1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- “普通の人”だから勝てる エナフン流株式投資術
- 著者:奥山 月仁
- 出版日:2018/10/18
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、投資戦略
まずは、本書の概要からです。
本書は、会社員投資家として数億円の資産を築き、大人気の投資ブログ「エナフンさんの梨の木」の筆者でもある奥山氏によって書かれたものです。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- PART1:強みを知る
- PART2:流れを知る
- PART3:原理を知る
- PART4:弱みを知る
- PART5:ウラを取る
2.3つの大きな流れと投資スタイル
本書のPART2では、長期的に株価を変動させる3つの大きな流れとして、次の3つが挙げられています。
- 企業の成長
- 評価水準の変化
- 相場との連動
そして、この3つの流れのうち、どれを狙うかによって、以下のように投資スタイルが異なってきます。
- 「成長株投資(グロース投資)」
- 企業の成長(業績伸長)に伴う株価の上昇を狙う。
- 「割安株投資(バリュー投資)」
- 企業の本質的な価値に対して株価が割安な場合に、いずれ起きるはずの株価(評価水準)の是正に着目する。
- 「循環株投資(シクリカル投資)」
- 景気循環を背景にした相場の推移との連動による値上がりを期待する。
- 国内外の景気変動の影響を強く受ける銘柄を選び、景気の波に乗って儲ける投資スタイル。業種では鉄鋼、非鉄金属、海運、不動産、自動車、金融などが該当する。
もちろん、これらの3つのスタイルは完全に独立しているわけではなく、評価の軸が異なるだけで、実際には「成長株かつ循環株」や「循環株かつ割安株」といった複合的な銘柄が存在します。
なお、循環株の反対は「ディフェンシブ株」と呼ばれ、日用品や食品、医薬品といった需要が安定していて景気変動の影響を受けにくい業種の株が該当するといったことも書かれています。
これらの他に、PART4では「モメンタム投資」や「裁定取引(アービトラージ)」についても、次のように触れられています。
- 「モメンタム投資」:「強気」や「弱気」といった投資家の心理的な変化から生じる相場の「勢い(モメンタム)」を捉えて売買する。
- 「裁定取引(アービトラージ)」: 投資対象の価値が本来は同じであるにもかかわらず、現物の市場と先物の市場など市場ごとに価格が異なった場合に、価格の低い市場で買って高い市場で売ることでさやを稼ぐという投資法。
3.4つの異なる相場
PART3では、以下のような4つの異なる相場について説明されています。
- 業績相場:業績の良い個別株が物色される。
- 金融相場:幅広い業種の数多くの銘柄が値上がりする。
- 波乱相場:突然、株価が急落し始める。
- 底練り:絶好の買い場となる。
そして、底練りの時期にどれだけ良い銘柄を仕込めるかで、その後数年の運用成績が決まってくると書かれています。
また、そのためには、波乱相場で立ち直れないような大打撃を被らないことがとても重要で、十分な資金余力を残しておくことで、チャンスで勝負に打って出ることができるとも言っています。
4.PER・PEGレシオ・PBR・ROE
PART3では、PERについても言及されています。
特に、高い利益成長が期待される企業では、2~3年程度先の成長が現在の株価に織り込まれていることが多く、予想PERも高くなりがちです。
ただ、一見割高に見える株価も、2~3年後の予想EPSで求めた予想PERで見れば割高とはいえない場合も多く、その判定に役立つ指標として、PEGレシオが次のように紹介されています。
例えば、実績PERが20倍でEPSの成長率が年率20%のケースにおいては、PER20(倍)÷EPS成長率20(%)=1となる。こうして算出したPEGレシオが1前後なら現在の株価は妥当、0.5を下回れば割安、2を上回れば割高と判定する。
そして、株価の水準を予想PERとPBRのどちらで判定すべきかを決める企業の収益性の指標として、予想ROE(自己資本利益率)が挙げられています。
予想ROEは、当期純利益を自己資本で除して算出されますが、このROEに関して、右のような図が載せられています。
この図から、予想ROEが8%以下ではPBRは1倍前後で推移し、予想ROEが8%を超えると上昇することが見て取れます。
ここで、PBRとROEには、PBR=ROE×PERという関係式が成り立つので、ROEが8%以下でPBRが一定ということは、ROEが低ければ低いほどPERは必然的に高くなることを意味します。
つまり、目安の一つとして、予想ROE8%以下では、予想PERよりもPBRで株価の水準を判定した方がいいということなのです。
5.損益計算書の読み解き方
PART5では、財務3表のうち、貸借対照表やキャッシュフロー計算書よりも、損益計算書を分析の中心に置くと書かれています。
それは、成長株投資では企業の業績の伸びが最も重要となるからです。
貸借対照表やキャッシュフロー計算書については、将来の増資リスクや倒産リスクを確認するための補助的な扱いと考えても構わないと言います。
そして、損益計算書を分析する際には、各四半期毎の数値を抽出して見ていく必要があります。
それも過去1年の決算推移だけでは足りず、少なくとも過去数年分は確認する必要があります。
というのも、企業によっては、特定の時期に利益が集中しやすいなどといった季節性があるためです。
そうした作業の結果、例えば過去3年ほどの利益の拡大が確認できて、「どうやらこの会社は成長軌道に乗っている」と判断できたとして、投資家として重要なのは利益成長が今後も続くかどうかになります。
それに関して、考えるべきポイントとしては、次の2つが挙げられています。
- このまま成長が続いたとして成長の限界はどのあたりにあるのか。
- ビジネスモデルの中に成長の仕組みが内在している構造になっているか。
この2つの観点から、成長の継続性のウラを論理的に取ることが重要だと言うのです。
ちなみに本書では、表計算ソフトを用いて、過去の決算書から各四半期ごとの数値を抽出していくと書かれています。
ですが、マネックス証券の「銘柄スカウター」という非常に便利な分析ツールを利用すれば、この手間は省くことができるのです。
6.総括
本書では、株式投資について体系的に書かれており、内容の方も非常に合理的で分かりやすいものでした。
最近読んだ株式投資に関する書籍の中では一二を争う内容であったと言え、初心者から上級者まで、株式投資を行うすべての人にお勧めできる良書です。
本書は、株式投資の知識を詰め込んだ頭の中を整理するのに役立ったり、自らの投資手法を改めて見直す良いきっかけとなるでしょう。