利益が20億円を超える上場企業(東証全体の3分の1程度)を投資対象とするのが良いと書かれています。

これは、大きな世の中を相手に成長をするためには利益が必要で、20億円の利益があれば、次世代への投資を敢行できるためと述べられています。

6.IPO銘柄への投資については、上場間もない企業には過去の業績のトラックレコードが3年分しかなく、これでは経営者の実績が正しく評価できないため危険であるとしています。

そのため、上場後の最低2年間は、しっかりとウォッチしてくださいと書かれています。

ちなみに、米国年金運用では、「状況が最悪のときに、どう経営したか」という企業のDNAを特定するために、決算書を30年間しっかりと見るとのことです。

3.長期投資の哲学

第2章は、長期投資の基本哲学についての内容となっています。

著者は、日経新聞やアナリストレポートは全く読まず、一次情報である適時開示情報を読んでいると言います。

また有価証券報告書では、業績の変化というよりも、利益率の高さといった業績の絶対水準を重視しているとあります。

むしろ、業績の大きな変化というのは、長期投資にとって諸刃の剣であり、利益率が高いとともに業績の変化が少ないものを選ぶのが基本だと言います。

続いて、PERについても、その低さは「あてにならない利益」(=資本コストの高さ)の裏返しに過ぎないと言及しています。

市場には「万年割安株」と呼ばれる、いつも指標が低い銘柄群が存在するように、「割安なものがフェアバリューに収斂する」という多数派の考え方は都市伝説であると言うのです。

さらに資産バリュー株(狭義では低PBR株)についても触れられています。

PBRが低いということは、企業の財産を株主へと分配しない可能性(=コスト)である、「エイジェンシーコスト(代理人のコスト)」が高いことが予測されると書かれています。

つまり、低PBR企業は、「保有し続けていつまで経っても株主に還元しない企業」や、「資産が役に立たない設備に置き換わってしまった企業」であることを物語っているとのことです。

そして、著者の運用経歴23年の中で、PBRやPERが低いものばかりを買って好成績をあげた人は存在するものの、ごく一部だと言います。

PBRやPERが低い株は需給が悪く、こういった株だけに投資するバリュー投資家は、いつも下方修正で参っているといったイメージがあるとも述べています。

バリュー株の企業は、利益率が低く、誰にでも真似できる事業をしているため、有利な経済環境や事業環境が到来しても儲けられず、景気が悪くなると一斉に赤字転落すると言うのです。

他にも、株価の動きは、短期ではほとんどランダムだが、長期では必然的な要素で説明できるといったことが書かれています。

4.リスクとリターン

第3章では、株式投資は、リスク量が相場環境によって変化すると書かれています。

市場平均では、一般的に企業業績が良いときには簡易リスクは10%台と低く、リーマンショックのような最悪の事業環境では40%以上になるのです。

また、過去と比べて業績が悪いもの、過去と比べて株価が低位にあるものは、一般的に簡易リスクは高くなりますが、同様にリターンの見通しも高くなるともあります。

そのため、リスクだけを見て「高いからダメだ」と判断してはいけないと言うのです。

簡易リスクが高くても、リターンの見通しが高い企業もあるため、あくまでもリターンとリスクとの関係がよいものを選ぶのが運用のコツとのことです。

他にも、現物株とキャッシュの比率に関して、5:5とするのが最も優れたリスクとリターンの関係になると書かれています。

そうすることによって、税金や売買スプレッドなどのコストを考慮しなければ、わずかに期待値がプラスになると述べられています。

5.ポートフォリオ戦略

第4章は、ポートフォリオ戦略についての内容となっています。

前著の内容を簡潔に踏襲し、まずは原則として以下の3つの条件を満たす銘柄を選ぶとあります。

  1. 4年連続増収
  2. 直近の営業利益率が13%以上
  3. 中期計画が発表されている、もしくは存在すること

また、ポートフォリオ運用の定義として、次のようなものを挙げています。

  • 少なくとも4銘柄以上で構成する(できれば10銘柄以上が望ましい)。
  • 各銘柄の投資額がほぼ均等になるように構成する。
  • 業種をバランス良く選ぶ。内需株と外需株をバランス良く選ぶ。
  • 長期にわたり保有・維持する。
  • 上手くいかないときのセカンドプランがある。

この中の内需と外需に関して、本書では会社四季報を参考にして、海外売上高比率が30%以上あれば外需であると定義しています。

最後の「セカンドプラン」について詳しくは後述しますが、相場が下がることを想定して、あらかじめ対応策を考えておくということです。

なお、ポートフォリオの中には、業績の悪い銘柄も入れておくと書かれています。

調子の良いものと悪いものたちの力を合わせることによって業績の変動を平準化し、景気の波の影響を受けにくいポートフォリオになるためだと言います。

さらに、ポートフォリオの具体例として、以下のような100万円のポートフォリオの構成例が示されています。

  1. 個別株その1‥‥20万円 内需
  2. 個別株その2‥‥20万円 外需
  3. 個別株その3‥‥20万円 内需
  4. 個別株その4‥‥20万円 外需
  5. 「NASDAQ100 ETF(1545)」‥‥5万円(米国NASDAQ100への分散投資)
  6. 「SPDR S&P500 ETF(1557)」‥‥5万円(米国S&P500への分散投資)
  7. 「日経225連動型上場投資信託(1321)」‥‥5万円(日経225インデックス投資)
  8. キャッシュ‥‥5万円

この例にあるように、上記の3つのETF(5~7)を主として、ポートフォリオの20~30%はETFで構成することが推奨されています。

一方、投資初心者で個別株を選べない方は、全てETFでの運用でも構わないとのことです。

そして、著者は「セカンドプラン」の他に、それが上手くいかなかったときのための「サードプラン」についてまで想定しておくと書いています。

セカンドプランは5年から10年に1~2回発動する頻度で、サードプランは50年から100年に1度発動する頻度でプランを練ると言うのです。

6.ポートフォリオ管理

第5章では、セカンドプランとサードプランについて、より詳しく書かれています。

これらのプランで用いられるのが、「日経レバレッジETF(1570)」になります。

まず、セカンドプランは、ポートフォリオの時価が当初の簿価の8割に下がった段階で発動されます。

具体的には、ポートフォリオの20~30%を占めるETFの部分のうち、簿価の10%だけを売却し、その売却金額で「日経レバレッジETF」と入れ替えるというものです。

全てを個別株で構成している場合は、パフォーマンスの相対的に良いものを売却して10%の資金を捻出し、その10%で同様に「日経レバレッジETF」にスイッチするとのことです。

その後、ポートフォリオの時価が100%に回復した時点で、「日経レバレッジETF」を「日経平均連動ETF」などの当初保有のものに戻すと言います。

次に、相場がさらに下がり、ポートフォリオの時価が当初の簿価の64%になった時点で、サードプランが発動されます。

サードプランは、「日経レバレッジETF」以外の残りの保有ETFを、全て「日経レバレッジETF(1570)」に切り替えるというものです。

全てを個別株で構成している場合は、パフォーマンスの相対的に良いものをさらに10%程度売却し、「日経レバレッジETF」にスイッチします。

このサードプランは、ポートフォリオが当初の簿価の80%にまで回復したときに終了し、元のETFなどに戻すことになります。

なお、ポートフォリオの出口戦略として、キャッシュ化戦略は10年を超える長期の投資にはあまり必要はないとも書かれています。

ただ、キャッシュ化するのであれば、市場の配当利回りが1%を超えて低下するときは一般的に売り時であり、その場合にポートフォリオの3割をキャッシュ化するという戦略も有効だろうと述べられています。

7.総括

本書のテーマである「ポートフォリオ運用」の内容として目新しかったのは、後半に書かれていた「レバレッジETF」の活用です。

相場の急落時や金融ショック時に、このレバレッジETFを使用するというのは、全く念頭にありませんでした。

確かに、相場の急落時に、個人投資家がNISA口座などで、レバレッジETFを大量に買い増しているのはデータとして見ていたので知ってはいました。

しかし、そもそもレバレッジ型のETFを投資対象としては考えていなかったのです。

それは、レバレッジ型のETFというのは、相場が一定の上下動を繰り返す往来相場(レンジ相場)では、徐々に減価していく仕組みとなっているからです。

本書にも書かれていますが、急落後の一時的な急反発を狙う目的で、レバレッジETFを短期間だけ保有するのであれば良いでしょう。

ただ、相場の急落はすぐに回復するとは限らず、急落の規模が大きくなればなるほど、底値圏での揉み合いは長引く傾向があると言えます。

ですので、セカンドプランならまだしも、サードプランとしてレバレッジETFを用いるのはいかがなものかと思われます。

そして、その他の内容に関しても特に目新しいものはありませんでした。

著者は本書を「本邦初となる実践的ポートフォリオ入門書」であると思っていると、「はじめに」で書いていますが、これは著者の大風呂敷に過ぎないと感じざるを得ません。

前著が興味深い内容であっただけに、はっきり言って本書は期待外れの内容でした。

 

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