ここしばらく世界的に低金利の環境が続いている中で、相対的に利回りの高い、REIT(リート:不動産投資信託)や高配当株、ハイ・イールド債などが人気を博しています。
その中でも、ここではハイ・イールド債について書いていきます。
Contents
1.格付け機関と信用格付け
ハイ・イールド債とは、一言でいうと低格付け債券のことです。
この格付けというのは、格付け会社(格付け機関)によって行われるもので、政府や企業の発行する債券などの信用状態が格付けされます。
格付け会社としては、S&P社やフィッチ社、ムーディーズ社などが代表的なところになります。
また、信用格付けの表現方法は会社によって多少の違いがあるのですが、AAA(トリプルエー)やBB-(ダブルビーマイナス)、Caa2(シーダブルエーツー)、Dなどと表現されます。
一般にBBB以上が投資適格とされており、機関投資家はこの投資適格とされる金融商品を中心に運用しています。
そして、一般にBB以下の格付けが投資不適格、あるいは投機的格付けとされ、この投機的格付けをされた債券がハイ・イールド債と呼ばれるのです。
ハイ・イールド債では、その発行体の信用力が低く、債務不履行(デフォルト)リスクが高いため、その分だけ高利回りとなっているのです。
2.債券価格と利回り
ここで、債券の価格と利回りに関してですが、両者は逆相関の関係となります。
これは、債券の利回りというのは発行時に決まっていて固定されているのに対し、市場の金利は常に動いていることによります。
つまり、市場金利との釣り合いを保つために、例えば市場金利が上昇した場合には、債券の金利は変えられないため債券価格が下がることによって釣り合いが保たれるということです。
もちろん、債券価格に影響を与えるものは市場金利以外にもありますが、市場金利が債券価格に大きく影響していることは確かです。
百聞は一見に如かずですので、実際にハイ・イールド債の価格と利回りについて見ていきます。
以下の図は、米国ハイ・イールド債券指数(BofA Merrill Lynch US High Yield)の1996年12月末以降における価格と利回りの推移を示したものです。
米ハイ・イールド債の価格と利回りの推移(1996年12月末~)
また、より分かりやすくするために、上図において債券利回りのスケールを反転させたのが以下の図になります。
米ハイ・イールド債の価格と利回り(反転)の推移(1996年12月末~)
これらの図からも、債券価格と利回りは逆相関するということがお分かりいただけるかと思います。
3.ハイ・イールド債の割安・割高度
さて、債券価格は市場金利に大きく影響されると書きましたが、その市場金利のうち長期のものとして代表的なものが長期国債の金利になります。
そして、ハイ・イールド債の利回りと米国10年債の利回りを比較して、その差(スプレッド)を見ることで、ハイ・イールド債が割安か割高かをある程度判断することができます。
以下は、スプレッド(=米ハイ・イールド債利回り-米国10年債利回り)の1996年12月末以降の推移を示した図ですが、図を見ながら考えていきます。
スプレッドの推移(1996年12月末~)
例えば、米国10年債利回り(長期金利)が上昇した際に(米国10年債価格が下落)、ハイ・イールド債の利回りがそれ以上に上昇していれば(ハイ・イールド債価格が下落)、つまりスプレッドが拡大していれば、ハイ・イールド債は相対的に割安になっていると言えます。
逆に、スプレッドが小さければ、ハイ・イールド債は相対的に割高であると言えます。
また上図から、スプレッドは3%前後(※)が下限水準となっていることが分かりますが、直近においても、その3%近い水準で推移しており、ハイ・イールド債は相対的に割高な水準であると言えそうです。
※スプレッド3%というのは、正確には300bp(ベーシスポイント)と表記されます。
4.スプレッドと日経平均株価
次に、スプレッドと日経平均株価を比較してみたいと思います。
ここでのスプレッドの算出には、米国の債券利回りを用いているため、本来であればアメリカの代表的な株価指数であるS&P500などと比較するべきですが、S&P500と日経平均株価とはかなり相関性が高いので、ここでは日経平均株価の方で比較してみます。
その日経平均株価とスプレッドの1996年12月末以降の推移を示したものが以下の図です。
スプレッドと日経平均株価の推移(1996年12月末~)
この図からは、スプレッドが10%前後になると日経平均株価が概ね底値圏となっていることが分かります。
一方で、スプレッドが3%前後であっても、日経平均株価が天井圏であるとは言えないことも分かります。
5.スプレッドとVIX指数
また上図において、リーマンショックの際にスプレッドが大きく拡大しているのが見て取れることから、相場の不透明感が強まるほどスプレッドが拡大すると考えられます。
余談になりますが、この相場の不透明感ということに関しては、VIX指数というものが連想されます。
VIX指数というのは、Volatility Index(ボラティリティ・インデックス)の略で、恐怖指数とも呼ばれるものです。
ここでは詳しい説明は省きますが、VIX指数はS&P500を対象としたオプション取引の値動きをもとに算出されます。
そして、試しにスプレッドとVIX指数を比較してみたのが以下の図です。
スプレッドとVIX指数の推移(1996年12月末~)
この図を見てみると、スプレッドとVIX指数が驚くほど高い相関性を持っていることが分かります。
これは、VIX指数が上昇するとスプレッドも拡大する、つまりハイ・イールド債の利回りが相対的に上昇(価格は下落)するということです。
このことから、投資家の警戒感が高まりVIX指数が上昇するような場面では、信用力の低いものが売られ、相対的に安全性の高いものが選好されるということが分かります。
直近においてハイ・イールド債は割高な水準にあると書きましたが、この先市場の大幅な調整が起きた際には、他の金融商品に比べより大きく下落することが予想されます。
ハイ・イールド債に投資妙味があるのは、やはり市場が大きく調整してハイ・イールド債も割安となったときで、今さら投資すべきようなものではないと考えます。
目先の高利回りにつられてしまわないようにしましょう。
6.ハイ・イールド債価格と日経平均株価
最後に、ハイ・イールド債の価格と日経平均株価の推移を比較してみたいと思います。
ハイ・イールド債価格と日経平均株価の推移(1996年12月末~)
この図を見ると、リーマンショックを境に、ハイ・イールド債価格と日経平均株価の相関性が高まっていることが分かります。
実際に相関係数を計算してみると、上図の全期間では約0.21であるのに対し、2008年1月以降では約0.76と強い相関を認めています。
このことから、仮に日経平均株価に連動するようなETFと、米ハイ・イールド債のETFを保有していたとしても、大して分散効果が期待できないことになります。
そして、これは何も日経平均株価とハイ・イールド債に限ったことではありません。
近年では、先進国、新興国の株式や債券、REIT間の相関係数が高くなる傾向にあるのです。
ですから、分散しているつもりでも、実際には大して分散効果が働いていないということには注意が必要です。
これに対する対策については、また別の機会に書いていきたいと思います。