ここでは、配当利回りの観点から日経平均株価とTOPIXについて見ていきたいと思います。
Contents
1.配当利回りとは?
配当利回りとは、株価に対する1年間当たりの配当金の割合を示したもので、以下の式で算出されます。
配当利回り(%)=1株当たりの年間配当金額/株価×100
この式からも分かるように、配当金額が同じで株価が上昇した場合には配当利回りは下がり、逆に株価が下落した場合には配当利回りは上がることになります。
そして、ここでは個別銘柄の配当利回りについてではなく、市場全体での配当利回りについて見ていきます。
なお、市場全体の配当利回りについては、株価指数に採用されている企業の配当利回りを単純平均したものではなく、指数のウエイトを加味した加重平均利回りを用いています。
2.配当利回りと株価指数の推移
では早速、配当利回りと日経平均株価・TOPIXの推移について見ていきます。
(日経平均株価とTOPIXおよび両者の違いについては、NT倍率の2年ぶり低水準をどう見る?のところで書いていますので、よろしければご参照下さい。)
以下の図は、日経平均株価とその指数ベースの配当利回りとの推移を示したもので、2004年9月末以降の日足データです。(見やすくするために、配当利回りのスケールは反転させてあります。)
配当利回りと日経平均株価(2004年9月末~)
また以下の図は、TOPIXとその指数ベースの配当利回りとの推移を示したもので、こちらは1998年1月以降の月足データになります。(配当利回りのスケールは反転。)
配当利回りとTOPIX(1998年1月~)
これらの図では、配当利回りとの相関係数が日経平均株価の方は約-0.44、TOPIXの方は約-0.46と似たような結果となり、相関を認めています。
3.配当利回りと株価指数の見方
さて、どちらの図でも2008年のリーマン・ショックによる株価暴落に伴って配当利回りが大きく上昇しています。
また、リーマン・ショック後には株価が横ばいであったにもかかわらず、配当利回りが急落し、株価指数との乖離が大きくなっていたことが分かります。
これは企業が業績悪化懸念等から配当利回りを引き下げたことによるものと思われ、その後徐々に配当利回りは回復し、株価指数との乖離も縮小しています。
そして、直近の数年間において再び、配当利回りと株価指数との乖離が大きくなっています。
つまり、株価指数が上昇しているものの、配当利回りはそれほど低下しておらずほぼ横ばいの推移となっているのです。
これには、主に次の2つの理由が考えられます。
- 企業の自社株買いの増加
- 企業の配当性向の上昇
3-A.企業の自社株買いの増加
まずは、Aの自社株買いについてです。
自社株買いというのは、企業が発行した株式を買い戻すことで、これにより発行済み株式数が減って一株当たり利益が増加することで、株価の上昇が期待できるというものになります。
そして、第2次安倍政権となってから企業の内部留保が増加を続けており、そこからの自社株買いも増加を続けているのです。
内部留保とは、企業が事業から得た利益のうち、配当や設備投資などに回さずに内部に蓄積したもので、主に利益剰余金のことを指します。
この内部留保からの自社株買いの増加によって、配当利回りは変わらずに株価の方だけが上昇していくというわけです。
なお現在では、市場全体の配当利回りの算出に、自社株を除く発行済み株式数が用いられるようになっているため、この自社株買いによる影響は多少は緩和されているかと思われます。
3-B.企業の配当性向の上昇
次に、Bの配当性向についてです。
配当性向というのは、企業の最終利益である純利益から株主への配当に回す割合のことをいいます。
そして、日本の上場企業では安定して配当することが重視されていたため、配当性向は平均して30%弱と欧米企業と比較して低く推移していました。
しかし、前述した内部留保の増加もあり、配当性向の平均は2013年度の約29%から、2016年度には約35%と上昇していました。
この配当性向の上昇により、直近の数年間においては、株価が上昇しても配当利回りがほとんど低下していないと考えられます。
4.市場全体の配当利回りの考え方
このように、ここ何年かで配当利回りの背景にある環境が大きく変化しています。
そのため、配当利回りのみから現在の株価が割高かどうかを見極めるのはかなり厳しいと言わざるを得ません。
ただ、今後再び配当利回りと株価指数との乖離が縮小していくと考えるのであれば、もちろん配当利回りの方が低下していく可能性も十分にありますが、株価指数の調整にも警戒が必要だと言えます。
そして、両者の乖離がほとんど縮小したと仮定して、改めて上記のTOPIXと日経平均株価の図をそれぞれ見ていきたいと思います。
まずTOPIXの方の図を見ると、配当利回りが今後仮に2000年代前半の水準である1%前後まで低下したとすると、その場合のTOPIXは2000ポイントに相当することになり、TOPIXにはまだ上値余地があるという見方もできます。
一方、日経平均株価の図の方を見ると、配当利回りが今後仮に2005年前後の水準である1%前後まで低下したとしても、その場合の日経平均株価は2万円相当に過ぎず、既にその水準は大きく超えてしまっています。
そういった点では、日経平均株価は過熱圏にあると言えそうですが、これはあくまでも日経平均株価と配当利回りとの乖離が解消されたと仮定した場合の話ですので、やはり何とも言えません。
以上のことから、市場全体の配当利回りというのは、指標としてはあくまで参考程度に過ぎないものだと言えるでしょう。