相場のデータ・指標

「東証REIT指数」のデータ分析(2020.12)(NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況)

ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.東証REIT指数とTOPIX

まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。

東証REIT指数とTOPIXの推移を示した図(2020.12)

この図から、TOPIXと東証REIT指数とは強い相関を認めることが分かりますが、直近では両者の間に乖離が生じています。

2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り

次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。

まずは、NAV倍率の方からです。

東証REIT指数とNAV倍率の推移を示した図(2020.12)

NAV倍率は依然として、一般的に割安の基準であるとされる1倍前後での水準(赤い点線)となっています。

続いて、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)

東証REIT指数と分配金利回りの推移を示した図(2020.12)

直近のJ-REIT分配金利回りは4.4%程度と、ここ7年ほどでは最も高い水準となっていることが見て取れます。

3.各種利回りの比較

さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。

分配金利回り、配当利回り、長期金利の推移を比較した図(2020.12)

ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」などにより、ここ数年は-0.2%~0%での推移となっています。

つまり、ここ数年の長期金利は少なからずコントロールされたものであると言え、比較対象として適切なものかどうかは疑わしいものであるため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。

このJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。

分配金利回りと配当利回りのスプレッドの推移を示した図(2020.12)

株価指数が大きく値を戻したのに対し、東証REIT指数が低迷していることもあり、J-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッドは、直近では拡大していることが分かります。

4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数

なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。

そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。

具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。

まずは、「毎月決算型」の方からになります。

この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。

東証REIT指数と毎月決算型投信の推移を示した図(2020.12)

2019年以降、「毎月決算型」投信の純資産総額はほぼ横ばいとなっていましたが、直近ではコロナショックもあり、大きく資金が流出していました。

ただ、2017年末頃からは両者の乖離が拡大していたため、「毎月決算型」投信の純資産総額は、もはやあまり参考にならないのかもしれません。

続いて、「国内 不動産投信」になります。

東証REIT指数と国内不動産投信の推移を示した図(2020.12)

「国内 不動産投信」の純資産額の推移は、東証REIT指数とほぼ連動するような動きとなっていることが分かります。

「国内 不動産投信」の純資産額は、ここ6年ほどでは最低水準となっており、J-REITの見直し買いによって資金流入となることは十分に考えられるでしょう。

5.総括

直近の東証REIT指数は、株価指数(TOPIX)に比べて、戻りが鈍いままとなっており、ここまで見てきたように、NAV倍率やREIT分配金利回り、TOPIX配当利回りとのスプレッドからは、REITに割安感があると言えそうです。

さらにREITを、「物流」、「住居」、「オフィス」、「商業施設」、「ホテル」といった用途別に見てみると、強弱にかなり差が出ていることも分かります。

例えば、「ホテル」系銘柄では戻りが鈍いのに対し、「物流」系銘柄ではコロナ前の高値を超え、足元ではややピークアウトしているような値動きとなっています。

とはいえ、物流系銘柄は依然として高値圏にあり、今後の成長は期待できるかもしれませんが、割安感が薄れているのも事実です。

そして、意外なほどに軟調な値動きとなっているのが、「オフィス」系銘柄です。

コロナ禍によるテレワークの増加という逆風はあるものの、現状の大型オフィス系リート価格は、十数%ほどの空室率が見込まれた水準となっていると試算されます。

大型オフィス系リートは東京都心5区に保有する物件の割合が高く、さすがに10%を超える空室率になるというのは、悲観し過ぎではないかと思われます。

大型リートであれば、日銀によるリート購入の恩恵もより受けることができ、そういった意味でも大型オフィス系リートは狙い目かもしれません。

また、総合型や複合型のリートに関しても見てみると、オフィス・住居・物流の占める割合が高い「野村不動産マスターファンド」や、物流・住居の占める割合が高い「大和ハウスリート」などは、投資妙味が高まっていると言えるのではないでしょうか。

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