相場のデータ・指標

「米国株(S&P 500)」のデータ分析(2020.12)(PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差)

ここでは、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.S&P 500とPER

まずは、S&P 500に採用されている500銘柄の平均PERとS&P 500の長期推移を見ていきます。

S&P500とPERの長期推移を示した図(2020.12)

そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。

S&P500とPERの直近の推移を示した図(2020.12)

この図から、1990年代後半以降では、ITバブル後やリーマン・ショック後のような特殊な状況を除くと、PERは概ね15倍~35倍で推移しているといえます。

そこで、同期間における、PERが15倍~35倍に相当する株価とS&P 500の推移を示してみたのが以下の図になります。

S&P500とPER別株価の推移を示した図(2020.12)

S&P 500は、コロナショックにより急落し、一時PER20倍を割り込む局面もありましたが、12月末のPERは35倍を超える水準となっています。

なお、2000年前後のITバブル前にはPERが35倍近くまで上昇する場面もありましたが、2008年のリーマン・ショック前のPERは25倍程度までの上昇に過ぎませんでした。

そして、コロナショックの際も、PER25倍程度からの下落となっていました。

2.S&P 500とCAPEレシオ

次に、景気循環調整後の株価収益率(PER)である、CAPEレシオ(シラーPER)とS&P 500の長期推移を見ていきます。

S&P500とCAPEレシオの長期推移を示した図(2020.12)

そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。

S&P500とCAPEレシオの直近の推移を示した図(2020.12)

CAPEレシオでは、一般に25倍を超えると株価が過熱圏にあるという見方がされます。

このCAPEレシオでも、コロナショックにより、一時25倍を下回る局面が見られましたが、直近では35倍近くにまで上昇していることが見て取れます。

ちなみに、ここ数年を除いて、過去に30倍を超えたのは、1929年の世界大恐慌の前や、2000年のITバブルの時だけであり、2008年のリーマン・ショック前には25倍以上で推移はしていましたが、30倍まではいきませんでした。

また、CAPEレシオに関しても、15倍~40倍に相当する株価とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。

S&P500とCAPEレシオ別株価の推移を示した図(2020.12)

この図からも、直近ののS&P 500は、2000年のITバブル時ほどではなくても、2008年のリーマン・ショック前よりは割高な水準にあることが分かります。

ただ、2008年のリーマン・ショック前には、何年もの間にわたってCAPEレシオが25倍を超えて推移していましたし、コロナショック前も2年ほどは30倍前後で推移していました。

そういった意味では、CAPEレシオで割高だと判断されたとしても、これによって相場転換のタイミングを計ることは難しいと言えます。

PERやCAPEレシオはあくまで参考程度のものだということです。

3.S&P 500とブルベア指数

続いて、代表的なブルベア指数である、Investors Intelligenceの Sentiment Index(Advisor’s Sentiment)について見ていきます。

このSentiment Indexについて分析している、Yardeni Researchのレポートから一部を抜粋したのが、以下の図です。

S&P500とブルベア指数の推移を示した図(2020.12)

この図では、Bull / Bear Ratioが3倍以上となっている期間が赤色の線で示されており、その期間では強気派が多いことを示しています。

この図から、コロナショック前の期間では、赤線が密集しており、強気派が多かったことが分かります。

そして、直近においても再び赤線の密集、つまり強気派の増加が認められます。

陽極まれば陰となるではありませんが、この先も赤線の密集が続くようであれば、相場の調整がいつ起きても不思議ではないでしょう。

4.S&P 500と長短金利差(米国債利回り差)

最後に、長短金利差として、米10年国債利回りと米2年国債利回りの差(=10年国債利回り-2年国債利回り)を見ていきます。

※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年国債利回りを短期金利として扱っています。

そして、米国の長短金利差とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。(なお、見やすくするために、右軸の長短金利差のスケールは反転しています。)

S&P500と米国長短金利差の推移を示した図(2020.12)

この図からは、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック前に米国債利回り差が0%以下と、2年国債利回りの方が10年国債利回りよりも高い状態で推移する「逆イールド」と呼ばれる状態になっていることが分かります。

そして、2019年の8月末から9月初めにも、この長短金利差(米国債利回り差)がゼロからマイナスとなっていました。

なお、過去3回あった「逆イールド」では、発生から景気後退までに1年7ヵ月から2年10ヵ月の期間がありました。

そういった過去の例からすると、「逆イールド」発生からの期間的には短いかもしれませんが、新型コロナウイルスの感染拡大により、既に景気後退局面に入っている可能性は大いにあります。

5.総括

S&P 500は直近で3700を超え、過去最高値を更新する動きとなっています。

これは、新型コロナウイルスの感染拡大の収束が見通せず、それにより金融緩和が長引くことを見据えての動きだと思われます。

また、S&P 500の上昇は、GAFAMのような一部のグロース株により牽引されていると言えます。

そして、グロース株の株価が上昇している背景には、世界的な低金利があります。

しかし、長短金利差の図から見て取れるように、米国の長短金利差はやや拡大傾向となっているのが気になりますが、これは米長期金利が0.9%超にまで上昇しているためです。

常識的に考えれば、金融緩和を継続している中で、米長期金利がこのまま上昇していくことは考えづらいでしょう。

ただ、米ドルや米国債に対する信認の低下による、リスクプレミアムの拡大が原因となると、話は別です。

ビットコインや金(Gold)価格の上昇を見ると、もしかしたらそういった可能性もあるのかもしれないと思われますが、単に緩和マネーが流入しているだけのようにも思われます。

いずれにしても、今後の株価を占う上でも、米長期金利の動向には注意を払っておく必要がありそうです。

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