1.東京証券取引所の市場改革とは?
今回は、東京証券取引所(以下、東証)の市場改革(市場再編)についてです。
東証には現在、次のような4つの市場(5つの市場区分)があります。
- 市場第一部:流通性が高い企業向けの市場
- 市場第二部:実績ある企業向けの市場
- マザーズ:新興企業向けの市場
- JASDAQ:多様な企業向けの市場(実績のある企業・新興企業)
- スタンダード
- グロース
これが、市場改革とのことで、2022年4月1日を目途に、以下のような3市場体制へと移行される方針となっているのです。
- プライム市場
- スタンダード市場
- グロース市場
ただ、混乱を避けるため、現在の第一部上場企業(以下、東証1部)は希望すれば、しばらくはプライム市場に残ることができます。
また、プライム市場の上場基準に満たない企業でも、他の要件を満たせば残れるという措置もあるようです。
そして、プライム市場の上場基準としては、2019年末に、市場で売買可能な「流通時価総額」が100億円以上などといった基準を示しています。
流通時価総額は、大株主などの保有分を除いた市場で売買できる株式数(流通株式数)に、株価を掛けたものですが、これについて詳しくは以下の記事で解説していますので、よろしければご参照ください。
当然、流通時価総額は、大株主の保有分を除く分だけ、普通株時価総額よりも小さくなります。
そのため、流通時価総額が100億円以上というのは、普通株時価総額に換算すると250億円程度の水準になるとも言われます。
2.海外と日本の上場企業数の推移
さて、東証が市場改革を行うのは、東証1部に投資対象として決して優良とは言えない企業が多く含まれているためです。
それは、東証の上場企業数を世界と比較してみると分かります。
以下の図は、世界の上昇企業数の推移を示したものです。
この図で、2012年から2013年にかけて、日本の上場企業数が大きく増加しているのは、2013年7月16日付けで、東証と大阪証券取引所の現物市場の統合があったためです。
この図のように、上場企業の数だけを見ると実態がつかみにくいので、人口当たりの上場企業数という形で、その推移を見たのが次の図になります。
この図から分かるように、日本は人口に対して上場企業数が多すぎるのです。
しかも、米国やドイツでは上場企業数が減少傾向なのに対し、日本では増加傾向となっているのです。
3.東京証券取引所の上場企業数の推移
さらに、東証に上場する企業数の推移を市場別に見たのが、以下の図です。
すると、東証1部の上昇企業数が最も多く、その数も増加傾向にあることが分かります。
実はこの背景には、東証の制度変更も関係していると言えます。
以前は、東証1部に直接上場するためには、時価総額の基準だけで言えば、500億円以上が必要でしたが、2012年には250億円に引き下げられていました。
また、東証2部やマザーズに上場した企業では、流通株式時価総額の基準だけで言うと、40億円以上あれば東証1部に昇格することが可能です。
さらに、東証1部からの降格基準も、流通時価総額だけで言えば、10億円未満となっており、降格する企業というのはかなり少ないのです。
そのため、東証1部には、業績や株価が長期にわたって低迷している企業がそのまま残っていることになります。
4.低迷する地銀株と東証株価指数(TOPIX)
東証1部の中でも、時価総額や売買代金、PBR(株価純資産倍率)といった観点で、著しく低迷しているのが、地方銀行(以下、地銀)の株式です。
前述したように、流通時価総額100億円以上が、普通株時価総額で250億円以上に相当すると考えると、20~30行の地銀はこの基準に引っ掛かってくるはずです。
ただ、仮にプライム市場に残れたとしても、東証株価指数(TOPIX)からは除外されてしまう可能性があるのです。
というのも、東証の市場改革と併せて、TOPIX構成銘柄を見直す方針というのも発表されているからです。
現在、TOPIXの構成銘柄は東証1部上場の全銘柄となっていますが、市場改革後は、TOPIXの構成銘柄がプライム市場上場の全銘柄とはならないということです。
そうなると、TOPIXから除外される地銀の数は、想定されるよりも多くなることも考えられます。
そして、TOPIXから除外された地銀株は、さらに流動性が下がり、機関投資家などから見放されて時価総額も低下し、1部降格や上場廃止のリスクが高まるはずです。
一方で、そういった劣等生を除外することによって、TOPIXの魅力を高め、主に海外の機関投資家からの投資を呼び込みたいというのが、金融庁や東証の狙いになります。
しかし、プライム市場の中途半端な時価総額基準を見る限りでは、期待するような結果というのは大して得られない可能性が高いでしょう。