ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.東証REIT指数とTOPIX
まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。
この図で示した2003年3月以降の両者の相関係数は、約0.89と非常に強い相関を認めています。
しかし、直近においては両者の乖離が拡大していることが分かります。
ただ、この図のみからは、TOPIXが東証REIT指数と比較して割高となっているのか、あるいは東証REIT指数が割安となっているのかは判断がつかないため、他の指標についても見ていきたいと思います。
2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り
そこで、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。
まずは、NAV倍率の方からです。
この図から分かるように、NAV倍率は一般的に割安の基準であるとされる1倍水準(赤の点線)での推移となっています。
ただ、東証REIT指数はNAV倍率ほどには下がっておらず、両者の間に乖離が生じています。
これは、NAV倍率を算出する際に分母となる、REITの保有する不動産の時価が上昇しているためかもしれません。
そして、同様に分配金利回りの推移も見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)
直近のREIT分配金利回りは4%前後での推移となっていますが、この図を見る限りではこの4%という水準は決して高いものではないように見えます。
3.各種利回りの比較
とはいえ、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、これらを比較していきます。
長期金利に関しては、日銀の長短金利操作付き量的・質的金融緩和が行われている影響で、0%程度での推移となっており、あまり参考になりません。
そこで、J-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りについて、両者のスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図になります。
すると、両者のスプレッドは拡大傾向にはあるものの、まだまだ低水準にあるといえます。
そう考えると、株式と比べてまだそこまでREITに投資妙味があるというわけではなさそうです。
4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数
なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家などが挙げられます。
東証REIT指数の推移は、そのなかでも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。
具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。
まずは、「毎月決算型」の方からになります。
「毎月決算型」投信からの資金流出は大きなものとなっていますが、直近では東証REIT指数がそこまで下がっていないことが分かります。
続いて、「国内 不動産投信」になります。
「国内 不動産投信」の方は、「毎月決算型」とは対照的に、直近においては資金流入傾向となっていることが分かります。
5.総括
ここでは、東証REIT指数を、各種指標と比較して見てきました。
東証REIT指数は、TOPIXとの比較やNAV倍率からは割安な水準にあるように見えます。
一方で、J-REIT分配金利回りの水準や、東証1部株式配当利回りとの比較では、そこまで割安な水準であるとは言えませんでした。
また、投資信託の資産増減状況からは、「国内 不動産投信」の人気がまだまだ根強いことが見て取れます。
これは、世界的に低金利環境となっている中で、不動産投信は相対的に利回りが高いためであると思われます。
ただ、TOPIXの推移やNAV倍率から割安な水準に見えるということは、REITへの市場からの評価がそこまで高くないということを示しています。
つまり、REITへの投資マインドがやや冷え込んでいるということであり、その背景には、国内の不動産市場をはじめ、国内外の政治・経済への先行き懸念などがありそうです。
加えて、REITというのは、株式と比較して成長性が見込みづらいものとなります。
それは、REITでは利益のほぼ100%を分配金へと回しており、成長のための原資を確保する手段が限られているからです。
そういったこともあり、REITでは価格や分配金の大幅な上昇というのはまず期待できません。
以上のことから、少なくとも現状では、焦ってREITに投資しておきたいといったような状況ではないと言えるでしょう。