1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 臆病者のための億万長者入門
- 著者:橘 玲
- 出版日:2014/5/20
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、インデックス投資、ファイナンシャルリテラシー
まずは、本書の概要からです。
本書では、目先の利益を求めるというよりも、将来の予期せぬ経済的な変動に備えるための資産運用法について、その前提となる考え方も含めて書かれています。
なお、本書の章立ては、次のようになっています。
- はじめに:金融業界の不都合な真実をすべてのひとに
- 第1章:資産運用を始める前に知っておきたい大切なこと
- 第2章:「金融の常識」にダマされないために
- 第3章:臆病者のための株式投資法
- 第4章:為替の不思議を理解する
- 第5章:「マイホーム」という不動産投資
- 第6章:アベノミクスと日本の未来
- 終章:ゆっくり考えることのできるひとだけが資産運用に成功する
2.本書の具体的な内容
本書は、当ブログでこれまでにレビューしてきた以下の4冊の中から、そのエッセンスを抜き出して、要約したような内容となっています。(リンク先はレビュー記事になります。)
- 『臆病者のための株入門』
- 株式の理論価格の算出法
- 世界株投資
- 『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』
- 人的資本を考慮したポートフォリオ構築
- 蓄財優等生と蓄財劣等性を分ける「期待資産額」
- ドルコスト平均法
- 『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』
- 「お金持ちの方程式」
- 為替・不動産(住宅ローンによる持ち家の購入)
- 生命保険・医療保険
- 『国家破産はこわくない 日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 改訂版』
- 未来の3つのシナリオ
- 「国家破産」に保険をかける金融商品
具体的に書かれている内容は上記の通りですが、『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』の中にある「マイクロ法人」に関する内容については、本書では触れられていません。
そして、ここでは上記書籍のレビューでは触れていなかった点や、本書にのみ書かれている内容について、レビューしていきたいと思います。
3.実際の人的資本はどれくらいか?
まず、本書でも「人的資本」なるものについて書かれており、私たちが持っている資産(資本)の全ては、次のようなシンプルな2つの式で表せるとあります。
- 総資本=人的資本+金融資本
- 金融資本=金融資産+不動産+年金資産+相続財産など
また、この初めの式にある「人的資本」については、以下のような試算があります。
人的資本のリスク(割引率)を8%とすると、65歳の定年まで働くサラリーマン(生涯年収3億円)が入社時に持っている人的資本の価値は約1億3500万円になる(入社時の年収250万円、退職時1300万円、退職金3000万円で試算)。
ただ、この算出方法にはどうしても違和感を感じてしまうのですが、その理由については株式の場合と比較してみると分かりやすいかと思われます。
株式については本書でも、「株価は、将来の1株当たりの利益の総額を現在価値に換算したものである」と書かれています。
つまり、株価は「売上高」ではなく、そこから販管費(人件費や賃料、広告宣伝費など)や法人税などを引いた「当期純利益」を基に算出されるというわけです。
であるならば、人的資本もこれに倣って、額面年収ではなく、手取り年収から、1年間の住居費や水道光熱費、食費、通信費、交際費などを引いた「(年間の)余剰金」で計算するべきではないかと思うのです。
そうなると、上記の例のように、入社時に人的資本が1億円以上もあるはずはなく、せいぜい1500~2500万円くらいになってしまうのではないかと考えられます。
この金額は「余剰金」の額によって大きく異なってきますので、いかに支出を抑えるかが重要だと考えることもできます。
さらに、人的資本が思ったよりも小さいとなると、若いときから、金融資産の運用について真剣に考える必要があることも分かるでしょう。
4.PERとROE
本書の第3章では、PERやROEについて言及されています。
まずPERについて、日本では株価分析にPERの実績値ではなく予想PERが使われているのに対し、米国市場では予想PERはあくまでも参考で、株価水準はPERの実績値で判断されると書かれています。
また、日本で予想PERが使われる本当の理由は株価を割安に見せることにあり、その結果、投資の勧誘に有利になるとも述べられています。
予想PERは各社の業績見通しに基づいたものであり、業績見通しは努力目標でもあるので、下方修正されることも多いと言うのです。
次にROEについてです。
ROE(株主資本利益率)は、株主資本に対する純利益の比率であるため、自社株買いなどで株主資本を減らせば、ROEを高くすることができます。
あるいは、株主から資金を調達する代わりに、債券発行や銀行からの借り入れで負債を膨らませれば、ROEをかさ上げすることもできるのです。
一方で、そういった要素を除外するため、資本金と負債を合わせた総資産に対する利益率を見る、ROA(総資産利益率)という指標もあります。
ただ、ROEでもROAでも、日本企業は欧米企業と比較して半分程度しかなく、その理由は儲けが少ないからで、売上高利益率もやはり欧米企業の半分程度しかないのです。
これは、日本では正社員の解雇が事実上不可能なため、余剰人員を一斉に吐き出し、不採算部門から撤退することができないためです。
しかし、仮に米国のように整理解雇ができるようにしてしまうと、その代償として日本の失業率も欧米並みに高くなり、自殺者が急増するなど大きな社会問題になることが予想されるのです。
5.不動産
第5章は、不動産についての内容となっています。
まず、マイホームと賃貸について、市場経済ではどちらかが絶対に得だということはあり得ないと書かれています。
とはいえ、利に聡い企業の多くが賃貸を選んでいるということは、いまの日本では賃貸の方が得になることを示唆しているとも述べられています。
また、不動産市場はインサイダーマーケットであり、プロと素人の情報量に大きな格差(情報の非対称性)があると言います。
そして、インサイダーマーケットでは、情報は中心から周縁へと拡散・劣化していくことから、不動産投資のノウハウというのは、結局のところ「いかにしてインサイダーになるか」に尽きると言うのです。
さらに、不動産の営業マンは、顧客に持ち家を勧めながら、自分たちは賃貸住宅に住んでおり、マイホームを購入するのは、会社内で出世して有利な取引が許されるようになってからだ、とあります。
このように、「不動産のプロ」の行動を観察すれば、どのような選択が経済合理的か分かるだろう、とのことなのです。
6.総括
冒頭にも書いたように、本書は橘 玲氏の投資に関するいくつかの書籍のエッセンスをまとめたような内容となっています。
そのため、冒頭に挙げた4冊と内容が重なる部分も多く、それらを既に読まれたことのある方にとっては、本書をあえて読む必要性というのは低いように思われます。
一方で、そのいずれも読んだことがないという方は、本書だけを読めば事足りるでしょう。(併せて各書籍のレビュー記事もお読みいただければと思います。)
そして、本書における著者の主張を集約すると、次のようなものになります。
- 大手銀行や証券会社、保険会社などの勧めてくる金融商品は、情弱(情報弱者)向けのぼったくり商品である。
- 国家破産が間近に迫るまでは、普通預金だけで資産を守ることができる。
- 資産運用をするにしても、世界株ETFをドルコスト平均法で購入すれば十分である。
なお、本書では触れられていませんが、著者によるマイクロ法人の活用法に関する内容は一読の価値があります。
これは、(マイクロ)法人を利用することで、所得税・住民税や、健康保険・年金といった社会保険料を最適化するといった内容です。
これに関しては、『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』の中でも触れられています。(リンク先はレビュー記事になります。)
また、このマイクロ法人に関する内容のみに興味がある方は、同氏の『貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』という書籍を読まれてみてもよいでしょう。(リンク先はamazonのページになります。)