ここでは、為替相場の中でも特にドル円相場について、日本と米国の国債利回りの差という観点から見ていきたいと思います。
その前にまずは、為替相場の変動要因について触れておきます。
Contents
1.為替相場の変動要因
為替相場の変動要因には様々なものがあります。
例えば、政策金利や金融政策、通貨の需給、国際収支、経済成長率、政治情勢、購買力平価、などといったものです。
このうち、購買力平価については、購買力平価説から見る「ドル円相場」に書きましたので、よろしければご参照下さい。。
また、ソロスチャートから見る「ドル円相場」のところで書いているソロスチャートや修正ソロスチャートには、金融政策や通貨の需給といったところが関係してきます。
そして、ここで書く国債利回りに関しては、政策金利や経済成長率といったところが関係してきます。
2.短期金利と長期金利
国債利回りに政策金利が関係してくるというのは何となくイメージ出来ても、経済成長率が関係してくるというのはイメージしづらいかもしれません。
これは一口に金利といっても、金利には短期金利と長期金利があることによります。
このうち前者の短期金利は、中央銀行の金融政策によって決められる政策金利の影響を強く受けることになります。
政策金利は一般に、景気が良いときには景気の過熱やインフレを抑制するために引き上げられ、景気が悪いときには景気回復を促すために引き下げられます。
一方、長期金利の方はもちろん政策金利の影響も受けるのですが、それ以上に経済・景気の見通しや、将来の物価変動予測の影響を強く受けます。
つまり、経済の見通しが明るかったり景気回復期待が高まれば長期金利は上昇し、経済の先行きが悲観的であったり景気後退懸念が強まれば長期金利は低下するのです。
なお、一般に短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいい、長期金利とは期間が1年以上のものをいいます。
3.長期金利とドル円相場
そして、特に長期金利とドル円相場との相関性については以前から言われてきました。
ただ、その長期金利が日米の2年国債の利回り差であったり、日米の10年国債の利回り差であったり、あるいはただ単に米国の10年債利回りであったりするのです。
一般に、高金利は通貨高要因で、金利の上昇した国の通貨は買われて上昇する傾向があります。逆に、低金利は通貨安要因で、金利の低下した国の通貨は売られて下落する傾向があるのです。
もちろん、高金利は高いインフレ率の裏返しであることもあり、高金利が長期的には通貨安要因となる場合もあります。
それでは実際に、上述したように以下の3つについてそれぞれ見ていきたいと思います。
※取得したデータの都合上、データの開始時期がそれぞれ異なっています。
- 2年国債利回り差とドル円相場(1979年9月~)
- 10年国債利回り差とドル円相場(1986年9月~)
- 米国10年国債利回りとドル円相場(1971年1月~)
3-A.2年国債利回り差とドル円相場(1979年9月~)
この図からは、2年国債利回り差の上下動が激しく、あまりドル円相場との相関性がないように見えます。
ただ、2000年代後半からはその上下動が収まり、ドル円相場のトレンドを示すような動きとなっています。
3‐B.10年国債利回り差とドル円相場(1986年9月~)
この図では、10年国債利回り差が2年国債利回り差のように大きく上下動して、ドル円相場と大きく乖離することもなく、全期間にわたって概ね相関しているように見えます。
また、2000年前後までは、10年国債利回り差がドル円相場の動きに数年間先行するような動きをしていたようにも見えます。
3‐C.米国10年国債利回りとドル円相場(1971年1月~)
この図でも、米国10年国債利回りとドル円相場は、概ね相関しているように見えます。
ただ、10年国債利回りが1980年代後半から右肩下がりとなっていることもあり、直近の数年間においては乖離が生じています。
4.日米の2年国債利回りと10年国債利回り
最後に、日米の2年国債利回りと10年国債利回りの推移をそれぞれ別個に見ていきたいと思います。
日米の2年国債利回りの推移(1979年9月~)
この図を見ると、日米の2年国債利回り差の上下動の原因は米国2年国債利回りにあったということが分かります。
そして、直近において米国2年国債利回りは上昇傾向となっています。
これは、FRB(米連邦準備理事会)が2015年12月より利上げを開始しており、今後も利上げが見込まれていることによると考えられます。
やはり、2年国債利回りは期間が1年未満の短期金利に近いため、政策金利の影響をより強く受けるのでしょう。
日米の10年国債利回りの推移(1986年9月~)
この図を見ると、日米の10年国債利回りは並行するように推移していることが分かります。
そういった意味では、2年国債利回り差よりも10年国債利回り差の方が、指標として信頼できるように感じられます。
ただ、日本の10年国債利回りに関してなのですが、2016年9月から日銀が金融緩和強化のために長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入しています。
これにより、長期金利については概ね0%程度で推移するように長期国債の買い入れを行うとされていることから、今後もしばらくは10年国債利回りが0%程度で推移することが予想されます。
今のところ長期金利(10年国債利回り)は日銀によってうまくコントロールされていますが、そもそも長期金利が思うようにコントロールできるものなのかどうかは甚だ疑問です。
そういったことも含めて、今後の長期金利の推移は注視しておく必要があるといえます。
また、ドル円相場の今後を占う上では、特にどれというわけではなく、日米の2年国債利回り差や10年国債利回り差、米国10年国債利回りのいずれにおいてもその推移を追っていきたいところです。
現状では特に、3‐C.で取り上げた米国10年国債利回りとドル円相場の推移について、直近の乖離が縮小していくのかどうかが気になります。
直近の乖離が縮小していくとするのであれば、ドル円相場が円高となるのか、あるいは米国10年国債利回りが上昇していくのかに注目です。