相場のデータ・指標

「東証REIT指数」のデータ分析(2018.12)(NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況)

ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.東証REIT指数とTOPIX

まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。

東証REIT指数とTOPIXの推移を示した図(2018.12)

この図から分かるように、TOPIXと東証REIT指数は強い相関を認めていましたが、直近では両者の乖離が大きくなっていることが見て取れます。

ただ、この図のみからは、TOPIXが東証REIT指数と比較して割高となっているのか、あるいは東証REIT指数が割安となっているのかは判断がつかないため、他の指標についても見ていきたいと思います。

2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り

そこで、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。

まずは、NAV倍率の方からです。

東証REIT指数とNAV倍率の推移を示した図(2018.12)

すると、NAV倍率は一般的に割安の基準であるとされる1倍に近い水準(赤の点線)での推移となっています。

一方で直近の東証REIT指数は、NAV倍率ほどは下がっておらず、両者の間には乖離が生じています。

これは、NAV倍率を算出する際に分母となる、REITの保有する不動産の時価が上昇しているためかもしれません。

そして、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)

東証REIT指数と分配金利回りの推移を示した図(2018.12)

直近のJ-REIT分配金利回りは4%前後での推移となっていますが、この図で示した過去約15年間の推移を見る限りでは、この4%という水準はそこまで高いものではないように見えます。

3.各種利回りの比較

とはいえ、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、これらの比較もしていきます。

分配金利回り、配当利回り、長期金利の推移を比較した図(2018.12)

ここで、長期金利(10年国債利回り)に関係するものとしては、7月30・31日の日銀金融政策決定会合で、多少の政策変更がありました。

日銀は、「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」としながらも、これまで0%程度に誘導していた長期金利の上限を0.2%程度まで容認するとの方針を表明したのです。

これは日銀によるステルステーパリング(隠れた緩和縮小)と見られていますが、これにより長期金利は一時0.15%超にまで上昇していました。

ただ直近では、米中貿易摩擦の激化による世界的な景気減速懸念からか、長期金利は0.04%前後での推移となっています。

このように、ここ数年の長期金利は少なからずコントロールされたものであると言え、比較対象として適切なものかどうかは疑わしいものであるため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。

このJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図になります。

分配金利回りと配当利回りのスプレッドの推移を示した図(2018.12)

この図で示した過去約15年間の推移を見る限りでは、両者のスプレッドはまだ低い水準にあると言えます。

そういったことから、株式と比較して見た場合に、REITにはまだそこまで投資妙味があるというわけではなさそうです。

4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数

なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家などが挙げられます。

そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。

具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。

まずは、「毎月決算型」の方からになります。

東証REIT指数と毎月決算型投信の推移を示した図(2018.12)

ここ数年間、「毎月決算型」投信からの資金流出がずっと続いており、かなり大きなものとなっていますが、直近では東証REIT指数がその流出ペースほど下がっていないことが分かります。

続いて、「国内 不動産投信」になります。

東証REIT指数と国内不動産投信の推移を示した図(2018.12)

一方で、「国内 不動産投信」はピークアウトしてはいるものの、直近では資金流入傾向となっており、それと連動するように東証REIT指数も上昇していることが分かります。

5.総括

ここでは、東証REIT指数を、各種指標と比較して見てきました。

それによると東証REIT指数は、TOPIXとの比較やNAV倍率からは割安な水準にあるように見えます。

一方で、J-REIT分配金利回りの水準や、東証1部株式配当利回りとの比較では、そこまで割安な水準であるとは言えませんでした。

また、投資信託の資産増減状況からは、「国内 不動産投信」の人気がまだまだ根強いことが見て取れます。

これは、金融緩和によって世界的に低金利環境となっている中で、不動産投信は相対的に利回りが高いためであると思われます。

ですが、FRB(米連邦準備理事会)にしてもECB(欧州中央銀行)にしても、金融緩和は縮小の流れにあります。

そしてFRBは、今月12月18・19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、利上げを行うと見られていますが、こうした金融政策の正常化というのは、米国REITにとって長期的にはマイナス要因となります。(REITの資金調達コストが上昇するため。)

ただ、日本ではマイナス金利政策が継続されており、これはJ-REITにとっては相対的に追い風だと言えるでしょう。

さらに、FRBの利上げなどにより、世界的な景気減速懸念が強まれば、各国の長期金利が低下することも十分に考えられ、そうなると、REITが相対的に高利回りとなることも考えられます。

もちろん、REITは株式との連動性が高いことから、株式相場の調整局面では、REITも軟調な展開となることが予想されますが、それは同時にREITへの投資妙味が高まるということでもあります。

加えて最近では、金融機関による不動産投資への融資が引き締められていることからも、今後REITへの注目が徐々に集まってくるのではないかと思われます。

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