ここでは、直近(2019年3月)の「ドル円相場」について、日米10年国債利回り、購買力平価、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)という3つの観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.日米10年国債利回りとドル円相場
まずは、米国の10年債利回りとドル円相場の推移を比較してみます。
この図から、米長期金利は1980年代より右肩下がりの傾向となっているのに対して、ドル円相場の方は、概ね横ばい(ボックス圏)での推移となっていることが分かります。
そういった意味では、米長期金利だけを見た場合には、ドル安円高の余地があると言えそうです。
次に、米国と日本の10年国債利回りの差をドル円相場の推移と比較したのが以下の図です。
こちらの図では、ドル円相場の動きが、日米の長期金利差と概ね連動していることが見て取れ、直近における両者の乖離もほとんどありません。
2.購買力平価とドル円相場
次に、日米の購買力平価とドル円相場の推移を比較してみます。
なお、購買力平価(PPP)に関しては、日米の相対的購買力平価である、消費者物価PPP、企業物価PPP、輸出物価PPPを用いています。
この図からは、ドル円のレートは、企業物価PPPを上限、輸出物価PPPを下限として推移していた時期が長い中で、ここ数年は企業物価PPPより上での推移となっていることが分かります。
つまり、ドル円相場を購買力平価という観点から見た場合には、ドル安円高余地が大きいように思われます。
3.修正ソロスチャートとドル円相場
最後に、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)とドル円相場の推移を見ていきます。
この図からは、ドル円相場と修正マネタリーベース比率との乖離は縮小傾向ではあるものの、ドル円のレートにはやや円高余地があるように思われます。
4.総括
ここでは、日米10年国債利回り、購買力平価、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)という3つの観点から、ドル円相場について見てきましたが、その全てで円高余地があるように見えました。
また、ドル円相場には、日米の金融政策が大きく関係してきます。
まず日銀は、3月14~15日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定していました。
続いてFRB(米連邦準備理事会)は、3月19~20日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利(FF金利)を2.25~2.50%に据え置き、保有資産縮小も9月で終了することを決定しました。
そして、今後に関しては、FRBの年内利下げを見込む向きすらあります。
一方の日銀は、追加緩和の可能性について触れてはいるものの、金融機関の収益悪化などの副作用もあることから、実際に追加緩和を行うのは厳しいのではないかと思われます。
そういったことから、日米の金利差が縮小傾向となると、ドル安円高方向への動きとなることが予想されます。
もちろん、日米の金融政策は、世界景気の先行き次第ですが、その先行きを占う上で重要な位置づけにあると言えるのが米中貿易摩擦です。
この米中貿易摩擦は、ハイテク産業を巡る米国と中国の覇権争いという面が強いので、容易には収束せずに長引いたり、激化することが予想されます。
となると、景気減速から長期金利が低迷して、FRBが利下げに動くことも十分に考えられ、やはり円高方向への警戒が必要となるでしょう。
さて、年初の1月3日の午前7時過ぎに、ドル円相場が一時105円を割り込む「フラッシュ・クラッシュ」があったのは記憶に新しいところかと思いますが、先週21日(春分の日)にも午前3時過ぎに1円近くの急激な円高が見られました。
もしかすると、休日前後のドル円相場はヘッジファンドなどに狙われやすくなっているのかもしれませんが、ご存知のように来月4月末より、10連休という大型連休が控えています。
そう考えると、ドル円のショート・ポジションに関してはそのままで良いのかもしれませんが、ロング・ポジションは来月中旬頃までに解消、あるいは減らしておくことが望ましいでしょう。
また、場合によってはボラティリティの上昇に賭ける「バイボラ戦略」(ドル円のプット・オプション購入など)というのも面白いかもしれません。