今回は、直近で3%近くまでの上昇を見せている米長期金利(米10年債利回り)について、FRBの量的緩和政策(QE)という観点から見ていきたいと思います。
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1.長期金利の決定要因とは?
長期金利というと、一般に10年国債利回りのことを指しますが、この長期金利はどのような要因によって変動するのかということについて初めに書いていきます。
長期金利の決定要因としては、以下の3つがあります。
- リスクプレミアム
- 期待インフレ率
- 実質金利
そして、これらの総和によって長期金利が形成されると考えられます。
まず、リスクプレミアムというのは主に信用リスクに対するもので、これは例えば債券の発行体が破綻し、投資資金が償還されなくなるようなリスクに対して上乗せされる利率のことをいいます。
次に、期待インフレ率というのは、予想インフレ率ともいわれ、将来に予測される物価上昇率(変動率)のことになります。
最後の実質金利というのは、一般に期待実質経済成長率にほぼ等しいとされます。
そして、この実質経済成長率は短い期間では多少の波があるものの、長期的には潜在成長率に落ち着くと考えられるのです。
なお、実質金利に対する言葉として名目金利があります。
名目金利には政策金利などが用いられることもありますが、ここでは市場で決定される長期金利を名目金利としています。
2.長期金利の意味するもの
少し難しくなってしまったので、長期金利についてもう少しかみ砕いて書いていきたいと思います。
まず、金利には短期金利と長期金利がありますが、短期金利は中央銀行の金融政策によって決定される政策金利の影響を強く受けます。
この政策金利は、基本的に景気が良いときには景気の過熱やインフレを抑制するために引き上げられ、景気が悪い時には景気回復を促すために引き下げられます。
一方、長期金利の方は政策金利の影響ももちろん受けるのですが、それ以上に景気・経済の見通しや、将来の物価変動予測の影響を強く受けます。
つまり、経済の見通しが明るかったり景気回復期待が高まれば長期金利は上昇し、経済の先行きが悲観的であったり景気後退懸念が高まれば長期金利は低下するというわけです。
そして、以上のことを踏まえて、ここではアメリカの長期金利(米10年債利回り)を例にとって見ていきます。
具体的には、FRB(連邦準備制度理事会)が行った量的緩和政策によって、実際に長期金利がどのように動いたかを見ていきます。
それによって、本当に長期金利が、潜在成長率や景気・経済の見通しといったものを反映しているのかどうかを検証していくというわけです。
3.量的緩和政策(QE)とは?
2008年のリーマン・ショック後、アメリカでは金融危機対策としてFRBによる、量的緩和政策が行われました。
量的緩和政策とは、FRBなどの中央銀行が国債や証券などを買い入れることによって、市場に資金を供給しようとするものです。
金融緩和政策は通常であれば、政策金利を引き下げることによって行われますが、政策金利が実質0%となってしまうと、それ以上の金利引き下げによる金融緩和を行うことができません。
そこで、市場への資金供給量を増やすことで、金融市場の安定や景気回復を図るのが、量的緩和政策というわけです。
この量的緩和政策(QE:Quantitative Easing)は、アメリカにおいてはリーマン・ショック後、次のように3度行われてきました。
- 量的緩和政策第1弾(QE1):2008年11月~2010年6月
- 量的緩和政策第2弾(QE2):2010年11月~2011年6月
- 量的緩和政策第3弾(QE3):2012年9月~2014年10月
ちなみに、これらの量的緩和政策では、FRBは主に米国債や住宅ローン担保証券(MBS)と呼ばれるものを買い入れていました。
4.金融政策の正常化
そして、これらの量的緩和政策後には、金融政策の正常化が行われていくこととなります。
まず政策金利に関しては、2015年12月16日に0.25%の金利引き上げが決定され、2008年末から続いていた実質的なゼロ金利政策が解除されました。
その後は、2016年12月14日、2017年3月15日、2017年6月14日、2017年12月13日にそれぞれ0.25%ずつの利上げが決定され、現在に至っています。
また、量的緩和に関しても、2017年10月より段階的にFRBの保有資産を縮小していくことが決定されています。
具体的には、2017年10~12月は月100億ドル、2018年1~3月は月200億ドル、4~6月は月300億ドル、7~9月は月400億ドル、10月~は月500億ドルずつ縮小していく方針となっています。
このFRBの保有資産縮小についてはまた別の機会に書いていきたいと思います。
ここでは、QE1~QE3それぞれの実施期間中および、その前後の米長期金利(米10年債利回り)の推移について見ていきます。
なお、以下の図は、米10年債利回りの長期推移を示したものです。(1900年1月~)
この図から、現在の長期金利は過去の推移から見ると、まだまだ低い水準にあることが分かります。
5.量的緩和政策第1弾(QE1)と米長期金利
それでは、量的緩和政策と米長期金利の推移についてです。
まずは、量的緩和政策第1弾(QE1)の前後における、米長期金利の推移について示したのが以下の図です。
QE1開始直後の急激な長期金利低下は、2008年9月のリーマン・ショック後に景気後退への懸念が急速に強まったことによるものと思われます。
実際、10月8日には欧米などの中央銀行による0.5%の緊急利下げが同時に実施され、また同月29日にはFRBによる0.5%の追加利下げが行われ、政策金利は1%となっていました。
さらにFRBは、12月16日に0.75%~1.0%の利下げを行って、政策金利は0.0%~0.25%と実質的なゼロ金利政策が導入されていました。
その後、長期金利はQE1開始時点と同水準にまで上昇し、そこからは概ね横ばいで推移しています。
そして、QE1の終了が近づくと、長期金利は低下傾向となっていたことが分かります。
6.量的緩和政策第2弾(QE2)と米長期金利
次に、量的緩和政策第2弾(QE2)の前後における、米長期金利の推移について示したのが以下の図です。
この図から、QE1終了後より低下していた長期金利は、QE2開始によって上昇していき、QE2の終了が近づくと低下していることが分かります。
また、QE2終了後も長期金利は低下傾向となっています。
7.量的緩和政策第3弾(QE3)と米長期金利
最後に、量的緩和政策第3弾(QE3)の前後における、米長期金利の推移について示したのが以下の図です。
この図からも、QE2終了後より低下していた長期金利は、QE3開始によって上昇していき、QE3の終了が近づくと低下傾向となっていることが分かります。
8.量的緩和政策(QE)の長期金利への影響
以上のことから、量的緩和政策の導入により、景気・経済の見通しが改善したり、回復期待が高まったりすることで、長期金利が上昇していくものと考えられます。
逆に、量的緩和政策の終了が意識され、景気後退懸念が高まったりすることで、長期金利が低下していくのでしょう。
ですから、確かに長期金利は、潜在成長率や景気・経済の見通しといったものを反映しているといえそうです。
また、その量的緩和に関しては上述したように、FRBは2017年10月より段階的に保有資産を縮小していく方針となっていました。
しかし、実際の縮小額は、2017年10~12月に月100億ドルずつ、2018年1~3月に月200億ドルずつという縮小予定額と比べて、かなり少ないものとなっています。
とはいえ、2017年9月末時点と比較して、FRBの保有資産が縮小されていることは事実です。
そして、それが2017年末頃からの米長期金利上昇にも少なからず影響しているのではないかと思われため、これについてはまた別の機会に書いていきたいと思います。