1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 株を買うなら最低限知っておきたい ファンダメンタル投資の教科書 改訂版
- 著者:足立 武志
- 出版日:2019/1/24
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、ファンダメンタルズ分析
まずは、本書の概要からです。
本書では、資産運用に精通した公認会計士である足立 武志氏によって、ファンダメンタル投資について書かれています。
なお、本書の章立ては、次のようになっています。
- はじめに
- 改訂版の発行にあたって
- 序章:「決算書を使った銘柄選び」とは?
- 第1章:情報満載! 会社四季報を使い倒せ!
- 第2章:業績をタイムリーに知る! 決算短信のチェックポイント
- 第3章:決算書に関連した代表的バリュエーション指標
- 第4章:中長期で狙いたい成長株投資への挑戦
- 第5章:大失敗しないための買い方・売り方
- あとがき
2.株式の3分類
第1章では、株の種類として次の3つが挙げられています。
- 成長株:売上や利益が年々増加していて、今後も増加が見込まれる企業の株
- 割安株:企業価値と比較して、株価が割安になっている企業の株
- 復活株:どん底から不死鳥のようによみがえる企業の株
まず、成長株を探す際には、以下の点に注目するとあります。
- 過去3年程度の業績の推移を見て、売上高と利益が毎年増加傾向にある
- 過去10年間の業績が、増収増益の傾向で推移
- 当期と来期の売上や利益の予想が増加する見込み(増加スピードが鈍化していない)
次に、割安株を探す際には、「PER」「PBR」「配当利回り」といった株価指標をもとに探すとあります。
最後に、復活株を探す際には、赤字続きながらも赤字額が縮小している企業や、前期は赤字であったものの当期以降は業績が回復する予想である企業を探すとのことです。
また、財務欄を以下のような項目をチェックして、倒産の危険性が低い企業を選ぶとも述べられています。
- 自己資本比率が低い(自己資本がマイナスのため算定不能)
- 現金同等物に比べて有利子負債が多い
- 営業キャッシュフローがマイナス
- 累積損失がある(利益剰余金が▲表示)
- 債務超過である(自己資本が▲表示)
- 赤字が3年以上続いている
- 継続企業の前提に疑義の注記がある
3.決算短信のチェックポイント
第2章では、決算短信のチェックポイントについて説明されています。
決算短信は、決算発表書類の「速報版」という位置づけで、原則として企業の四半期ごとの決算日から45日以内の発表が要請されており、1ページ目の「サマリー情報」とそれに続く「添付資料」から構成されます。
まず、「サマリー情報」には、業績や財政状態、キャッシュ・フローの状況などが記載されていますが、特に注目すべきは、当期の売上高と利益の実績および、来期の売上高と利益の予想です。
続く「添付資料」の中では、「経営成績等の概況」の箇所に、当期の業績や今後の見通しなどについての企業自身の説明文が書かれていますので、ここも読んでみるといいでしょう。
そして、第2章では、貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書についても簡単に解説がなされています。
その中には、「一般的に、損益計算書の「営業利益+減価償却費」と、キャッシュ・フロー計算書の「営業キャッシュ・フロー」の額はおおむね同じになります」という記載もあります。
そのため、この両者の金額に大きな差が表れていたら、粉飾決算の兆候であると言うのです。
とはいえ、個人的な実感としては、営業CFは営業利益と比べて、年によるバラつきが大きかったり、営業CFが営業利益よりも小さい年も多かったりするように思います。
ですので、実際には粉飾決算の兆候をつかむというのは容易ではないでしょう。
4.代表的な株価指標
第3章は、代表的な株価指標についての内容となっています。
まずはPERについては、以下のようなことが書かれています。
- 企業の成長性の高低によりPERの水準は大きく異なる
- 利益が毎年安定しており成長のほとんどない企業のPERは10倍前後で落ち着いていることが多い。
- (予想)当期純利益が前期より増加すると見込まれている企業であれば、(予想)PERが20倍を下回っていれば、割安ととらえてよいでしょう。
- 特別損益の影響を排除した実質PERを計算する
- PERの計算上必要な当期純利益の金額は特別損失の影響を受けるためブレが大きくなってしまう。
- 企業の法人税等の税率が35%弱であることを考え、特別損益の影響を排除した「実質PER」を、「経常利益×65%」を実質的な当期純利益として計算する。
- PERが低いのにはそれなりの理由があるはず
- 株式市場全体が下落、低迷している
- 業績の悪化や成長の鈍化を株価が先取りして織り込んでいる
- 不人気のため安値に放置されている
また、PBRに関しては、次のように述べられています。
- 高PBR銘柄は、市場が売上や利益の伸びといった成長性を高く評価している結果として高PBRになっただけで、高PBRであることをもって割高と判断するのは正しくないと言えます。
- PBRが低いのにはそれなりの理由があるはず
- 株式市場全体が調整局面にある
- 含み損の実現や業績の悪化による純資産の減少を株価が先取りして織り込んでいる
- 不人気のため安値に放置されている
- 正しい低PBR銘柄の選び方
- 毎期黒字を計上している
- 無借金、あるいはそれに近い状態
- 営業キャッシュ・フローが毎期プラス
続いて、ROEについては、ROEが高いほうが株価は上昇しやすいとありますが、これは真に受けない方が良いでしょう。
ROEに関してはその変化率(低ROEから高ROE)こそが重要であり、高ROE銘柄の場合にはモメンタムが強いことも加味しないと機能しないからです。
さらに、配当利回りについても触れられており、配当性向が50%以内に収まっていれば、配当金の支払い余力が高いと考えてよいとのことです。
5.成長株投資
第4章は、成長株についての内容となっており、本書では成長株を次のように定義しています。
- 過去3年以上売上や利益が増加を続けている
- 当期以降も、売上や利益が増加をする見込みである
基本的に、成長株を割安株と同じ手法で見つけようとするのは難しく、成長株へ投資するときは、PERはそれほど気にする必要がないと言います。
成長株でPERが高いのは、プロ投資家が「この企業は将来業績が伸びる!」と予想した結果、そこまで株価が買い上げられているという証拠でもあると言うのです。
ただ、PERが高いということはそれだけ将来への成長期待も大きいということであるため、成長が鈍化したり業績が悪化した場合には、株価の下落が大きくなってしまうことには注意が必要です。
また、上記以外の成長株選びのポイントとして、以下のようなものが挙げられています。
- ROEが高い銘柄を選ぶ
- 大型株より小型株のほうが大きな上昇が期待できる
- 著者は、時価総額が1000億円未満の銘柄を小型株と位置付けています。
- ただ、小型株ではボラティリティが大きくなる傾向がある。
- 成長株にもかかわらず、PERが低い銘柄を探してみる
他にも、次のような点などについて言及されています。
- ROEとROAから、「レバレッジ経営」の有無を見極める
- レバレッジ経営とは、金融機関などから多額の借り入れを行い、積極的な事業展開により多額の利益を獲得しようとする経営戦略のこと。
- 事業が順調に推移すれば株価の上昇も大いに期待できる反面、事業に失敗したときは最悪倒産のリスクもある、というハイリスク・ハイリターンな経営手法。
- 極端なレバレッジ経営をしていなければ、ROEとROAにはそれほど大きな違いはなく、せいぜい2~3倍程度である。
- 外的要因により業績が大きく変動してしまう銘柄は、成長株のカテゴリーから外したほうが無難
- 外的要因とは、国内外の景気や資源価格、為替レート、金利など。
- 例えば、建設株、自動車株、鉄鋼株、商社株、証券株、銀行株などが挙げられる。
そして最後に、投資すべき「成長株」を見極めるポイントとして、以下のようにまとめられています。
- 高成長:売上高や利益が年々増加
- 高収益力:ROE10%以上、ROA5%以上をキープしているか?
- 将来の成長余地:売上高や総資産がまだ大きくないか?
- 株価の上昇余地:株価がまだ大きく上昇していないか?
6.買い時・売り時の見極め方
第5章では、買い時・売り時の見極め方について書かれています。
まず、株価のトレンドを、「株価が移動平均線の上にあるか下にあるか」と「移動平均線が上向きか下向きか」で、大きく以下の4つのパターンに分類しています。
- 株価が移動平均線の上+移動平均線上向き:上昇トレンド
- 株価が移動平均線の下+移動平均線下向き:下降トレンド
- 株価が移動平均線の上+移動平均線下向き:下降トレンドだが上昇トレンドへ転換の可能性も
- 株価が移動平均線の下+移動平均線上向き:上昇トレンドだが下降トレンドへ転換の可能性も
これを踏まえた上で、いくら業績が良い銘柄でも、次の2つのルールだけは必ず守るべきだと言います。
- 株価の下落途中で買わない
- 適切なタイミングで買うというのは、株価が上昇している上昇トレンドの局面で買うということ。
- 不適切なタイミング、つまり株価が下落している下降トレンドの局面で買うことを控えるだけで、失敗を未然に防ぐことができる。
- 損切りの実行
- 万が一株価チャートが下降トレンドであるにもかかわらず買ってしまったとしても、「損切り」さえ適切に実行していれば、浅い傷で乗り切ることができる。
- 移動平均線や直近安値を下回ったら損切り。
- 上記の損切りラインでは損失が買値の10%を超えてしまう場合には、「買値から10%下回ったら損切り」のルールに従うのがよい。
また、株式投資では、利益が伸ばせる局面ではできる限り大きな利益を目指すことが重要であるため、株価が上昇トレンドにあるならば、そのトレンドが続く限り、持ち株は保有を続けるべきだと述べられています。
なお、株価のトレンド判断に使用する株価チャートと移動平均線の組み合わせの例として、「日足チャート+25日移動平均線」「週足チャート+13週移動平均線」「月足チャート+12ヵ月移動平均線」が挙げられています。
特に著者は、日足チャートを主に使っているとのことです。
日足チャートでは、毎日株価をチェックする必要がありますが、トレンドの転換をいち早く察知することができます。
同時に、日足チャートでは「ダマシ」(トレンド転換のサインが示されたものの実際はトレンドが転換しなかった)も多くなる点には注意が必要です。
7.総括
本書では、会社四季報や決算短信の見方について豊富な図解とともに書かれており、その部分はとても分かりやすく実践的な内容だと言えます。
一方、株価指標に関しては、代表的な指標に対する基本的な説明がなされてはいますが、ROEなどのように誤解を招くような内容も見受けられ、あまり参考にはしないほうが良いでしょう。
とはいえ、本書の手法では、成長株を買うにしろ割安株を買うにしろ、株価と移動平均線によってトレンドを判断し、上昇トレンドにある場合にのみ買うとされています。
そして、株価が逆行し、特定の条件を満たした場合には損切りを徹底するというスタイルであることから、これさえ遵守すれば大けがをすることは防げるでしょう。
実際に著者も、「実は、株価のトレンドに沿って売買していくだけでも、株式投資で十分に利益をあげることが可能です」と述べているように、確かにこのトレンドに沿った売買というのは投資において非常に重要な要素となります。
その上でさらに、「決算書による銘柄選びと株価のトレンドに沿った売買を組み合わせるのが非常に効果的です」ともあります。
しかし、『ファンダメンタル投資の教科書』と表題にあるにもかかわらず、その肝心な「決算書による銘柄選び」の部分の内容が浅薄なように感じてしまいました。
ただ、繰り返しにはなりますが、第1章と第2章の会社四季報や決算短信の見方については、投資初心者の方には参考になる内容であることは間違いありません。
最後に参考までにですが、株価のトレンド判断(モメンタムの判定)として、私の場合は過去6ヵ月~15ヵ月の高値更新を用いています。
そういったこともあり、筆者が好むという「日足チャート+25日移動平均線」によるトレンド判断では、特に割安株においてダマシがかなり多くなってしまうように思われます。
実際、モメンタム戦略に関する書籍などでは、モメンタムのルックバック期間(観察期間)として1年間が用いられることが多く、推奨もされています。
もちろん、これに関しては著者も言うように好みや使い勝手等の問題もあるかと思いますので、人それぞれということになるのかもしれません。