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1.フィッシャー・インベストメンツ率いるケン・フィッシャー氏
今回は、ケン・フィッシャー(ケネス・ローレンス・フィッシャー)氏が率いる、フィッシャー・インベストメンツの2021年9月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ケン・フィッシャーは、故フィリップ・A・フィッシャーを父に持ち、米国有数の著名投資家であると同時に、米国の長者番付「フォーブス400」常連の億万長者でもあります。
なお、フィリップ・A・フィッシャーは、ウォーレン・バフェットが師と公言し、成長株投資の礎を築いた伝説的投資家です。
そして、ケン・フィッシャーは、フォーブス誌に「ポートフォリオ・ストラテジー」というコラムを1984年から長期連載しており、投資に関する著書も数多くあります。
中でも、『Super Stocks』(邦訳:『ケン・フィッシャーのPSR株分析』)では、PSRの有効性をケン・フィッシャーが初めて提唱したと言えます。
ただ、このPSRに関しては、その後の『The Only Three Questions That Count』(邦訳:『投資家が大切にしたいたった3つの疑問』)の中で、広く知れ渡ったことによりPSRは機能しなくなったと述べています。
また、同書には、他人には知ることのできない優位性を継続的に発見し、投資判断を常に改善・修正していくための方法が書かれており、その深い洞察力には驚かされます。
2.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
さて、ケン・フィッシャーに限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、11月中旬頃までには、著名投資家たちの9月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
3.フィッシャー・インベストメンツのポートフォリオ
それでは早速、フィッシャー・インベストメンツの2021年9月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では上位24銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2021年3月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
これらの図からは、両者の違いが分かりにくいのですが、上位24銘柄の中でポートフォリオの組み入れ比率に5%以上の変動があった銘柄をピックアップしてみると、次の5銘柄となりました。
- AAPL(アップル):-6.13%
- VCIT(バンガード・米国中期社債ETF):+8.60%
- V(ビザ):-22.45%
- FB(フェイスブック):+53.31%
- AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ):+57.45%
なお、上位24銘柄には含まれていなかったものの、IEF(iシェアーズ 米国国債7-10年ETF)やSPTL(SPDR ポートフォリオ米国長期(10年以上)国債ETF)といった債券ETFもそれぞれ、6.30%増、9.26%増となっていました。
これにより、21年3月末、21年6月末に続き、21年7月から9月末までの間も、VCITなどの債券ETFを買い増していたことになります。
また、V(ビザ)の株価は、8月頃より軟調な値動きとなっており、10月末には窓を空けて大きく急落していたので、ウエイトを減らしたのが功を奏したと言えます。
一方で、FB(フェイスブック→社名をMeta(メタ)に変更)の株価は、9月中旬より右肩下がりとなっていますが、ウエイトを増加させていたことになります。
4.ポートフォリオへのインパクトが大きかった銘柄と総括
そして、21年7月から9月末までの間に、新規買いされたのは77銘柄、完全売却されたのは57銘柄となっていました。
ただ、それらの銘柄はいずれもポートフォリオへのインパクトが小さかったため、ここではポートフォリオ全体に対する変化率が±0.10%以上であった銘柄について見ていくことにします。
ティッカー | 銘柄名 | 組み入れ比率の変化 |
FB | Meta Platforms Inc | 0.56 |
AMD | Advanced Micro Devices Inc | 0.37 |
VCIT | Vanguard Intermediate-Term Corporate Bond ETF | 0.26 |
LRCX | Lam Research Corp | 0.24 |
MSFT | Microsoft Corp | 0.12 |
IXN | iShares Global Tech ETF | 0.12 |
AMZN | Amazon.com Inc | 0.11 |
GOOGL | Alphabet Inc | 0.1 |
AAPL | Apple Inc | -0.34 |
V | Visa Inc | -0.78 |
この中で補足するとしたら、次の3銘柄になるでしょうか。
-
AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ):半導体企業
業績好調。株価も右肩上がり。割高感がかなり強い。 -
LRCX(ラム・リサーチ):半導体製造装置メーカー
業績好調。株価も右肩上がりだが、ここ半年ほどは揉み合い。割高感はあまり強くない。 - IXN(iシェアーズ グローバル・テクノロジーETF)
MSFT(マイクロソフト):18.16%、AAPL(アップル):17.15%、NVDA(エヌビディア):4.64%、TSMC:2.93%、V(ビザ):2.61%、ASML:2.48%、ADBE(アドビ):2.26%、の7銘柄で約5割を占める。
この表からも分かるように、ハイテク銘柄への投資が目立ちます。
実際に、IT関連銘柄のポートフォリオに占める割合は、ここ3年ほど増加傾向にあり、21年9月末時点では27.5%と、確認できる2009年以降で最大となっています。
21年6月末では、26.4%でしたので、そこからの3ヵ月間で、1%以上もIT関連銘柄のウエイトを増やしていたことになります。
なお、参考までに、IT関連銘柄で21年7月から9月末までの間に買い増しされた銘柄は以下のものとなっていました。
ティッカー | 銘柄名 | 組み入れ比率の変化 |
AMD | Advanced Micro Devices Inc | 0.37 |
LRCX | Lam Research Corp | 0.24 |
MSFT | Microsoft Corp | 0.12 |
CRM | Salesforce.com Inc | 0.08 |
ADBE | Adobe Inc | 0.08 |
AMAT | Applied Materials Inc | 0.07 |
INTC | Intel Corp | 0.04 |
INTU | Intuit Inc | 0.03 |
ASML | ASML Holding NV | 0.02 |
ORCL | Oracle Corp | 0.02 |
CSCO | Cisco Systems Inc | 0.02 |
TOELY | Tokyo Electron Ltd | 0.02 |
SONY | Sony Group Corp | 0.02 |
MRAAY | Murata Manufacturing Co Ltd | 0.01 |
OMRNY | OMRON Corp | 0.01 |
AZPN | Aspen Technology Inc | 0.01 |
WIX | Wix.com Ltd | 0.01 |
ソニーを新規買い、村田製作所やオムロンを買い増ししており、視野の広さを感じさせられます。
ここまで示してきたようなハイテク銘柄は総じて割高となっていますが、それでもこうした銘柄の組み入れ比率を増やしているということは、そうしなければインデックスに対して後れをとってしまうということなのでしょう。
11月より、FRBによるテーパリング(量的緩和の縮小)が開始される見込みとなっていますが、緩和的な環境がしばらく続くことには変わりなく、利上げもまだ先となりそうです。
そうなると、これらのハイテク銘柄への逆風はそこまで強いものではなく、まだしばらくは好業績に支えられた堅調な値動きが続くものと思われます。