1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 国家破産はこわくない 日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 改訂版
- 著者:橘 玲
- 出版日:2018/1/19
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:投資戦略、株式投資、デリバティブ
まずは、本書の概要からです。
本書は、2013年3月に出版された『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』の改訂版となります。
本書では、「国家破産」という経済的リスクに対して、保守的な人たちが、金融市場でヘッジする(保険をかける)ための方法について書かれています。
なお、本書の章立ては、次のようになっています。
- 文庫版まえがき
- まえがき:「高金利・円安・高インフレ」のアナザーワールドにようこそ
- 第1部:序
- 第1章:<近未来小説>日本人を待っていた浅い眠り
- 第2章:最悪のなかの最善を探せ
- 第2部:破
- 第3章:普通預金は最強の金融商品
- 第4章:たった3つの金融商品で「国家破産」はこわくない
- 第3部:急
- 第5章:財政破綻時の資産運用戦略
- 第6章:経済的リスクを”奇跡”に変える
- あとがき:海外投資はしなくてもいい
2.破滅シナリオの第1ステージまで
本書の根底にあるのは、大地震や原発事故、戦争や内乱などといった破滅的な事態とは異なり、財政破綻のような経済的な混乱では、市場で何が起きるかを予測することが可能だという考え方になります。
その上で、日本経済の将来シナリオとして、次の3つのものが想定されています。
- 楽観シナリオ:アベノミクスが成功して、高度経済成長が再び始まる
- 悲観シナリオ:金融緩和は効果がなく、デフレ不況がこれからも続く
- 破滅シナリオ:国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る
まず、「悲観シナリオ」のデフレ不況における最適な資産運用は、普通預金となります。
次に、「楽観シナリオ」でも、リスクを取って株式に投資すればそれなりの利益が得られるでしょうが、保守的な投資家にとっては、金融資産を普通預金にしておくのが良いと言います。
最後の「破滅シナリオ」では、日本国の財政破綻をさらに3つのステージに分けて考察しています。
- 第1ステージ:国債価格が下落して金利が上昇する
- 第2ステージ:円安とインフレが進行し、深刻な金融危機が起き、国家債務の膨張が止まらなくなる
- 最終ステージ(国家破産):日本政府が国債のデフォルトを宣告し、IMFの管理下に入る
破滅シナリオでは地価や株価は確実に下落しますが、第1ステージにおいては、市場の変化に乗り遅れることなく、金利上昇のメリットを享受できる普通預金が有利だと述べられています。
つまり、「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」、および「破滅シナリオ」の第1ステージまでは、普通預金こそが最強の資産運用だということです。
3.破滅シナリオの第2ステージ
続いて、破滅シナリオの第2ステージに進むと、もはや普通預金では資産を守ることができなくなります。
しかしその場合でも、ネット証券などで買える3つの金融商品だけで、大切な資産に「保険」をかけられると言います。
それは、財政破綻では、以下の3つの経済的な現象しか、原理的に起こり得ないからです。
- 国債価格の下落(金利の上昇)
- 円安
- インフレ
そして、これらの危機は次の3つの金融商品だけで、かなりの程度ヘッジすることが可能だと言うのです。
- 国債ベアファンド
- レバレッジがかけられているため、国債価格が上下に細かく動く通常の相場では、基準価額が右肩下がりに下落していく。
- 金利の上昇局面(破滅シナリオの第1ステージ)で購入し、下落しても保険と割り切って、金利の上昇を待つのが投資戦略の基本となるだろう。
- 外貨預金
- 円安による円資産の価値の減少に保険をかけるとしたら、為替コストの安い米ドルを保有するのが第一選択肢。
- 物価連動国債ファンド
- インフレによる資産の目減りを防ぐことの代償として、デフレになると(名目での)損失が生じてしまう。
なお、金(gold)に関しては、人々の共同幻想によってその価値が担保されているに過ぎず、その幻想が消えてしまえば無価値となってしまうため、金投資は純粋なギャンブル(投機)であると述べられています。
ただ、金に対するこの考え方というのは、やや行き過ぎのように思われます。金本位制が採られていたという過去の歴史は決して軽いものではないからです。
でなければ、中国やロシアなどの中央銀行が金を買い増したりはしないでしょう。
特に現在のように、先進各国で大規模な金融緩和を行わざるを得ないような状況下では、金がさらに輝きを増す機会というのが訪れても不思議ではありません。
量子コンピューターが実用化され、信頼に足る暗号通貨が開発されたりすれば話は別でしょうが、それも当面は考えにくいものです。
確かに、金は配当や利子を生まず、ポートフォリオの中心となることはまずありませんが、そのごく一部を金に割り当てるという選択肢はあるのではないでしょうか。
4.破滅シナリオの最終ステージ
さて、破滅シナリオの最終ステージのような状況下で、国家がしばしば行ってきたのが、国債のデフォルトと預金封鎖です。
当然のことながら、預金封鎖や新円切替が行われれば、資産は莫大な損害を被ってしまうため、これまでの資産防衛戦略はほとんど無効となってしまいます。
ただ、現在の金融テクノロジーでは、正しい準備さえしておけば、クリックひとつで全資産を海外や仮想空間に移すことを可能となっています。
国債のデフォルトにせよ、預金封鎖にせよ、国家はそれほど俊敏には動けないため、流動性の高い金融資産を保有している限り、政治的なリスクを過度に恐れる必要はないと言うのです。
そして、預金封鎖に対する最も簡単で確実なヘッジは、日本国の法が及ばない海外の金融機関に資産を移転することです。
とはいえ、マネーロンダリング対策などで海外に銀行口座を持つことは難しくなっています。
また、各国間での課税情報の自動交換により、海外金融機関の口座情報も日本の税務当局に把握される可能性があります。
そのため、海外に多額の資産を保有する場合に、預金封鎖などから資産を守るためには、究極的には日本国籍を放棄したりしないと難しいのかもしれません。
5.経済的リスクを奇跡に変える
本書の終盤では、リスクを承知の上で、デリバティブ(金融派生商品)などを使って、財政破綻から資産を守ると同時に、株価や為替の大きな変動から利益を得る戦略が紹介されています。
具体的には、以下のようなものが挙げられています。
- FX(外貨証拠金取引)
- 信用取引による個別株の空売り
- 財務内容が脆弱な金融機関の株(信用不安)
- 債務が多い企業の株(金利負担が大きくなる)
- 輸出産業の株(円高で打撃を受ける)
- 日本株ベアファンド(ベアETF)
- 株価指数先物の売り(日経平均先物など)
- 株価指数オプションのプットオプションの買い
- アウト・オブ・ザ・マネーのプットオプションを買う
もちろん、これらに関しては、初心者が安易に手を出すことは勧められないと書かれています。
しかし将来、大きな経済的混乱によって、もしもマーケットで大博打を打つ以外に生き延びる方法がなくなったとしたら、オプションを買ったりすることが、最も経済合理的な選択になるかもしれないということなのです。
6.総括
本書では、「破滅シナリオ」の第1ステージまでは「普通預金」だけで問題なく、第2ステージでも、「国債ベアファンド」や「外貨預金」、「物価連動国債」の3つだけで、ほぼヘッジできると書かれています。
この「国債ベアファンド」などの3つの商品は、いずれも平常時であれば全く利用したいとは思えないようなものですが、確かに危機的状況下では検討するに値するものかもしれません。
とはいえ、あまりに早く買ってしまわないように注意は必要です。
実際に、もう10年、20年以上も前から、評論家が日本国債の売りを煽ったり、ヘッジファンドが空売りを仕掛けたりしていますが、ことごとく失敗しているからです。
そして、おそらく今後も日本国債が暴落するような事態というのは、以下のような理由から、当分はやってこないでしょう。
- 日本国債はほとんどが自国通貨建てである
- 政府の資産には、かなりの額の流動資産(現預金・有価証券など)がある
- 日本は世界最大の債権国である
そういったことも加味すると、本書の主旨は、無理して投資などせず、普通預金だけで構わないということになると考えられます。
特に「海外投資」については、「あとがき」のタイトルにもあるように、しなくてもいいと書かれています。
また、「あとがき」では、大手証券会社が高齢者の無知を利用して、ハイリスクな金融商品を販売しているのは、「振り込め詐欺」と同じだとも述べられています。
ですから、「国家破産」で脅して手数料の高い金融商品を売りつけるような、金融機関の営業マンの話は全て無視するに限ります。
自分の資産を守る方法は、自分で見つけなければならないのです。
本書の内容だけでは、とても十分だとは言えませんが、その方法を見つける一助にはなってくれるのではないでしょうか。