以下の記事では、「1月効果」や「新年度相場」、「夏枯れ相場」と「サマーラリー」、「10月効果」や「掉尾の一振」といったアノマリーについて検証しました。
また、よろしければアノマリーについてまとめた以下の記事もご参照ください。
さて今回は、アノマリーの中でも代表的なものである、「セル・イン・メイ」について検証していきます。
1.日経平均株価とS&P 500の月別騰落率
「セル・イン・メイ」というのは、「Sell in May and go away. (5月に売ってどこかへ出かけろ。)」のことです。
また、これには「But remember to come back in September.(ただし、9月に戻ってくることを忘れるな。)」という続きもあります。
ただ少し長いので、以下では「セル・イン・メイ」と略して書いていくことにします。
この「セル・イン・メイ」について、まずは感覚的に捉えるために、日経平均株価およびS&P 500の1949年5月以降の月別騰落率を見ていきたいと思います。
初めに、日経平均株価における、月別騰落率の平均値(%)、最大値(%)、最小値(%)および、月別の上昇回数、下落回数、横ばいの回数についてまとめたのが、以下の表です。
次に、S&P 500に関して同様にまとめたのが以下の表になります。
そして、日経平均株価とS&P 500における、1949年5月以降の月別騰落率の平均値を示したのが以下の図です。
この図から分かるように、日経平均株価とS&P 500はともに平均して9月には下落しており、そこから4月までは平均して概ね上昇しています。
また、5月、6月や夏場のパフォーマンスは平均すると冴えないものとなっていることも分かります。
そのため、このアノマリーでいわれるように、9月末に買って、5月に売るという戦略は機能するように思われます。
そこで、「9月末に買って、5月初めに売る」場合と「9月末に買って、5月末に売る」場合とに分けて、日経平均株価とS&P 500それぞれについて検証していくことにします。
2.日経平均株価と「Sell in May」
まずは、日経平均株価について調べてみると、「9月末に買って、5月初めに売る」場合は平均年率8.69%、「9月末に買って、5月末に売る」場合は平均年率8.60%でした。
そして、若干ではありますが成績の良かった前者の「9月末に買って、5月初めに売る」場合を、1949年9月に買って2017年5月初めまで売らずにひたすら持ち続けるという「buy and hold」と比較してみます。
なお、開始資金はともに100万円とし、やや現実的ではありませんが、資金目一杯を使い切って売買するものとします。
すると、2017年5月初めの時点で、「9月末に買って、5月初めに売る」場合では約1億1750万円、「buy and hold」では約約1億1730万円という結果でした。
つまり、日経平均株価(に連動するETFなど)を「9月末に買って、5月初めに売る」という戦略は労多くして益少なしであったというわけです。
3.S&P 500と「Sell in May」
次に、同様にS&P 500について調べてみます。
ここで、S&P 500に関しては1915年1月以降のデータが取得できたため、1915年1月以降と、日経平均株価と同じ1949年5月以降とに分けて見ていきたいと思います。
その結果、1915年1月以降では、「9月末に買って、5月初めに売る」場合は平均年率5.25%、「9月末に買って、5月末に売る」場合は平均年率5.55%でした。
また、1949年5月以降では、「9月末に買って、5月初めに売る」場合は平均年率8.25%、「9月末に買って、5月末に売る」場合は平均年率8.50%でした。
つまり、どちらの期間でも、日経平均株価の場合とは異なり、S&P 500の方では「5月末に売る」場合の方が成績が良くなっています。
そして、両方の期間において、「9月末に買って、5月末に売る」場合を、それぞれの期間の「buy and hold」と比較してみます。
なお、開始資金はともに全て1万ドルとし、ここでも資金目一杯を用いて売買するものとします。
すると、まず日経平均株価と同じ1949年5月以降の方では、2017年5月末の時点で、「9月末に買って、5月末に売る」場合では約151万ドル、「buy and hold」では約155万ドルという結果でした。
つまり、そこまで大きな差があるわけではないものの、「セル・イン・メイ」を実践するよりも単純に「buy and hold」していた方が成績が良かったということになります。
次に、1915年1月以降でも見てみると、2017年5月末の時点で、「9月末に買って、5月末に売る」場合では約66万ドル、「buy and hold」では約245万ドルという驚くべき結果でした。
なんと「セル・イン・メイ」を1915年から実践していたら、「buy and hold」に大きく水をあけられてしまっていたのです。
この理由を探るために、1915年1月以降と1949年5月以降の、S&P 500の月別騰落率の平均値を示したものをそれぞれ見ていきます。
これらの図を見比べてみると、1915年1月以降の方では、平均して7月に最も大きく上昇しており、その前後の6月と8月もある程度の上昇を認めていることが分かります。
つまり、1915年1月から1949年5月までの期間では、夏場に大きく上昇する傾向があったということなのです。
そのため、1915年1月からの「セル・イン・メイ」では、その夏場の上昇を捉えることができず、結果としてパフォーマンスが低下してしまっていたのです。
このように、S&P 500では、「セル・イン・メイ」は労多くして益少なしどころか、期間損失が生じるだけの徒労に過ぎなかったといえます。
4.「セル・イン・メイ」の考察
以上見てきたように、残念ながら日米ともに「セル・イン・メイ」が機能しているとは言い難いところです。
ただ、1949年5月以降の日経平均株価、1915年1月以降および1949年5月以降のS&P 500の全てにおいて、唯一9月だけは騰落率がマイナスとなっているのは事実です。
ですから、「But remember to come back in September.(ただし、9月に戻ってくることを忘れるな。)」という、「セル・イン・メイ」の後半部分に関しては有効性が認められたといえます。
そこで、日経平均株価やS&P 500に連動するETFなどを、9月末もしくは10月初めに買って、翌年の8月末もしくは9月初めに売るという戦略は考えられるかもしれません。
もちろん、今後もうまくいく保証はどこにもないということには留意する必要はありますが。