相場のデータ・指標

「米国長期金利」のデータ分析(2018.12)(日本と中国の米国債保有額・FRB保有債券残高)

ここでは、直近の「米国長期金利」について、日本と中国の米国債保有額やFRBの保有債券残高といった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。

1.米国債保有額(日本・中国・総計)

まずは、日本と中国の米国債の保有額および保有率について見ていきます。

日本と中国の米国債保有額・保有率の推移を示した図(2018.12)

この図からは、ここ数年は日本と中国ともに、米国債の保有額と保有率ともに減少傾向となっていることが分かります。

そして、日本と中国の米国債保有額を合計したものと、米10年国債価格の推移を示したのが以下の図です。

日本と中国の米国債合計保有額と米10年国債価格の推移を示した図(2018.12)

この図からは、日本と中国の米国債の合計保有額の減少に伴って、米国10年債価格も下落しているように見えます。

とはいえ、初めに示した図からも分かるように、日本と中国を合わせた米国債の保有率というのは、4割にも満たないものです。

そこで、世界各国の米国債保有額の総計についても、米10年国債価格の推移とともに示したのが以下の図になります。

米国債保有額総計と米10年国債価格の推移を示した図(2018.12)

すると、世界各国の米国債保有額の総計は日本と中国の合計保有額ほど減少しておらず、ここ数年はほぼ横ばいでの推移となっていることが見て取れます。

以上のことから、世界全体で見た場合には、米国債の需給が悪化しているというわけではなさそうです。

2.FRBの保有債券残高

次に、FRB(連邦準備制度理事会)の保有債券残高について見ていきます。

FRBは2017年9月20日に、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく、保有資産縮小を決定していました。

この量的緩和政策において買い入れられた資産というのは具体的には、米国債、住宅ローン担保証券(MBS)、政府機関債の3つになります。

まずはこれら3つについて、FRB保有残高の推移をそれぞれ見ていきたいと思います。

米国債のFRB保有残高の推移を示した図(2018.12)

MBSのFRB保有残高の推移を示した図(2018.12)

政府機関債のFRB保有残高の推移を示した図(2018.12)

さらに、これら3つを合計した、FRB保有債券残高の推移を示したのが以下の図になります。

FRB保有債券残高の推移を示したの図(2018.12)

この図から、2017年12月頃より、FRB保有債券残高の縮小が始まっていることが分かります。

そして、FRB保有債券残高の推移を示したこの図の2017年1月以降を取り出して、米長期金利の推移とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸のFRB保有債券残高のスケールは反転してあります。)

FRB保有債券残高と米長期金利の推移を示した図(2018.12)

この図から直近においては、両者の乖離が拡大傾向にあることが分かります。

3.FRBの金融政策の正常化

ここで、話を進めるに当たって、その前提となるFRBの金融政策について振り返っておきます。

2017年9月20日にFRBは、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく金融政策の正常化を決定していました。

その具体的な内容としては、2017年10~12月は月100億ドル、2018年1~3月は月200億ドル、4~6月は月300億ドル、7~9月は月400億ドル、10月以降は月500億ドルずつ縮小していくというものでした。

つまり、2018年12月末までで、計4500億ドルの保有資産縮小を行う予定であったということになりますが、実際には、FRBの保有資産は、縮小開始前の約4.24兆ドルから、直近の12月19日時点では約3.89兆ドルへと3500億ドルの縮小となっています。

さらに、その内訳を見ていくと、米国債が縮小開始前の約2.46兆ドルから、12月19日時点では約2.24兆ドルへと約2250億ドルの縮小、MBS(住宅ローン担保証券)が同期間で、約1.77兆ドルから約1.65兆ドルへと約1200億ドルの縮小となっています。

ちなみに、政府機関債は元々の規模が小さいこともあり、同期間で約43.5億ドル(約67.5億ドル→約24億ドル)の縮小に過ぎません。

ここでFRBに関しては、日銀などとは異なり、保有する米国債を担保としてドルを発行しているのですが、そのドル発行残高(=マネタリーベース - 超過準備)は直近で、約1.8兆ドルとなっています。

ですから、FRBは保有する米国債をこの約1.8兆ドル以下にまで縮小することはできず、そうなると米国債に関しては、直近の約2.24兆ドルから約4400億ドルしか縮小余地がないということになります。

そうすると、FRBは米国債と比較して流動性の大きく劣るMBSを縮小していくほかありませんが、MBSをこのまま順調に縮小していけるとは思えません。

今後、保有資産縮小に関してFRBは、ますます難しい舵取りを要求されることになると言えます。

4.総括

一般的には、FRBが保有債券残高を減少させていけば、需給という観点からすれば長期金利は上昇(債券価格は下落)していくと考えるのが自然ですが、11月頃から長期金利は低下の一途をたどっています。

そういったことから、やはり長期金利は需給というよりも、経済や景気の見通しの影響を強く受けるのだということを改めて認識させられます。

そして、FRBは今月12月18・19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利を2.00~2.25%から2.25%~2.50%へと引き上げました。

また、来年2019年の想定利上げ回数については2回としていました。

実際この通りに実施されるとは限りませんが、利上げによって米国の景気・経済が冷え込んでしまい、長期金利が低下していくことも十分に考えられます。

一方で、米国では暫定予算切れにより、政府機関が一部閉鎖となっていますが、政府債務残高が直近で約21.7兆ドルと過去最高を更新し続けていることなどから、リスクプレミアムの上昇により長期金利が上昇することも懸念されます。

もちろん、直近の株価急落により、米長期金利が低下していることからも、米国債への需要にはまだまだ強いものがあると言え、今後も当面は長期金利が急上昇するような事態というのは考えづらいでしょう。

5.米金融政策と株価

最後にここでは、12月3日の日本経済新聞に以下のようなデータが載っていたので、それを引用して終わりにしたいと思います。米金融政策と米株価および日経平均株価

これらの図から、過去20年間において、米国の金融政策の転換と日米株価の転換点が似た時期となっていることが分かります。

そして現状では、米政策金利の利上げが打ち止めとなる時期が近いと言えそうです(場合によっては今回12月の利上げで打ち止めとなる可能性もあり得ます)。

となると、日経平均株価に関しては、株価がピークとなる時期が迫っている、もしくは株価暴落への道へと既に足を踏み入れているのかもしれません。

とはいえ、日経平均株価に関しては前回の記事でも書いたように、私の個人的な意見としてそこまで弱気というわけではありませんので、よろしければ以下の記事もご参照いただければと思います。

 

「日経平均株価」のデータ分析(2018.12)(PER・PBR、海外投資家売買動向、日銀ETF買い入れ、ドル建て日経平均、NT倍率、バフェット指数、騰落レシオ、信用評価損益率)前のページ

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